44話 魔族
調子に乗ってたら長くなりました。
第二十階層を攻略し第二十一階層に降りた後、俺達は一度地上に戻り解散した。
また翌日になり俺達はまたダンジョンに潜り、攻略を進めた。
たった二日で第二十階層まで辿り着いた俺達の速さに、ちまたの冒険者の間で俺達はちょっとした有名人になっていた。
第二十一階層からも俺達は苦戦することなく、無事に第二十九階層まで辿り着いた。
「ミルシー!」
「はい!」
アランの掛け声にミルシーは咄嗟に反応し、地面に手を置き、目の前にいる二足型の魔物の片足を付いている地面を回収した。
「はあ!!」
片足を付いている地面が回収され、魔物のバランスが崩れた。
その隙を突いてアランは魔物の首を刈り取り、魔物は地面に倒れ伏した。
「ナイスミルシー。今のは良いタイミングだったぞ」
「いえ、アランさんもお疲れさまでした」
俺達も皆で戦う事が慣れてきたのか、最初は個々で戦ってきたが、今ではこうして連携して戦えるようになった。
ミルシーのスキルはサポートにも使えるな。
何かやっぱチートじゃないかそれ。
「それにしてもやっぱりミルシーのスキルは凄いな」
「いえいえ、皆さんに比べたらまだまだですよ」
アランの言葉にミルシーは謙遜するが、実際本当に凄いと思う。
不意を突かれたら一瞬で終わらされそうだな。
「にしてももう第二十九階層か」
「早いものだな」
俺とシルバはそう言ってこれまでの事を思い返した。
最初はよく罠に引っ掛かるは持ち物袋を忘れるは色々大変だったが、今ではこうして罠にも注意して引っ掛かる事なくここまでこれている。
よくやったもんだな。
「そういえばアラン、第三十階層のボスって何なんだ?」
「第三十階層は確か、ミノタウロスだな」
ミノタウロスっていうと牛の体をした二足歩行のあれか。
「手に巨大な斧を持っていてミノタウロス自体はCランクだが、その破壊力はAランクの魔物にも匹敵するらしい」
見た目も想像通りだな。
てか破壊力はAランクって相当やばいな。 魔物のランクはCランクが平均だ。
魔物のランクでCからBまでの壁は厚く、それより上は凄腕の冒険者じゃなきゃ対処出来ない。
それがAランクともなるとその強大さは凄まじい。
「だがその分動きが遅い。それぞれ散らばって相手を翻弄しつつやれば確実に勝てる」
だったら大丈夫だな。
俺達の個々の強さはそれぞれ高い。
ミルシーもいるから相手の隙を突くぐらい何て事ないだろう。
それからも俺達は攻略を続けていき、第三十階層に来ていた。
「何か妙だな」
第三十階層を歩いてる内にアランが訝しげにそう言った。
「何がだ?」
俺がそう聞くとアランは辺りを見渡しながら
「魔物が一体も出てきてない」
そう言われると確かにそうだった。
今までは一階層降りる度に毎回魔物と戦ってきた。
だがこの第三十階層に来てからまだ一回も魔物と戦っていない。
「確かにそうですね」
「うむ、言われてみればな」
ミルシーとシルバもアランの言葉に納得しながら言った。
「でも、何で出てこないんだ?」
「さあな。考えられるとしたら、運が良いのか、この階層で何か起きたか、ついさっきまで誰かが倒し尽くして出なくなっているのかだな」
俺の問いにアランが考え込むように言った。
「倒し尽くしたって、何処もそんな形跡ないぞ」
シルバが辺りをキョロキョロしながら言った。
確かにここで倒し尽くしたっていうのなら、何らなの形跡が残っている筈だ。
「悪まで推測だ。確証があるわけじゃない。あったとしても、俺らじゃどうしようもない。あー、せめて魔物の一匹ぐらい出てくれよ。速くしないとボス部屋に...............着いちまったよ」
アランの視線の先にはミノタウロスが待ち受けているだろう巨大な扉があった。
着いちゃったよボス部屋。
「おいおい、どうなってるんだ?」
「変ですね」
「どうしたというのだ?」
アラン達は扉を見て不思議そうにしていた。
確かにおかしいな。
どうなってるんだ?
「と、取り合えず開けるぞ」
そう言ってアランは目の前の扉を開けた。
まあ、ここで何言ってもしょうがないしな。
扉が開かれそこには前と同じ様な部屋があった。
だが今回は目の前のものに俺達は絶句した。
「おい、あれ」
アランが指差した先には血だらけになって倒れたミノタウロスの姿があった。
その隣では血だらけになったミノタウロスを見下ろしている一人の男がいた。
「あぁん?何だてめぇら?」
男は首をこちらに回して俺達を見た。
男は少し黒よりの紺色の無造作な髪に、鋭い目付きで自然と威圧感を与える顔立ちをしていた。
だがそんな部分より俺達はある部分に目を釘付けにした。
男の頭には先端が左右に曲がっている黒い角にがあった。
その姿はまるで
「お前、魔族か?」
俺は男の角を見ながらそう言った。
「何だ?お前俺らの事知ってんのか?」
そう言って男は一度体をミノタウロスに向け手を向けた。
するとミノタウロスの体が段々粒子と変わり、男に吸収されていった。
何だあれ?何のスキルだ?
