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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

攻撃的な愛の閃光弾

作者: 玉露

SF的な要素をはらんではおりますが、あくまでボーイズラブのつもりです。

なのでジャンルを恋愛にしましたが、これのどこが恋愛モノだ、と言われたら、もうぐうの音も出ません。


お許しを頂ける方のみお読みくださいませ。


 信じているのは己だけ。

 誓いは、ただ一つ自分の魂に。



 刺し違える一瞬の脆弱さに

 強く熱く溢れる生命力だけが


 ああ、目を焼くほどに美しい。







   攻撃的な愛の閃光弾







 装填可能なカートリッジは、もう残っていない。


 背ばかりが無駄に伸びた特殊強化性のガラス張りのビルの頂上で、俺は空になった弾倉を捨てて、最後のカートリッジを装着した。


 眼下でたゆたうのは、不眠不休で大金を転がす経済の中心、元帝都の光。

 目を焼くような光の洪水は、まるで下から炎で炙られているようだった。


 強い夜風に晒されてなびく己の黒髪を、超再生鮮明化装置レンズ採用の漆黒のゴーグル越しに見つめる。

 その細い毛束の先。

 俺は、遠くに映る白い満月と重なる位置でゆらりと浮かぶ米粒程の人影をじっと睨み付けた。


 ゴーグルの一部に搭載された鮮明化装置でズームして彩度と明度の倍率を調整すれば、スラリとした長身の男が似たようなビルの頂上で立っているのがはっきりと見えた。

 男はビルの縁ぎりぎりに片足を乗せ、手に持った同じ型の銃をくるくると回している。


『よう、リョウ』


 右耳に装着したインカムから突然響いた同僚の低い声にびくりと心臓が跳ねる。ゴーグル越しに見ていたことがばれたのかと思って、俺は鮮明化を切断するとさっと視線を反らした。


