第20話 マイペースだなぁ in 異世界
ギリギリですね!
年末最後、よいお年を!
どうやら立ち寄ったこの街は、ダルタス王国の最端の街で隣国との国境に近い街らしくそこそこ大きい。
一週間ほど前にギルドで大暴れした上にギルド長を昏睡させたのだが、通信機器がまだ復旧していないのか……特に検問に引っ掛かる事無く、門を通って街へと入れた。
「今日はここで一泊していくわよ。一縷君も見張りで昼夜逆転させてしまっているから……ここでゆっくり休みなさい」
「うーん……」
そういう理由らしくて、夜から今までずっと起きてて眠い。後で顔でも洗ってスッキリしとかないと眠ってしまいそうだ。
まずは馬車も一緒に泊められる宿を探しに街を彷徨いた。どうせ一泊しかしないし、何処でもいいけどね。
「あ、詩葉さん!あの宿とか良さそうじゃないですか?」
「そうね……こっそりギルド長の懐から頂戴したこのお金で払うし、少し高そうな宿でも良いかも知れないわね」
なんだか、盗賊みたいな台詞が聞こえたけど……眠いから突っ込む気力もない。それに、あのギルド長からなら迷惑料として貰ってもいいくらいだしな。
宿も二部屋取れるらしく、白金さんの最終決定でこの宿に決まった。馬を併設されている馬小屋へと連れていき、部屋に入った所で最近の不規則な生活の疲れが一気に出て……俺は夢の中へと旅立ってしまった。
目を覚ましたのは、夕方で……既に買い物をし終えた三人に平謝りをしたけど、三人とも仕方ないと許してくれた。が、それはそれで申し訳無さが少し増える。今度、何かしらでお詫びしないとな。
「一縷君、ご飯を食べに行くわよ。この辺はお店も多いし、外で食べようって話になったのよ」
「了解。食べたい物とか決まってるの?」
「私はですね~お肉が食べたいですっ!」
「リコルは何でもいいよ!」
じゃあ、肉かな?肉と言えば、ダンジョンで食べた謎の肉のイメージしかないからちゃんとした肉も久し振りに食べたいな。
「じゃあ行きましょうか。荷物は忘れずにね」
「あいよ。リコル、疲れてたらおんぶしてあげるからな~」
「本当!?なら、疲れてないけどおんぶして!」
「あ~リコルちゃんだけずるいですよっ!一縷さん、私もおんぶしてくださーい!」
勿論、おんぶするのはまだ背丈の小さいリコルだけだ。俺達は宿を出て、飲食街を右往左往して店を見て回る。ギルド長からぶん取った金が意外とあったらしく、食事代もそこから捻出するらしい。それだけは感謝だな。
◇◇
店を出ると、何やら人だかりが出来ていた。白いローブを被った者を中心として。その回りに数人の男が護衛の様に立っていて、何やら物々しい雰囲気だ。
「い、一縷さん、詩葉さん!あれっ!聖女様ですよ?きっとそうです!」
「聖女様?え?そういう称号?」
「多分、教会に勤めている選ばれし子ね。国に一人くらいは居るわよ?まぁ、信仰心の深くない国だとなんちゃって聖女を勝手に選んでるらしいけど」
あぁ……たしか、女神スフィアも言ってたな。教会も最近は名ばかり借りていると。でも、中にはああやって巡業している人もいるんだな。
ルフィスはたしか、スフィアを慕うというか熱心に信仰しているんだったっけ。聖女を見て舞い上がる気持ちは何となく察せた。
「じゃ、帰るか」
「そうね、帰りましょうか」
「えぇ!?な、なんでですか!せっかくの聖女様なのですよ?お話を聞いていきましょうよっ!」
はぁ……ルフィスはまだ勉強が足りてないみたいだな。聖女だぞ聖女。厄介事が起こるに違いない。
「いーやーです!聖女様の巡業なんて滅多に無いんですよ!これを気に一縷さんもスフィア様について知るべきですっ!」
「早く帰るぞ!あと、静かにしろって……騒いだら……」
「貴方にも神スフィア様のお言葉を授けましょうか~?」
ほらぁ~。しかも授けましょうだぞ?ヤバいって絶対。言葉なら、この世界に来る前に授けられてるっつーの。
