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5話 どっちの杖がいいですか?

 ミーシャの店へ向かう途中何も会話が無いのはつまらないだろうとトーマが何気ない会話を始める。


「なあ魔法使いの爺さんってどんな人だったんだ?」

「お爺さんですか? 長いお髭に毎日真っ白なローブを着ていましたよ。なかなか面白いお話をしてくれるお爺さんでした」

「ん……? 何処かでそんな爺さんを見たことがあったような」

「あっ、そういえば「ワシはいろんな物を発明するのが趣味なんじゃ」とか言ってました」


 ミーシャが渋い顔をして似てるのか似てないのかよくわからないモノマネを披露した。

 似てる似てないではなくかわいいと言った感じのモノマネだ。


「真っ白なローブに長い髭……発明が趣味……って俺をここに送った本物の神様かよォォォ」


 トーマは電撃を浴びたかのような声を上げる。


「わわっ、どうかしたんですかトーマさん?」

「あーいや、その、なんだ、もしかしたらその爺さん俺の知ってるやつかと思ってな」


「えっ!?何処かで会った事があるんですか?」

「まあそんなとこかな、けどあの爺さんが使ってた物ならかなりすごいものに違いないな」

「えへへっ、トーマさんの役に立ちそうで嬉しいですっ」


 ミーシャは自分が褒められたかのように嬉しそうな笑顔をうかべる。


「しかしあの爺、ここに住んでたとか聞いてねーぞ。今度あったら髭を毟ってやる」

「駄目ですよトーマさん。あんな白くてふわふわで綿飴みたいなお髭を引っ張ったらお爺さんがかわいそうです。」


 ミーシャが人差し指を立ててトーマを注意する。


「いや流石に美味しそうはないだろ」

「そうですか? 前に食べさせて貰ったときは凄く甘かったですよぉ」


「食べたのかよ!!」

「はい、その日の気分でお髭を付け替えてたみたいですよぉ」

「あの威厳がありそうな髭って付け髭だったのかよ!!」


 トーマはその衝撃に口をパクパクさせる事しか出来なかった。 


 そうこうしているうちにミーシャのお店である三毛猫商店が見えてきた。

 2階建ての建物であり1階がお店、2階が居住スペースとなっている。

 1階の店舗には商品がずらりと所狭しと並んでいて、薬草を作るためのすり鉢や色々な物を混ぜて調合する錬金釜なども置いてあり、作業場も兼ねた作りになっている。

 2階にはベランダがあり洗濯物を干したり、沢山並んでいる植木鉢で薬草の栽培を行っている。


 お店の全貌が見えてきた所でミーシャが不意に大声をあげた。


「あ゛~っ、今日はお店が休みで誰もお客さんが来ない予定だったから洗濯物干してたんだったよぉ。トッ、トーマさん、すっ少し待っててくださいぃぃ」


 ミーシャはピューとお店の方に飛んで行ってしまった。

 トーマがふと三毛猫商店の2階を見上げるとミーシャの物であろうかわいい下着が何個か干してあるのが確認出来た。


「絶景だな……」


 トーマがその景色に見とれていると下から声がかかる。


「トーマ、ミーシャに変な事したら僕が許さないからね?」

「あ、ああ今の所は大丈夫だ」


 トーマは暴走する本能を抑え冷静になるために素数を数え始めるのだった。

 そうこうしていると2階のドアからミーシャが姿を現す。わっせわっせと洗濯物を回収していく姿が実にかわいい。

 トーマがふと神様の物であろう杖に目線を移すと妙に既視感がある。


「あれってホームセンターとかで売ってる普通の物干し竿だよな……」


 そして数分後、ミーシャが洗濯物を家の中に押し込んでベランダの物干し竿を外してトーマの元へと持ってきたのだった。


「お待たせしましたトーマさん。どうぞ、これがお爺さんから頂いた伝説の杖ですよぉ」


 ミーシャは自分の家に凄い杖が置いてあるなんて感動だよぉと言った感じの顔をトーマに向けた。杖もいつの間にか伝説の杖って事になってしまっている。


「な、なあミーシャ本当にこれが爺さんから貰った杖なのかい?」

「はいっ、そうですっ! これがその伝説の杖ですよぉ。」