 軽薄な性格をそのまま転写したような笑い含みの声に、俺は苛立ちをこめて舌打ちを返す。


「ジョウ。なに笑ってる。気を引き締めろ」

『分かってるよ。約束の時が近づいてるからよ、笑いが止まらねえのさ。本当に良いのか、リョウ』

「同じことを言わせるなよ、この阿呆が」

『男前だなあ。愛してんぜ、リョウ』

「気持ち悪い。敵の前にお前の脳みそを潰しそうだから発言に気をつけろ」


 びゅうびゅうと吹く風の中、耳に馴染んだ同僚の声は、何度聞いても耳障りだった。毎日この声でしつこいくらいに求愛されていれば、猿でも嫌いになるだろう。


『リョウ、そのまま真下に653メートル』

「わかってる。俺に指図するな、変態野郎」

『その変態が天国までエスコートしてやるんだ、つれないこと言うなよ』

「黙れ、行くぞ」

『きっかり、5分だぜ。もう我慢でき――』


 喋りかけの通信を強引に遮断し、俺はディド・ウィルス社製の閃光銃アルト・マグナスを片手にビルの屋上からひらりと飛び降りた。


 視界に飛び込んでくる強烈な光の波動。


 YYP‐67という視神経に有毒な緑の熱光線を放つ光の渦に飛び込みながら、俺はまるで性交の頂点に達した時のような熱い衝動が、全身を舐める感触に酔いしれた。

 ターゲットを殲滅する、この一瞬。


 生と死の狭間に自ら飛び込んでいく、この絶対零度の激情が堪らない。


 下から吹き付ける生ぬるい暴風に煽られて、髪の毛が激しく揺れる。

 特殊な光学色素を沈着させた迷彩ファイバーで造られたタイトな制服は、風の抵抗を最低限に留めているため、動きにくさはまるで感じない。


 絶好調だった。


『ターゲット、視認。リョウ行けるか』

「ジャッジメントを起動しろ。一瞬で決める」

『着地点まで残り200』

「間に合う、問題ない」


 ブースターを搭載しているためジョウの方が落下が早い。

 敵を封印するジャッジメントはジョウが所有しているから、今回の作戦ではジョウの着地と同時に、俺が敵に初弾を撃ち込まねばならない。


 初弾が早過ぎれば、敵はこちらに気付き、飛んでくるだろう。

 初弾が遅すぎれば、着地したジョウの気配を察知してジョウが食われる。


 俺の一撃が早すぎても遅すぎても、作戦は失敗する。


 ゴーグルの彩度を極限まで高めると同時に、有害光線遮断のフィルタリングをオンにする。

 一瞬だけ視界が真っ赤に染まり、その直後、全てが透明化される。


 落下しながら迫りくる、帝都の工業街。


 深夜を彩る凄絶な闇も、有害光線の毒々しいネオンも、超再生鮮明化レンズの前には一切意味はない。


 視界は良好。

 くっきりと異形の姿がゴーグルの中心に浮かんでいた。


「いける。初弾から2発でジャッジメントだ」

『畏まりました、長官殿』


 冷やかしのような同僚の声に、苛立ちが募る。

 『まだ』長官になったわけではない、と何度言っても、この男は聞く耳を持たなかった。

 いつか長官になるなら、今でも後でも同じ、と言って任務の時には自分のことを堂々と『長官殿』なんて呼ぶ。


「そういうところが気に入らないんだよ、ジョウ」


 俺は空中でアルト・マグナスを起動すると落下地点の真下で有毒ネオンを上手そうに喰らう異形に向けて構えた。

 高密度のエネルギーを溜め始めた閃光銃から途端に乳白色の発光。

 ガードグローブをつけていなければ、指が溶けるほどの高温だ。


 セーフティを解除し、俺は躊躇することなく一撃を放った。


『着地、ジャッジメントスタンバイ』


 まっすぐ伸びた光の矢が敵の頭部を縦に貫くのとインカムからジョウの声が響くのはピタリと合致した。


 ゾクリ、と背筋がわき立つ。

 凄まじい昂揚感だった。


 光の矢に顔面をぐちゃぐちゃに溶かされた怪物は、耳障りな超音波を発しながら咆哮した。

 その一瞬の隙がなければ逮捕することすら叶わない。


 上から閃光銃とともに降ってくる俺と横から物凄いスピードで近づいて来るジョウと、そのどちらに対応すべきか怪物は一瞬だけ逡巡する。

 人間並みに発達した思考回路に腹が立った。

 YYP-67が生み出した悪魔のくせに。


「逮捕だ」


 俺はぼそりと呟き、手も足もぐにゃぐにゃに変形した怪物の攻撃の合間を縫って、二発目を放った。

 その光線は異形の足と鋼鉄の床を僅かの間だけ縫いとめる。


『ああ、すげえ、タイミングばっちり。イっちゃいそ』


 インカムから同僚の笑い含みの声が酷い興奮を伴って響いてきた。

 熱い。


 その響きは、まるで愛を囁く男のそれだ。


 俺が着地すると同時に横から物凄いスピードで迫ってきた黒い影が、爆発的な光を放つ。

 超再生鮮明化レンズ越しに見れば、何が起きたかは一目瞭然だった。


 横からダッシュしてきたジョウの持つYYP-67-UMA専用特殊手錠『ジャッジメント』が発動したのである。


 敵が吸収したYYP-67が敵体内で化学反応を起こしてYYP-Q-86αという成分に置き換わった時はじめて反応する特殊な手錠で、これは敵に直接触れなければ発動しない。