ルフィスは目をキラキラと輝かせているし、リコルもそれに釣られているし……。はぁ、明日も早いし連れて帰ろう。なんなら俺の方がスフィア様を知ってるまである。
「すいません、スフィア様は信じてますが明日も早いので失礼しますね、いや、本当にすいません。頑張って下さい……ほら、帰るよ」
「えぇー!」
「お兄ちゃん、聞いていこうよ~」
「二人共、後で教会の事を話してあげるから帰るわよ……来ない子は置いていくわよ?」
白金さんの脅しが効いたのが、リコルは掌を返した様について来て、ルフィスもしぶしぶといった様子でついて来た。
――この時はまだ、あんな事になるとは思いもしなかった。
◇◇◇
宿に戻った俺達は白金さん達の部屋に集い、地図を広げながらルートの確認や次に入る街までのおよその日数の計算、所持金やアイテムの確認をしていた。
今の所は不備も無く、後は帝国へ向かうに当たって気を引き締めるだけである。
「お姉ちゃん、教会について教えて!」
「良いわよ。……その前にリコル、お姉ちゃんなら二人居るから『詩葉お姉ちゃん』と『ルフィスお姉ちゃん』にしなさいな?」
「それならもう少し縮めてさ、『詩葉姉』と『ルフィス姉』とか良いんじゃない?」
それなら、俺は一縷兄かな?何だか距離感が近くなった気がするし、悪くない。
「良いですねっ!リコルちゃん、呼んでみてください!」
「えっ……その、あの……詩葉姉、ルフィス姉!」
「うっ……うん、まぁ悪くは……ないわね」
白金さんも満足なご様子。ルフィスはリコルに抱き着いてるし、微笑ましいな。
「それじゃあ、教会について話すわね。前置きとして、教会に属す全員がそうという訳ではないのだけど、教会とは……」
「「教会とは……?」」
ごくり……。と、息を飲む音がどこからか聞こえて、白金さんが口を開いたら。
「信者を騙してお布施を稼ぐ、悪徳集団よ!」
「「えぇーーー!!?」」
白金さん、この世界の教会まで敵に回したら……魔王の前に俺達が討伐されちゃうけど、そこんとこ大丈夫?
「そ、そんな筈はありませんよ!教会の方はスフィア様の教えを広めようと……」
「えぇ、だから全員では無いと最初に言ったでしょ?私が前に居た時からそうだったのだから……きっと受け継がれているわ。より悪化してね」
「て言うかさ、一神教でしょ?何を広めてんの?」
俺が知らないだけで、他にも祀られている神様がいるのかも知れないけど、俺が元居た世界ほどじゃないだろう。一神教だとして、教えだって広めなくても……ってあれ?
「な、何?俺も不味い事言った?」
「いえ……私も盲点だったわ。これで小銭稼ぎの悪徳集団と証明出来そうよ!」
いや、そんなにウキウキされても困るんだけど……絶対に辞めさせよう。
「い、いえ……辺境に住んでいる子供から大人までも、スフィア様の教えを知らない方は居るのですよ!だから、広めないといけないんです」
な、なるほど。だとしたら、やはり……この辺で巡業しているのはちょっと怪しい。確かに国の端の方だけど、ここは国境沿いで街も大きいからな。
「や、止めておこうか、この話は。ギルドに楯突いたばかりだし、教会まで敵に回したら動きづらそうだ」
「お兄ちゃんが一番マトモなのね!」
そうだよ、リコル。よし、リコルの教育係は俺がやろう。
「リコル、ギルドで暴れて居たのは一縷君よ?」
「そうだった!なら……」
無言にさせてごめんよ、リコル……このパーティーにマトモな人間は、居なかったね。
「まぁ、とりあえず教会だから良い人って訳じゃないから気を付けるように。明日からも移動で大変だと思うけど、後三週間も掛からない筈だから頑張りましょう」
「おう、じゃあ……俺は部屋に戻るな。明日の朝に起こしてください」
「任せて、お兄ちゃん!」
「お休みなさい、一縷さん」
部屋に戻ってきたけれど……さっき寝たから正直に言って眠たく無い。少し槍でも振ってこようかな?