「その角見れば大体分かるぞ」
「角?あー、これか。なら分かるのも当然か」
男は自分の角を触りながら納得したように言った。
「な、なあケンヤ。魔族って」
アランが今だ状況が飲み込めないのか体を震わせながら男の方を指差した。
見ればシルバとミルシーもまだよく理解出来ていないようだ。
「さっきも言った通り魔族だ。前にも話した事あるだろ?」
シルバとアランには魔族について前に話した事がある。
だからそこまで驚く程ではないと思ったが結構驚いてたな。
「んで、てめぇらは何しにここに来たんだ?」
男は俺達を見ながら言った。
「俺達はただダンジョンを攻略しに来ただけだ。お前こそ何しにきたんだ?」
「俺はただの暇潰しだ。近くに面白そうなダンジョンがあったんで途中から入って遊びに来た」
途中から?どういうことだ?
この男の言い方だとこのダンジョンに入るのは初めてのようだ。
なのに途中からって何なんだ?
「まあ、んなことはどうでもいい。早速だが今からてめぇらには死んでもらう」
男の言葉に空気が凍った。
男から放たれるプレッシャーに俺達は体を硬直させた。
「何でなんだ?」
俺は周囲に気を配りながら言った。
「まだ俺らの存在を知られる訳にはいかねぇんだよ。だからてめぇらにはここで殺す」
どうやら穏便にはいかないんだな。
ていうか存在に関しては大分前から知っていたけど。
そう言って男は地面を一度踏むと俺達の足元から土の針が出てきた。
俺達はそれをジャンプして避けた。
土魔法か!
「よく避けたじゃねぇか」
声のした方に振り向くと男は体に風を体に纏い俺のすぐ近くまで来ていた。
すると男は拳を構えると拳に火が纏われた。
纏われた火が段々と圧縮され、拳が赤く光った。
こいつ違う属性の魔法を並行して使えんのかよ!!
普通魔法は違う属性を並行して使う事は出来ない。俺の属性付与や身体強化等の持続型の魔法は兎も角、人は物事を同時に違うことを考えるのが無理なのと同様に魔法も違う属性を同時に使うのは無理なのだ。
つまりはあいつのユニークスキルでそれを可能にしているんだろう。
男はその拳で俺に殴ってきたが、俺は寸でのところで手をクロスさせガードした。
ドォォォォン!!
拳が俺に触れた瞬間爆発が起こり、俺はそのまま吹き飛ばされ壁へと激突した。
なんちゅう威力だよ。
一撃の威力が俺の火の属性付与をした状態と同等だぞ。
「くそ!!」
俺は直ぐに立ち上がり辺りを見渡した。
どうやら攻撃されたのは俺だけのようで他の奴等はまだ何もされていない。
「ほー、意外とまだピンピンしてんじゃねぇか」
男は関心したように言った。
アラン達も俺の様子を見てホッと安心していた。
「そんじゃ、どんどん行くぞ!」
「させません!」
再び動きだそうとした男にミルシーは上から棘を落とした。
「うお!あっぶね!何だ.....ん?てめぇは」
「喰らいなさい!!」
男が何かを発する前にミルシーは男の足元に穴を空け男を穴に落とした。
落としてからミルシーは手を上にやり一番高い位置に先程回収した地面を出現させ、穴へと落とした。
落とした地面はそのまま落下していき穴へと落ちた。
ドゴォォォン!!
落下したと同時に地面が揺れ、地震が起きた。
地震が鎮まり辺りはシンッと静かになった。
だがその静寂も長くは続かなかった。
「中々良い攻撃してくるじゃねぇか」
地面の下から響くように男の声が聞こえた。
その瞬間落下した地面にヒビが入り砕け散った。
再び空いた穴から男が風を体に纏い飛んできた。
「神風乱舞!!」
竜巻のような風を纏ったシルバは空中に駆け出し、男へと向かってった。
流石のこの速さに空中では対応出来なかったのか男はシルバの刀を諸に受けた。
男は地面へと落ち激突した。
「豪炎の刃!!」
そこに待ち構えていたアランが落下した男の地面をへと巨大な炎の剣を降り下ろした。
落下した地面にはアランの剣によって更に砕け爆散した。
暫くまたこの場に静寂が走り、俺達は息を飲んだ。
土煙が晴れそこには多少傷は負ったものの平然と立っている男の姿があった。
「あー、てめぇら中々やるな。久しぶりだなこんなに傷を負ったのは」
男は首をこきこきと鳴らしながら言った。
「う、嘘だろ」
「効いてないのか?」
そんな男を見て、アランとシルバは絶句していた。
ミルシーも言葉には出していないが、驚いていた。
あの三人の技を喰らってあんだけ動けるのかよ。
「さて、こっから俺の番だ。てめぇら死ぬ準備は出来たか?」
男はそう言うと体から火、水、土、風、闇、光と全属性が体に纏った。
おいおい、こんなんありかよ........。
俺達はその光景に言葉が出なかった。
「そんじゃ潔く死........何だ?」
俺達を殺そうと男は前に出たが何かあったのか立ち止まった。
すると段々顔をしかめた。
「ちっ!!こんな時に..........仕方ねぇ」
そう言うと男は体に纏っていた魔法を解いた。
「てめぇら運がいいな。俺は急な用が出来た。だから今日はこの辺にしといてやる」
そう言うと男は手を親指を上に立たせ
「あばよ」
親指を下にやるのと同時に俺達の地面に穴が空いた。
「なっ!!」
咄嗟の事に俺達は反応できず無抵抗に落ちていった。
俺の視界から男の姿が段々と消えていき体の浮遊感だけが残った。
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