「ま、まあ見た目がアレなだけで実は凄いって事もあるしな……とりあえずこの杖を構えて触媒になる石ころを使って念じればいいんだったな?」

「はいっ、それとファイアーボールの触媒に使う火炎石の欠片ならわたしのお店でも沢山扱っているので少し差し上げますねっ!」

「まあ、お店のランクが低いから火炎石の欠片くらいしか置いて無いんだけどね」


 ミーくんが横槍を入れる。


「それじゃあ、ここで魔法を使ったら危ないのでお店の裏にある広場に行きましょう。練習に使えるダミー人形とかもあって凄いんですよぉ」

「ああとりあえずそこで練習してみよう」

 

 広場はミーシャの店から歩いて2分程度の場所にあった。周りを見ると数人の少年達が魔法の練習をしているのが確認出来た。


「じゃあいくぜ! ファイアーボールっ! ボール……ぼーる……る」


 魔法が発動せず声だけが虚しくやまびことなって消えていく。


「本当にただの物干し竿じゃねーか!」


 地面に物干し竿を叩きつけるトーマ。周りの少年達からは「あいつファイアーボールも使えねーの? ダセえ」などの声が聴こえてくる。


「……なあミーシャ本当に爺さんはこれで魔法を撃ってたのか?」

「はいっ、お爺さんには昔この杖で魔物を沢山倒してたんじゃぞってお話をよく聞かせてもらってました……けど何か違うんでしょうか?」


 トーマがどうした物かと物干し竿を広い、ぽんぽんと物干し竿の先を叩いた時に赤い血痕のような物が確認できた。


「物理で殴って倒してたのかよ!」

「わわっ、トーマさんどうかしましたか?」


 突然大声を出したトーマにミーシャが驚きの声をあげた。


「あの糞ジジイ魔法使いのくせに魔法使わずに殴って倒してたのかよ……」

「よくわからないけどその杖は使えないようだね?」


 ミーくんが何かを察して声をかける。


「ああどうやらこの杖は魔法を使うには向かないらしい。けどもしかしたら俺が使えないだけかもしれないし、とりあえず初心者用の杖ってので確認してみてもいいか?」


「はいっ、ちょっと待っててくださいねっ」


 ミーシャはそう言うと店の方へと走っていき数分後いかにも魔法の杖と言った感じの棒を抱えて持ってくるのだった。


「それじゃあ、気を取り直してファイアーボール!」


 魔法名を言い終わると同時に杖の先から炎の球が出てきてダミー人形を燃やすのだった。数秒後ファイアーボールの火が消えるとむくっとダミー人形が立ち上がってくる。練習用の人形だけあってそれなりに丈夫な作りをしているようだ。

 周りの少年達も「やれば出来んじゃん」と言った声を上げる。


「ふむ、一応魔法自体は使えるみたいだね。」


 ミーくんは少し関心して声をかけた。


「じゃあお店にあった杖って伝説の杖じゃなかったんだぁ……」


 ミーシャの方は少しションボリとしているようだ。


「じゃあしばらくはこの初心者用の杖を使う事に……ん、ちょっと待てよ」


 トーマはここに来る前に見た光景を思い出す。ミーシャが洗濯物を取り入れているシーンが頭の中に再生された。

 

 あの時たしかにミーシャの下着が干してあったな……美少女の下着が干してあった物干し竿を手に入る機会なんてそうそうあるもんじゃないしここは……


「せっかくだし俺はこの物干し竿を選ぶぜ!!」


「えっ、それでいいのかい? まだ初級魔法が使える初心者用の杖の方が戦力になると思うんだけど」

 ミーくんが驚きの声を上げた。


「いやいや、俺にはこの物干し竿が凄いパワーを秘めているのが感じられるんだ。」

「まあ君がそれでいいなら僕もとやかく言うつもりも無いけど本当にいいんだね?」

「ああ、問題なんて何もないさ!」


 自信満々のトーマにミーシャが声をかける


「そんなに気に入ったのでしたらトーマさんに差し上げますので大事に使ってくださいねっ」



「家宝にします!」



 トーマは力強く返答した。


――物理マジシャンの誕生である。

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