どうせ眠れないしと思い、槍を片手に宿の裏手に行って素振りをし始めた。ダンジョンで出会ったモンスターを仮想の敵として、いくつものパターンでシャドー素振りを淡々とこなしていく。
額の汗を拭って、少しだけ集中を散らした時になってようやく、街が騒がしく遠くが明るくなっている事に気付いた。
「火事……か?」
自分の泊まっている宿で無かった事にひとまず安堵して、俺は火事のあった方へと行くことにした。野次馬根性と明日の話題のタネにすべく、そんな理由で俺は夜の街を走り出した。
◇◇
火災現場へ辿り着く頃には既に消化はされていたが、街並みというか……仕方ないのだろうが、隣のお店や家との距離が近い為、出火のあった家はもとより、隣家まで火の手が回ってしまった様だ。
「おじさん、原因ってなんですか?」
「あぁ?わしゃ知らん」
そうですか……何かすいません。
それから二、三人に聞いてようやく原因が分かった。燃えた建物は少し高級な宿。今は姿が見えないがそこには聖女様も泊まっていたらしい。ここまで情報があれば、パターンが絞られる。
その一、聖女が火を着けたパターン。恐らく理由があるのだろうが……はた迷惑。
その二、聖女を狙う刺客が火を着けたパターン。聖女は悪くないのかもしれないが、宿屋の経営をしていた人からは恨まれるだろうな。可哀想に。
その三、聖女は全く関係なく、原因は他にあった。このパターンだと、聖女を疑った事は墓場まで持っていこうと思う。
恐らく、このどれかのパターンだと思うが……とりあえず聖女の姿が見えないのが不味い。ここに来るまでの間は魔物に襲われる事もあったが、特に問題も無かった。街に寄る度に何かに巻き込まれるとか嫌すぎる。
「か、帰ろう!帰ってとりあえず寝てしまおう」
俺は夜なのに集まって来た他の野次馬の方々を掻き分けて、夜道を走り出した。魔石で動いてるっぽい電灯も少ない道を……。
◇
えっと、右で……ここを左で、よし!一旦戻って来れたぞ。宿はあっちだから……行くか、今度こそ帰りたい。
俺が方向音痴な訳では無く、この暗闇が悪い。入り組んだ路地と暗闇は何かのスキルが無いと無理だろう。
「夜中、迷子になってましたとか報告したくないぞ……」
迷路にでも迷い混んだかの様に思えて心細いし、暗いし……もう明るい所で朝まで待機しようかという所で不運は重なってやって来た。
「きゃっ!?ご、ごめんなさい~……」
「あ、いやこちらこそ……どこに居るかハッキリしませんせど」
こんだけ暗いし灯りも持ってなければこうなるか……。とりあえず、お互いの立ち位置くらいハッキリしないと。
「すいません、手を出しているんですが……分かりますか?握って貰えると助かるのですけど」
「えっと……ここじゃなくて、ここでもなくて……あっ」
よし、手を繋げた。
「立てますか?」
「はい~。ありがとうございます~……」
手の大きさ、声のする位置、匂い……頼れる五感に集中すれば判る。女の子だ。そして、こんな時間に一人で女の子が出歩くだろうか?――否だ。
頭は良くないかも知れないが、これでも察しが悪い訳では無いと思っている。だから心の中で叫んでおこう。
運命神やイタズラの神やこの世界の神のバカ野郎ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!
スッキリした。なら先を見よう……とりあえずこの手を離すわけにはいかないだろう。女の子が弱点な所は……そのうち治そう。
「多分、聖女ですよね!?そして、どうせ追われてるんでしょう!?」
「え~……なんで~?でも、はいそうです~」
“おい!どっちに行った!?”
“お前のスキルで探すしかねぇぞ?”
“まだ、範囲の中だ、ついてこい”
なんで、こんなにポワポワしているというか……焦りの雰囲気も無いと言うか……。
「とりあえず隠れられる所にでも行こう!」
「お願いします~迷子だし心細いんですよ~。貴方にも神スフィアの加護があらんことを~」
ポワポワした聖職者め。まぁ、うん……行くか、走ろう。
俺とこの聖職者は夜の道をどこか分からないまま走り出して、とある小屋の中に身を隠した。
“おい、どこだ?”
“この辺の筈だ……”
“周辺を探せ!……逃がす訳にはいかないぞ”
……どうやら小屋からは離れた様だな。
「聖女、事情を話して貰えますか?」
「…………。(近い~近い~殿方がこんな近くに……はわぁ~)」
……返事、して欲しいんだけど?状況の説明を求めるのだけど?
「聖女、聖女!」
「あ、はい~。これも加護のお陰ですね~さ、祈りましょう~」
祈ってる場合じゃないんだけどなぁ~。それから簡単な祝詞を唱え終わるのを待った。
「聖女、それで……その、いったいどうしてこんな事に?」
「お供として来ていた聖職者の一人で襲われそうになったのですよ~、まぁ、魔具で防いだのですが~衝撃で燃えてしまいまして~」
お……おう。思ってたのと違うな。聖女としての活動が嫌になって逃げ出したのかと思ったけど……意外とヘビー。この世界の悪い所が出てしまってるな。
普通は聖女を襲うなんて……あるのか?例えば、利権争い。それとも聖女の地位を落とすために?
