創世神が創る~失われた物語り~その日、世界が生まれ、妾は主を失った
これは、世界が生まれる遥か昔、神界が創られるより昔、創造神が生まれるより少し前の男女の話し。
遥か昔、小さな白い空間があった。その空間に、白亜の大理石で出来た神殿の様なものがあった。様なもの、と言うのはその神殿は生活感が溢れていたからだった。リビングに、寝室、台所など、生活感に溢れていた。
何故なら、その空間には、二人の男女しか居なかったからだ。二人はいつから存在するのかわからない。いや、いつの間にか白い空間と共に現れた、と言うのがただしいのか。
二人は不思議な力をもっていた。女性は時を操り、男性は空間を操った。そして、二人に共通するのは、万物を創造することだ。
大変仲睦まじかった。神殿以外何もない空間だが、二人は幸せだった。あんな事が起こるまでは、
神殿のリビングで、食器の音が響く。さすがに白ばかりでは、しんどいのだろうか、黒いソファーに、ガラス張りの黒い机、そして、白い陶器のティーセットには、青い絵柄が描かれていた。どれもが落ち着いた雰囲気のある。
「主は、そんなものばかり口にして、飽きないのかの?」
白金色の長い髪の女性は、普段から思っていた疑問を口にする。目の前にいる。同じ白金色の髪の男性は、口に含んだ物を飲み込み、紅茶を流し込む。そして、
「俺はお前とお前の作ったお菓子を食べているだけでいいよ」
彼はそう言いながら、また、彼女が作った焼き菓子を手に取った。彼は殆ど毎日、彼女に作ってくれと頼んでそれを食べている。彼女もそれが習慣になっていた。
一度、「主も創造出来るのだから、自分で創ったらどうじゃ?」、と聞いたが、「お前の手で作った物がいい」、と結局は彼女が作る嵌めになっていた。だが、彼女も満更ではなかった。自分が苦労して作った物を毎日、美味しそうに食べてくれていたのだから。最初は焦げたり、生焼けだったりしたが、それでも美味しそうにたべてくれていた。
「じゃが、この狭い空間で、二人だけって言うのは、少し寂しくないかの?」
この空間には、二人しかいない。二人の生活音しかない静かな空間。風も吹かない。鳥の囀ずりも、虫の鳴き声も、動物も、植物も、ましてや人などいるはずもない。彼女にはそれが寂しく思えた。
「そうか?俺は特に寂しいと思ったことはないけどな」
「きゃっ」
そう言い、お菓子を食べ終わった男性は、女性を膝の上に乗っけた。
「いつも言っているであろう!!いきなり、抱き上げるなと。まったく……。」
彼女は文句をいい、そっぽを向くが寄りかかっていた。これが、彼らの日常。ただ、ずっとこの繰り返しだ。これを幸せと取るか退屈と取るか、それは人それぞれだろう。
「まあ、お前がそう言うなら創るか?暇だしな?」
「ほんとか?」
「ああ、ただ、色々大変だぞ。管理しないといけないし、何が起こるかわからないぞ」
世界を創るのだ。創るより、管理が大変だろう。二人には、世界を創るのは簡単だった。
「何を言うか、それが楽しいのであろう」
彼女は、これからやることに思いを馳せた。二人でなら、なんでも出来るとかんがえていたから。
「この空間じゃ狭いの」
「じゃあ、俺が広げるよ」
二人だけの空間はただ神殿が中心にあるだけだった。二人だけなら、それは広すぎる。だが、これから世界を創るのだ。もっと大きくなくてはいけない。
「それがいいの。」
「じゃあ、どれぐらい広くするんだ?」
「そうじゃのう。六人眷属を創って、その眷属たちに、主の創った空間を分け与えて、それぞれの世界を創造してもらうかのう。……それなら、主との時間も減らないしの」
最後の方は、声が小さくて男性には、届いていなかった。だが、彼は彼女の意見に賛成した。分け与えるのなら、それだけ多くの世界を創造できると、分け与えた空間の責任者をその六人の眷属にするなら、眷属の性格によって、多様な世界が生まれるだろう、と考えた。
