24話 全力
「ぐっ!!」
スティールに胸を貫かれながらも俺は後ろを振り向きながらスティールを殴ろうとした。
しかし、拳はスティールに軽々と避けられ拳は空を切った。
俺は素早く光の属性付与で傷の修復をした。腹に穴を開けられただけあって回復には時間が掛かりそうだ。
俺は傷を修復しながら改めてスティールを見た。目は白目を剥き息は獣の様に荒くなっていて完全に正気ではない。
何より一番の変化は、先程まで纏っていた黒い靄がスティールと同化してスティールの体が全身黒くなっていた。
「殺す・・・・・殺す・・・・・殺す・・・・・殺す」
小さくぶつぶつとスティールは呟き俺を見ている。
にしても、さっきのは油断した。気配が完全に消えていたから倒したと思っていたが、まさかこんな奥の手があったとはな。
奥の手といってもスティール自身こんなの予想していなかっただろう。
差し詰め、魔族に力を借りた代償だろう。
「ケンヤ様!!」
今まで何が起きたか分からず放心状態だったフィーが俺の傷を見て今にも泣きそうな声で叫んできた。
今から彼奴を倒すにしても、今フィーがここにいるのは危険だな。
傷も大分治ってきたみたいだな。
俺は光の属性付与を解除し、今度は足に風の属性付与をした。
そのままフィーを抱え観客席の一番上の所まで飛んでフィーを下した。
「フィーはここに居てくれ。俺は彼奴を倒してくる」
「そんな!!危険すぎます!!」
スティールの下に行こうとする俺を、フィーは泣きながら俺の服を掴んだ。
「心配するな、俺は喧嘩では負けなしだぜ」
「それでも!!私は・・・・」
俺の事を心配するフィーに、俺はフィーの手を振り解き
「そんじゃ、行ってくる」
再びジャンプして闘技場の方へ戻った。
「ケンヤ様ーーーー!!」
後ろでフィーの声が聞こえたが、俺は振り返らず真っ直ぐスティールの下に向かった。
スティールの前に着くとスティールは獣の様な唸り声を上げながら俺を見ていた。
「さっきはよくもやってくれやがったな。倍にして返してやるから覚悟しろや!」
俺は両手に火の属性付与をして構えた。
「ガァァァァァァァァ!!」
スティールは雄叫びを上げながら俺に突っ込んで拳を振り下ろしてきた。
俺はその拳を躱すとスティールの拳が地面に突き刺さりクレーターができた。
力がさっきとは比較にならない程に上がっているな。
スティールはまた拳を降り下ろそうとしてきたが、今度は俺がスティールの腹に火の属性付与が付いた拳をお見舞いした。
スティールは吹き飛ぼうとしたが、足で踏ん張り後ろに後退しただけですんだ。
防御力無視が付いている喧嘩上等スキルがあってもこれって中々やばいな。
すると今度はスティールは体から黒い風を出した。そして、その風を足に噴射させ俺に突っ込んで来た。
これはシルバもやっていたジェットウィンドか。
スティールによる拳の連打を俺は風の属性付与により何とか躱して行く。
「ガァ!!」
するとスティールは手を前に出し俺の足元の土を変化させ俺を拘束した。
こいつ土魔法も使えんのかよ!!
「しまっ!!」
チャンスと見たのかスティールは俺の言葉と同時に拳の連打を浴びせてきた。
風魔法の速さあってか、土の属性付与が間に合わず俺は成すすべなく殴られ続けた。その拳の一つ一つが重く防御力が高い俺でも確かなダメージを負った。
「グガァ!!」
「ぐはっ!」
腹に蹴りを貰い拘束していた土が砕け、俺は闘技場の壁まで飛んで行った。
壁に激突し、俺は瓦礫に埋もれた。スティールは勝ったと思ったのか追撃はしてこなかった。
にしても、俺がここまでやられるなんてな。地球でもこの世界でも初めてだな。
やるしかねぇか。
俺は一呼吸置き、決意した。
-----------本気出すか。
ドゴォォォン!!