「それで逃げているのは分かりました。それで探してる男達は?普通に連れ戻す為ですか?」
「恐らくはそうです~。これでもこの国の聖女に選ばれていますので……教会のトップなのですよ~?」
そうか……教会のトップ。でもそれはこの国での話だよな?逃げてどうするのだろうか?勿論、怖いというのは分かるが……。
「聖女、どうするの?冗談とかは抜きにして……行く宛とか、ここで逃げるとしてもさ」
「私はこの国の生まれですが、親の顔は知りません~産まれてすぐに教会に引き取られたそうなので~」
やめて……もう、大丈夫。お腹一杯だから……。
「それで、幼少期から祈りをして~友達なんか居なくて~教会の象徴とし生きてきました~。聖女として、神スフィアの教えを広める事は良いのです~……けど、お人形さんは……ね」
「そ、そうでしたか……。あっ、ほら俺も男ですし、今は近くに居ない方が良いですよね。気付けなくてすいません……」
男に襲われかけたんだったな……少し距離が近いだろう。離れ……離れ……。
「あの、離してもらえますか!ほら!距離が近いでしょ?怖いでしょ!?」
「ん~!!逃げそうです。逃げそうな雰囲気を感じました~」
ちっ、鋭いぞこの聖女。そろそろ放っておけなくなりそうだし白金さんやルフィスに怒られる案件だ……それになんだか、捨て犬を見付けてしまった気分。
「聖女、俺は冒険者です。普通に生活をしている訳ではありませんし、旅の途中です。だから貴女を連れていく訳にはいきません」
「旅……分かりました~」
良かった。でも、流石にこのまま放置も出来ないし……どうにかはしないとな。さっきの男達に突き出せばいいのかな?
「旅のお供には聖女。そういうお話を読みました……貴方の言いたい事はそういう事ですね~?」
「ちっがーう!!聖女、あんたは帰る!俺は旅に出る!」
“おい!この辺から声がしたぞ”
“片っ端から扉を開けていけ!”
「やっべ、逃げるよ聖女!」
「はい~でも疲れたのでもう走れないです~」
だぁ~っ!!ちくしょう!聖女の一人くらい背負ってやるよ!!
「逃げるぞ」
「進むのですよ~」
朝まで隠れたり逃げたり。明るくなって道がハッキリと見えるまで鬼ごっこは続けられた。
◇◇◇
なんとか宿まで戻ってきたが……ヘロヘロだ。なんでこんな事しているのだろうかと何度も問い直し、女の子だからという理由でここまで耐えた。
「くぅ~くぅ~むにょむにょ~」
背中で寝ている為、顔も知らない子をよく運んだと思うよ本当に。……いったい、どう説明すればいいんだろうか?とりあえず部屋に運ぼう。
「良く眠ってらっしゃるよ……本当」
部屋まで運んで布団に寝かせた時に初めてその顔を見た。綺麗な肌に白銀の髪。歳は……分からん。意外と同じ歳くらいかもな。
トントン!