「それなら、ここを中心に、広げるか?六人に任せるんだ。広くしないと、世界同士が接触しちゃいそうだしな」
「そうじゃの、大きい方が色々なものが生まれそうじゃの。楽しみじゃ」
こうして、空間の創造が始まった。男性が空間の創造をしている間に、女性が眷属の創造と、眷属同士が話し合いが出来るようにと、神殿の中にある大きな部屋に大理石で出来た大きな円卓を創造することになった。その大きな部屋には、何故か大きな玉座が2つ置いてあった。
この玉座は二人が創った訳ではない。初めからそこにあった。神殿にはこのように、初めから存在するものが多くある。玉座は座り心地はとてもよく、男性はとても気に入ったが、広い謁見の間の様な部屋の奥にあるので、落ち着かない。二人はリビングに移動させようとしたが、神殿と完全に同化していて、動かせなかった。
◆◇◆◇◆
「どこまで広くするかな?」
男性は、空間を神殿中心に大きくするために、神殿の上に立っていた。彼の金色の瞳は空間の端を見据えていた。
空間の外はどうなっているのか、それを確かめたくて、空間の端まで行った事があった。結果は空間は半球状だった。白過ぎてどこまでがこの空間か、わからなかった。突然壁にぶつかる。そこからは行けなかった。壁にぶつかったとき、女性に笑われたが、彼はある恐怖を抱いていた。
それは、この白い空間には、神殿しかないこと。そして、この空間はどこまでが端かわからないようになっていることだ。もし、広くなったら、無事、神殿に戻れるのか?そう頭によぎった。だが、
「まぁ、あいつが楽しみにしてるんだ。狭くて直ぐに埋まってしまったら、愛想つかされるかもな?」
ほんとは、それぐらいで愛想つかされることはない、と分かっているが、楽しそうにあれやこれやと考えている彼女の様子を見ていて、期待以上のことがしたくなっていた。彼は楽しそうに口元を歪め、両手を掲げ、
「空間を支配せし我が命じる。創世神の名の元に、産声をあげよ。これは、世界創造の先駆けよ」
彼がタンッと足を踏み鳴らすと、波紋が広がっていく。そして、白い空間が広がっていく。彼は世界がこれからたくさん生まれるだろうと、考えて、空間が少しづつ大きくなるようにした。彼女が色々とアイデアを出しているのに、場所がありません、では興醒めだからだ。
◆◇◆◇◆
「始まったようじゃの。負けてはいられぬの」
女性は、空間が揺らめくのを感じた。彼が頑張ってくれるのなら、こっちも頑張ろうと気合いをいれた。
眷属を創造するための魔法陣を創り、並べていた。魔法陣は空気中の魔素を吸収し、魔力を溜めている。一気に創造すると魔力が足りなくなってしまう。また、眷属が生まれるまでに、男性とどのような世界を創るか話し合うつもりでいた。
その大きな部屋からでて、神殿の外にいく。空間を創造して、魔力を使いきった男性を迎えにいくつもりだ。また、甘いものをせがまれるかもしれない、と考えながら廊下を歩いていく。魔法陣の一つにノイズが走った事に気が付かずに--
◆◇◆◇◆
女性が神殿を出て、男性を探す。神殿の方から音がして、彼がそこにいると思い笑顔で振り返った。この空間には、まだ二人しかいないはずだった。二人の生活音しか響かない空間だった--
心臓が止まるかと思った。声が出ない。振り返った先に居たのは黒い感情--憎悪、悪意、狂気--絶望その物だった。黒いどろどろとした物を纏いながら、近づいてくる。
ひたっ、ひたっと赤い目をした化け物が、鎌首をもたげている。今まで向けられたことのない感情。彼女は目を閉じた。力があっても、戦いかたがわからなかったから、戦う存在がいなかったから、どうしていいかわからず、受け入れるしかなかった。そしてーー、
来るはずの衝撃は来なかった。不思議に思い目を開けるとそこには、愛しい者の、先程まで探していた者の背中があった。彼は右手を掲げ、
「空間を支配せし……我が命じる。……創世神の名の元、……裁き……を与え……る」