 ガードグローブと一体型の『ジャッジメント』は使い勝手は悪いが、その威力は絶大だった。


 敵体内に蓄積されたYYP-Q-86αを消費し、超強力な磁場が展開。

 光のリングが敵を拘束すると同時に異相空間へ転送される。


 敵は体内の生命エネルギーを、全てその光のリングに吸収され、異相空間で干からびてから国防相直下の諮問機関である対特殊科学強行捜査班のアングラ研究所に移送される。

 俺たち現場の任務はジャッジメントで敵を逮捕する、ここまでだ。


「リョウ、きっかり5分だぜ。ご褒美くれんだろ?」


 黒いゴーグル越しにニヤリと笑う男がひらひらと軽薄そうに手を振る。

 すべて自動化された無人の工業地帯の鋼鉄製の床の上で、男はどっかりと胡坐をかいた。


 特殊な訓練と肉体改造を受けている俺たちだから、こんな死の街で平気でいられるが一般の人間なら5分と持たずに体内から溶けるだろう。


「お前、そんなに俺が好きか」


 次の任務で敵を殲滅したら、俺からキスをしてやる、と。

 酒の席でうっかり吐いた戯言を、この男は一言一句忘れなかった。


 ゆっくりと歩み寄る俺に、ジョウはただ小さく笑って短い頭髪をざっと掻き上げた。

 興奮して居ても立ってもいられない時のジョウのくせである。


『好きじゃ足りねえな、愛してんぜ、リョウ』


 インカム越しに囁く愛の凄絶さに、ぞくりと背筋が戦慄いた。

 この感触は敵を逮捕する時の、生と死の狭間の激情にどこか似ている。

 委ねてもいい、なんてうっかり思いかける。


 どうかしている。


「言っとくが、インカム越しの会話は全て録音されてオペレータ連中に筒抜けだぞ、この糞が」

『俺の長官殿に手を出す奴はミンチにしてやるってことを伝えるには、これが一番手っ取り早いだろ? 俺、嫉妬深いんだよ』

「俺はまだ長官じゃねえ」


 俺はインカムのスイッチを切ると、目の前で唇を差し出す男の顎を掴んだ。

 押し付けるように重ねた唇が、ただ熱い。


「ん、…ん、ジョウ」


 自ら舌を差し出し、ジョウの口内を弄る。

 甘く絡みつき、吸いつく、淫らなキスの深さに腰が疼いた。


 一瞬の攻防で煽られるだけ煽られて盛りのついた身体は、この上なく淫らな行為を望んでいる。


「ああ、リョウ、たまんねえ」

「お前、これ以上するならインカムを切れよ」


 ジョウは俺の腰を引き寄せると、床の上に押し倒して馬乗りになった。

 触れあう腰に、熱い雄の猛りを感じる。


「もっと、キスしてえ」

「好きにしろ、それが約束だ」

「キスだけでイっちまいそうだなあ」


 頭部を抱え込まれながら激しく貪られる唇に、どんどん甘い衝動が募っていく。

 強力なカンフル剤みたいな敵との一瞬の攻防が生み出す興奮が、まだ抜けきれず全身を支配しているから、それが更に厄介だった。


 興奮して、しょうがない。


「あ、あ、ジョウ。ダメだ、くそっ」

「リョウ、もうこのままヤッちまうか」

「早く済ませろ、俺たちもあと30分くらいしか保たねえ」


 ガチャ、とベルトに指を掛けた瞬間だった。

 僅かなノイズが耳に装着したインカムから響く。

 嫌な予感に、俺たちはピタリと動きを止めた。


『ナニ盛ってんだ、このクソ野郎ども』


 抑揚のない低い声に、俺は一瞬で脱力して仰向けに倒れ込んだ。

 戯れもここまでだ。


 インカム越しににやにやしているのは正真正銘、俺たちの現在の長官である。

 スイッチを切ったはずの俺のインカムにまで音声受信させる権限は、長官にしかない。


「くっそ、長官! まじあと少しで初エッチ出来たかもしれないのに!」

『そんな腐った街で大事な初モンを食う馬鹿も馬鹿だが、捧げる馬鹿も馬鹿だ』


 ズバッと切り捨てられた上司の発言に、ぐうの音も出ず、俺たちは溜め息を零して起き上がった。


『オペレータ連中が泣きついて来るから何してんのかと思えば、そういうことは本部に戻ってからするんだな』

「冷静になっちゃうとリョウ君は俺の相手してくれないんですよーだ!」

『っとに面倒くせえな。リョウはケツの一つや二つ、さっさと捨てりゃいいだろう』

「他人事みたいに言ってくれますね、俺の貞操を」

『他人事だから言ってんだろ』


 傍若無人な長官の言葉に、俺は盛大に肩を落とした。

 全てが馬鹿馬鹿しくなってきて、盛っていた身体の奥の激情もとっくのとうに霧散してしまった。


 完璧にもうどうでもいい。


「帰るぞ、ジョウ」

「なあ、リョウ。本部で続きしよーぜ」

「誰がするか、阿呆。これ以上言うと脳みそミンチにするぞ」

「ほらー! もうこれだよ。信じらんねえ。さっきのとろんとろんになってたのはマジなんだったわけ?」

「幻覚か妄想だろ。重病人だな。入院して来い」


 俺はガードグローブに搭載された高出力ガイドワイヤーをビルの屋上に向かって射出する。

 ひゅん、と風を切って垂直に伸びたワイヤーは、屋上の縁にがっちりと固定された。


「長官、ヘリを。シバサキ重工の管理ビル屋上です」

『豪華なベッドを用意しといてやるよ』


 上司の悪戯に、ジョウは目を輝かせ、俺は何度目ともわからない溜め息を零した。


 富と発展の象徴にして、死神の落とした負の遺産。


 禍々しい緑の閃光を眼下に、俺たちは夜の工業街を飛び立った。

 視界に微睡む美しいネオンの波はあっという間に残像となって霞んでしまう。




 常に、いついかなるときも。


 信じているのは己だけ。

 誓いは、ただ一つ自分の魂に。


 それを容易く打ち砕くほどの激しい熱情は、

 敵を殲滅する瞬間の熱い奔流にも似た愛情の渦。


 刺し違えるかもしれない一瞬の脆弱さに

 強く熱く溢れる生命力だけが

 ああ、目を焼くほどに美しい。


 その僅か刹那に燃え上がる、愛の奔流だけが。


 俺の魂を奪い、浚い、高みへと誘う。



 まるで、攻撃的な閃光弾で打ち抜かれたかのように。



このような個人的趣味に走った話を最後までお読みくださり誠に有り難う御座いました。


設定の詳細説明をせず強引に押し切った感がダダ漏れだったり、主人公二人の描写がほぼ皆無なのは、私の力量不足です。


言い訳もできません。


ですが個人的にはすごい楽しめましたので、うっかり続編を書いたときには、ちゃんと二人の描写をしたうえで、もう少し突っ込んだ恋愛(変態)描写を書ければと思います。


その時は、恐らく18禁ですのでムーンライト様に置かせていただきますね。

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[一言] 玉露さま。 初めてお便り致します、ネコと申します(ネームめんどくさいので、どうぞネコとお呼び捨て下さい)♪ .....素敵です(はぁと)!!!!! 玉露さま本体(?)に『お気に』付けさせて…
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