「一縷さん、起きてますかぁ~?」
「お兄ちゃん、朝ですよぉ~」
心拍数の上昇を確認、脳内の思考が九十パーセントカット。
「ルフィス、リコル、白金さんを呼んできてくれないかな?」
「あ、起きては居るんですね!」
「呼んでくるよ~」
それならすぐに白金さんがやって来て、部屋の扉をちょこっと開いて白金さんだけを部屋に入れる。
そして、すぐに俺が座るとまたやましい事があると思われる為、落ち着いて二人同じタイミングで座る。
「違うんだけど!」
「何がかしら?」
ふむ、最初の感触はまぁまぁだな。まだ取り返せる。
「確かに俺はよく誤解させる行動が多かったと思う。でも、蓋を開けてみたらどうだったかを思い出して欲しい。そして、今回もそうだと」
「一縷君、昨日……私達の部屋から出た後に外へと行ったという事よね?そして、朝にはそこの女の子がいた。しかもそのローブ。聖女よね?あれだけ避けようとしていた聖女よね?」
俺は昨日の出来事を話した。夜の間は鬼ごっこをしていたと……そして、情に流されて連れて来てしまった事も。
「と、いう事でやましい事はありません!でも、厄介事は連れて来ました。すいません!」
「はぁ……一縷君、そろそろ何かして貰わないと割りに合わないわよ?分かってるのかしら?」
えぇ、それは反省していますよ。厄介事を持ち込んでる自覚は一応有りますしね。
「はい……。俺に出来る事ならなん……」
「いま、何でもって言ったわね?聞いたわよ。まぁ、そこまで言うのなら仕方ないから今回も許してあげるわ」
俺に何も言える権利は無いようだ。白金さんの瞳を見れば分かる……『私のいう事を聞きなさい』と、そう語っている。
「ムチャな事は出来ませんよ?出来る事なら……ですからね」
「大丈夫よ。そうね……まずは私に惚れなさい。次は、私に好きだと言いなさい。そして最後に……詩葉と呼んで」
……何だろう。全部聞こえたよ?聞こえたけど……可愛い?あれ、白金さんのキャラが……あれ、どうしてそんな顔を俯けているので?あれ、急に……ちょっと、変な空気が。
落ち着け。えっと……一つ目は何だっけ?『私に惚れなさい』だっけ。これはあれだな。正直に言うともう惚れてる……と思う。だが、ルフィスはと聞かれれば、一緒に居て楽しいし嫌いじゃ無い。ヤバいな、頭も上手く働かないし、優柔不断過ぎるんじゃないだろうか……。
とりあえずは置いておいて……二つ目は、『私に好きだと言いなさい』か。うむ……これも少し置いておこう。
そして、最後が……『詩葉と呼んで』。
「ああああああああああ!!!」
「ちょっと、びっくりしたわよ?いきなりどうしたの?」
分かんない。分かんないけど!!何か頬が熱くなってきた。もう、ヤケクソだ。
「一縷さん叫び声が……どうしました!?」
「詩葉、惚れた!好きだ!……あっ」
「えっ」
「きゃっ、お兄ちゃん大胆!」
おおぅ……何これ。何これ……何これ何これ!!
「いや、今のは……その、ね?ほら、あるじゃん?」
「あ~お兄ちゃんと詩葉姉が赤くなってる!」
「い、一縷さん!ど、どどどどどういう事ですか!?詩葉さんも!!」
かくかくしかじかという事で、ルフィスにも説明をして何とか落ち着いて貰えた。だが、そこからまたひと騒ぎが起こってしまった。
「私にも私にも私にも!一縷さん、私にも!!」
「いや、そのぉ~恥ずかしいかなって」
「お兄ちゃん、頑張って!男の甲斐性?ってのを見せるんだよ!」
いや、甲斐性って……。
「お兄ちゃん!ルフィス姉が泣いちゃう、泣いちゃうよ!早く!早く!」
「いやその…………好きだよ、ルフィス」
「にひっ、ふふふふふ……一縷さん、もう一回、もう一回!」
「ルフィス、駄目よ!話し合ったでしょ」
おっと、不穏な……?話し合いだと?あーはいはい。あれね、仕組んだね詩葉さん。チャンスが訪れたから完全に仕組みましたね、これ。
「はぁ……詩葉さん、ルフィス……ついでにリコルもだな。今回は俺が悪かったから騙されるけど、次は騙されないからね?」
「えぇ、今回だけで十分よ。次からは普通にいけばいいのだから」
「そうです!覚悟してくださいね、一縷さん!私の虜にしてみせますからね?」
「あのぉ、流石にそこまで騒がしいと~起きますけど~?」
あぁ……聖女。完全に忘れていたよ。それどころじゃなくてね……。
「どうしようか、この子」
「貴女、聖女ね。いったいどうしたいの?」
「せ、聖女様!お話を、お話を!」
「えぇ、構いませんよ~貴女にもお話を~」
おっと、ルフィス……君は今、絶対に近づいちゃダメな子だな。聖女のマイペースが加速する。
「聖女、このパーティーのリーダーはこの詩葉さん。自分がどうしたいか伝えると良い。……詩葉さん、聖女は思ったよりマイペースだから気を付けてくれ」