空間が揺らめき、黒い穴が開く。別の空間を創り、そこにこの化け物を封じるつもりだろう。先程、空間を広げたため、魔力が尽きていた。無理矢理力を行使する。体が悲鳴をあげ、崩れてくる。魂が叫び、ヒビが入る。
化け物は抵抗するが、徐々に飲み込まれていく。化け物は最後の抵抗と言わんばかりに、体の欠片を飛ばした。欠片は黒い穴に捕らえられたが、全ては捕らえきれなかった。
「……イスターテに手を出してんじゃねぇ……!!」
「ギャー!!!グルゥアァー!!!グウァー……!!」
化け物は遂に黒い穴に飲み込まれ、空間が消えていく。フッと彼の力が抜ける。地面に叩きつけられる前にイスターテに抱き止められた。
「すまない。……すまない。妾が、妾が寂しいと言ったばかりに……」
彼女は泣きながら謝ってくる。
「そんなに泣くなよ……。可愛い顔が台無しだ。俺は……笑っている顔のほうが……好きだな……」
「何をバカなことを言っている!!」
「本心だよ……」
「主は、主は今……、半身が無くなっておるのじゃぞ!!」
そう、彼は、左側の体が殆どは喰われていた。体の傷口からは呪いと思われる物を流し込まれていた。彼も戦いかたを知らなかった。だから、自分の体を盾にするほかなかったのだ。
無理矢理権能を使ったことにより、体が崩れていく。呪いによって、崩れる速さも早くなっている。
「今まで、あまり口にしなかったけど……」
もう助からない。それが分かっている。これを口にしたら、彼女を苦しめてしまうかも知れない。そう思ったが、言わずには居られなかった……。
「愛してるよ、イスターテ」
「妾も、愛してるのじゃ、オルト……」
二人は顔を近づけ、唇を重ねる。ーーそして、オルトの体が限界を迎えた。
◆◇◆◇◆
イスターテは、耐えきれなかった。自分の我が儘のせいで、一番大切な存在を失ったことが。そして、恐れた。大切な思い出が色褪せるのを--
そして、愛していた者との夢をいつまでも見ていたくて、時を止めた。いつも、オルトと過ごしていたリビングを。そして、自分自身を……。
彼女は彼のお気に入りの場所。玉座に座り、神殿の思い出のある場所を誰にも触れられないように、【時の結晶】に封じた。
玉座の前の円卓の回りだけは、結晶に閉じ込められていない。それをしたら、本当に彼が死んだ意味がなくなるから……。
【時の結晶】に封じ込められた彼女の前で五つの魔法陣が輝いていた。
◆◇◆◇◆
魔法陣から生まれた眷属たちは自らを【創造神】と名乗り、白い空間を五つに別けて、それぞれが世界を創った。
また、あの日、捕らえきれなかった欠片から邪神が生まれた。そして、魔族を産み出して、創造神たちの世界を襲いだした。
こうして、世界は生まれ、邪神も生まれた。
【創世神イスターテ】は眠る。愛する人との思い出とともに……。
世界創造の話と甘党と邪神の話しでした。悲しい話は書くの苦手です。
節分
◆◇◆◇◆
「鬼は外~」
アリアが元気よく豆を投げる。……鬼神化したクレアシオンに。クレアシオンたちはイザベラの持ってきた豆で豆まきをすることになった。そして、彼はイザベラに鬼役を任されていた。これ以上ない適任だと……。
クレアシオンに向けて放たれた豆、それが当たる瞬間、彼の体がぶれた。……何かポリポリと口から音がする。
「……イザベラ、鬼は豆でやっつけられるんじゃないんですか?」
「……そう聞いたのですが……」
二人は聞いていた話と違うことに首をかしげた。
「……ごく。お前らな、鬼が豆ぐらいでやられる分けないだろ?だいたい、俺は天使だ。無病息災を祈るって意味で、魔滅らしいぞ、あと、鬼の目に投げたら退治できたから『魔の目』で魔目ってのも聞いたことがあるな。目玉に当てられたら、誰でも痛いと思うけどな」
クレアシオンはそう言いながら、お茶、お茶~と台所に向かった。豆はうまいが喉が乾いたのだろう。
「……美味しいですね」
「そうですね。アリア様」
豆まきは目に気をつけて楽しんでください。