表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
プリムラ・ジュリアン  作者: 汐野 柑名
2/2

視線の先 (side S)


アイツを好きになったのは、ほんの些細なきっかけだった。


そう、あれは入学式の後。

自己紹介が終わり、アイツは俺の席の斜め前の席だった。

その時はまだ名前も覚えようとさえ思っていなかった。


先生のこれからの予定の説明が終わり、俺は席を立った。

そして、下駄箱に居たアイツの横を通りすぎる瞬間。



「あ、新橋・・君……だよね?」



「……あぁ」



「これからよろしくね。それじゃぁ、また明日教室で」




そう言って、アイツは俺に手を振って帰って行った。

その日から自然と目がアイツを追うようになった。


何気なく交わした言葉とアイツの無邪気な笑顔に、俺は一目惚れしていたんだ。







ふぁ~、と欠伸をひとつかいて、蘇芳は目を瞬かせた。

冬に近づいている為か、朝の空気は寒い。

朝早くに家を出た蘇芳は、行き交う人が少ないなか、学校に向かって歩いていた。

蘇芳の所属するサッカー部の朝練に出るためだ。

蘇芳の通う学校のサッカー部は、特に強いというわけではない。

それでも、頑張って大会に向けて練習しているのだ。


それに今度の土曜日には練習試合がある。

対戦校は、同じくらいの強さの相手だ。

それに伴って、監督はレギュラーを決めるらしい。

そう聞いて、蘇芳は積極的に朝練など自主的に出て、レギュラーになろうと頑張っていた。



学校に近づくにつれて、蘇芳は苛々しながら、ブレザーのポケットに手をつっ込んだ。

部活の方は順調にいっているが、恋愛に関しては、蘇芳は焦っていた。

矢代日向(やしろひなた)に告白して、もう二ヶ月経とうとしている。

あれから何度か声をかけようとしているものの、どうも避けられているようで、なかなか話せずにいた。

どうやら蘇芳の態度でわかったのか、クラスの奴らに噂や冷やかしなどされているからだ。


視線が合えば逸らされ、この二ヶ月間蘇芳は落ち込んでいた。


(ほっといてくれっつーの!)


蘇芳は切実にそう思った。

『友達から』と言われて、なかなか友達のように話せず、これでいつになったら『彼氏彼女』になれるのやら・・・。

今や日向と目さえ合わなくなり、蘇芳は苛々とした日々を過ごしていた。



―――――

―――



「お前、顔恐いぞ」



休み時間、日向に向けていた視線を、蘇芳は目の前にやってきた金髪の少年に向けた。



「あ?…真幸かよ」


「俺で悪かったな。

それより、そんな睨んでたら、矢代が恐がるぞ」



この金髪の少年は、蘇芳の幼馴染みで親友の梨本真幸(なしもとまさき)だ。



「別に睨んでねぇーよ!」



そう言って真幸を睨むと、呆れたような表情で見てきた。

蘇芳は、むっとしながら、視線をまた日向に向けた。

その時、ちょうど日向もこちらを見ていたのか視線が合った。

でもそれはすぐに逸らされてしまった。

ショックを受けた蘇芳は、顔を俯かせた。



「…はぁ。蘇芳さ、今度の練習試合にでも、矢代誘ったら?」



真幸の言葉に蘇芳は顔を上げた。

少し拗ねたような寂しそうな表情で言った。



「話せないっつーのに、どうやって誘うんだよ」


「ま、幼馴染み兼親友のために、俺が協力してやるよ」



にかっと笑った親友と、一向にこちらを向かない日向を見て、蘇芳は頷いた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