「あらぁ~その声、貴方が昨日助けてくれた冒険者様ですね…………好き」
おっと、聖女の様子がおかしい。多分、疲れているんだな。
「聖女、簀巻きにして放り出すわよ?」
「あら~それは嫌ですよ~。そうですね、あなた方は旅をなされていると聞きました~。神スフィアの教えを広めるのに都合が良いので乗せていってください~」
「えっ!聖女様と旅が出来るのですか!?行きましょう、詩葉さん!お願いします!!」
後は詩葉さんの決めたことに従うだけだ。判断はお任せしよう。
「私達のパーティーにただ飯食らいは要らないわ」
「私は聖女。教えを広め、お布施を頂くので……少ないですが、資金の足しになりますよ。我が儘は言いますし、体力は無いですけど」
デメリットがデカいなー。プラスでマイペースも追加だな。
「それに、聖女なので魔物も近寄らなくなりますよ?まぁ、起きている間ですし、夜も早めに寝ますけど。」
「……一縷君、どう思う?私だけじゃ、流石に難しいのだけど?」
そうだなぁ~。聖女の肩書きがどこまで通用するかは分からないし、戦闘も期待出来ない。マイペースで教えを広める事以外に何が出来るのかは分からないけど……。
「とりあえず、様子見でいいんじゃない?」
「……そうね。聖女、貴女はパーティーの見習いよ。良いわね?」
「はい~では、さっさと行きましょう~」
見習いと言われたのに、いきなり仕切りだす聖女。この図々しさは……一周回って凄いと思うよ。
「じゃあ、さっさとこの街からおさらばしようか。聖女は姿を消してね!」
「えぇ、急ぎましょうか」
「聖女様、お話を聞かせてくださいね!」
「えぇ、良いですよ~。貴女は信仰心が厚いのですね~」
俺達は、馬車に乗って魔法で聖女の姿を隠し街を抜け出した。次の街まではまた、移動続きの日だな。
移動中は暇だし、久しぶりにステータスの確認をしておくか。
━━━━━━━━━
イチル キリシマ Lv50
HP 1770/1770
MP 12800/12800
STR 122
VIT 104
DEX 111
AGI 126
INT 90
LUK 59
スキル
魔力制御 Lv2
槍術 Lv4
ユニークスキル
『消滅魔法』
称号
『消滅の勇者』
『救う者』
『幼女キラー』
━━━━━━━━━
おお!レベルが八上がっているし、槍術が一つ上がっているじゃん!おし、おし!おぉぉぉぉぉしっ!!
「不思議な魔法だったですね~凄いですね~」
「ありがとうございます。聖女は何か魔法とかって使えるんですか?」
教会の聖女と言えば……ほら、あれだ。対アンデットのスペシャリスト的なイメージがある。凄いポワポワしてるけど、本当は何か出来るのかもしれない。
「使えますよ~、一縷さん……私の目を見てください」
言われた通りに聖女を見つめる。
「……」
「……」
「…………」
「…………」
「………………なんです?」
「………………あれぇ?」
何が疑問なのかこっちが疑問である。今、何かをしていたのだろう。
「白金さん、分かる?」
「白金さん?」
おっと、つい慣れで……。
「うっかりだよ、ごめん、詩葉さん」
「まぁ、良いでしょう。……今の聖女のは催眠術の類いよ。一縷君を軽い酩酊状態にして、操ろうとしたのでしょうけど……レベルの差が少しあったのでしょうね」
あぶなっ!?この聖女、なんて術を掛けようとしてやがんだ。
「魔法の選択おかしくないですか?」
「冗談ですよ~。とは言っても、他のも似たような物ですよ~?リラックス状態にしたり、落ち着けたり、纏めるならば催眠ですかね~」
「それで、懺悔に来た方のお話を聞いたりするのですね?凄いですぅ~!」
俺はルフィスの頬を軽く叩いた。
「な、何ですか?」
「いや、聖女から催眠術を掛けられてるのかと思って……いや、違うんなら良いんだけど」
「嫌ですね~、私だって聖女。魔法の使用には注意しますよ~」
そうなんだ。あるんだ、常識……そっちの方が驚きである。
「一縷君、夜の見張りをお願いするから昼には寝ておいてね。そうね、せっかく一人増えたのだから、聖女かルフィスも……っと、やめましょう。夜更かしは美容の敵だものね」
まぁ、夜は見張りをしながら近寄ってくる魔物を倒す時間だ。焚いている火の灯りが見える範囲でならなるべく槍で倒し、数が多いなら魔法で消す。
秘密の訓練の様で、実は少しだけはっちゃけているのだ。それを見られるのは恥ずかしいし、一人の方が逆に油断しないからな。
「了解。見張りは任せておくれ~。まぁ、次の街まで急ぎながらもゆったりさせて貰いますか」
立ち寄った街で巡業中に仲間の聖職者に襲われて逃げ出した聖女。そんなとんでもない荷物を拾い、俺達は帝国へ向けて再出発をした。
あ、ローファンタジーで短編を書きました。よろしければそちらもお願いします!