俺は勢いよく瓦礫を吹き飛ばし起き上がった。
スティールの方を見ると俺が起き上がったのが信じられないのか、固まっていた。
俺は今まで自分の魔力量の高さから全力を出した事がない。
全力を出せば確実に人が死ぬからだ。
この世界に来て俺はまだ殺し合いはしていない。
やったのは模擬戦や決闘といった只の試合だ。
だが、これは違う。負ければ死ぬ。勝った者が生き残る。
「覚悟しな。もう手加減はしねぇ」
俺は先ず全力で体に魔力を纏った。
すると俺の周囲で魔力の渦が発生した。
それはさながら台風の様に荒々しく、力強く渦巻いていた。
「ガァァァァァ!!」
俺の魔力に反応したのか、スティールは雄叫びを上げながら風魔法を使って俺に接近して拳を俺の顔に思いっきり振り下ろした。
「何かしたか?」
拳は確実に俺を捉えた。だが、俺はスティールの拳を受けても平然としていた。
スティールは有り得ないといった感じで拳を俺に当てたまま固まっていた。
「じゃあ、お返しな」
俺は軽くスティールを殴った。
スティールは物凄いスピードで飛んで行った。
壁に激突しスティールはよろよろしながら体を起こした。
かなり効いたようだ。
「どうした、もう降参か?」
「ガァァァァ!!」
俺は煽るような口調で言うと、スティールは気合いを入れるかのように雄叫びを上げ俺の足元の土を変形させ俺を拘束しようとした。
「何だ?この脆い土は?」
俺は拘束しようとする土を意図も簡単に破壊した。
今の俺にはこんなものは効かない。
体を最大限強化された今の俺に下手な魔法は効かない。
「来ねぇんなら、とっとと終わらせるぞ」
俺はスティールの後ろに回り、蹴り上げた。
俺は左手で最大限のファイアーボールを出した。
それは、直径数十メートルにも及ぶ、太陽の如き巨大な物だった。
俺は更に右手に火の属性付与して、巨大なファイアーボールを打ち上げた。
「大火炎弾!!」
大火炎弾は真っ直ぐスティールに向かい直撃した。
直撃した瞬間、大火炎弾はスティールを包み激しく燃え上がった。
それはまるで街を照らす太陽の様だった。
大火炎弾は静かな夜の街を照らし、次第に消えていき消滅した。
暫くしてスティールは落ちてきた。黒焦げになって。元々黒かったが、それでも焼けたのが分かるほどに焦げていた。
死んだか。俺がそう思っていたら
「グ・・・・・・ゴガァ・・・・・・」
まだ生きていたみたいだ。だが完全に虫の息でほっといても死にそうだった。
本来ならここで放っておいても良かったがそうはしない。
「ここまでやったんだ。この手であの世に送ってやるよ」
俺は右手に火の属性付与をした。だが今やっているのは普通の属性付与ではない。
さっきまでのとは違い、全力の属性付与だ。今までの手に纏っていた火とは違い、それは荒々しく燃え上がり火柱を上げている。
まるで命が消える最後の足掻き、最後に一太刀浴びせんための最後の炎。
そう、いうなれば
「終炎の時間」
終炎の時間、俺の魔力を全て使った状態の火の属性付与。
その破壊力は一撃で如何なる者を葬り去る。
ただそれにも弱点はある。
属性付与は只でさえ魔力効率が悪くて誰も使わない魔法だ。
これを維持するだけでも大量に魔力を使う。
魔力量が多い俺でも、約十分間。
十分間しか保てず、十分経てば魔力切れを起こす。
だから、使う時は注意が必要だ。
俺は倒れているスティールの前に立ち、拳を構えた。
「じゃあな」
俺の拳はスティールの顔を捉えた。
スティールの顔は潰れ、絶命した。
「こんな事言うのもあれだが、俺は案外楽しかったぞ。初めて本気を出せたんだからな」
俺は既に死んだスティールにそう言うと、一人フィーの下へ歩いた。
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