馬車は停車してから乗り降りしましょう
よろしくお願いします。
時はほんの少し遡り、王妹殿下が拐かしに遭う直前。
これから起こる厄介事など露知らず、王妹殿下は、のほほ、のほほと笑っていた。
「ほんに、面白いのぅ」
王妹殿下の視線の先で、従者達が主人そっちのけで騒いでいる。毎度の事なので鷹揚に構える、というより、完全に楽しんでいる王妹殿下なのであった。
……なんて、呑気に構えていたのがいけなかったのか。
「……ほっ?」
気がついたら、馬車の車中であった。
腹部から圧迫された後のような苦しさが、ぐぅっと襲ってくる。馬車の揺れからくる車酔いにしては早い。王妹殿下はお腹を摩りながら思い返す。
どうやら、走行中の馬車に、掻っ攫われたようだ。
「そういえば、背後からガタゴト音がしてたのぅ」
その音が気になって、後ろを振り向こうとした時、走行中の馬車から飛び降りた何者かによって担がれ、投げるように馬車に乗せられたのだ。細かい状況は認識する前に乗車していたので分からないが、概ね合っているはずである。
無茶苦茶にも程がある拐かしである。
「死ぬかと思うたのぉ」なんて呟きながら回想する事、しばし。状況に反して、割と冷静である。
王妹殿下は思い出したかのように口を開き、大きく息を吸い込むと、
「あーーれーー、ご無体なーー」
「ヒイィィィッ!! ごごご誤解を招くような発言はお控えをぉぉ」
叫んだ。叫んだら、男の絹を裂くような相槌が返ってきた。
王妹殿下は、ことりと首を傾げる。
「拐かしに遭うたら、このように叫ぶのではなかったか?」
「……どちらかと申しましたら、無理矢理ドレスを脱がされる際の方が適切かと」
「おおぅ、破廉恥な」
「致しませんよッ!?」
胸元を抱いて後ずさる王妹殿下に、半泣きで釈明する男。
「そういえば、そなたは誰じゃったかの?」
「……そ、それは後ほど」
目をきょとり、とさせて呑気に尋ねる王妹殿下に見られないよう、男はそっと目尻を拭った。
「わ、私は今から皆様に説明して参りますので、しばし、お待ち下さい」
「うむ。先程わらわがあのように叫んだでな。アンリにたたっ切られないよう心して参れよ」
「命をかけて注意致しますぅぅ!」
「命を張って頑張るのじゃー」
涙を散らしながら、馬車から飛び降りる男に激励の言葉を贈りつつ、手を振って見送った王妹殿下。
一人残された王妹殿下は、
「最近の王宮の者は愉快じゃのー」
男の、生成り色の髪と王宮仕様の深緑の上着を思いつつ、馬車と一緒にぐらんぐらん揺れながら、のほほ、のほほと笑い出したのであった。
……という訳で、王妹殿下側からお送りしました。
内容はないようです。
……失礼致しました。
これから王妹殿下側からの話を続けようと思っておりますので、今回は導入的な話になりました。
または、説明回からの逃げの回とも言う……。
いつかは入れないと、と思っておりますが、なんせノリで書いておりますので、亀の歩みが石像の歩み更新になりそうです(-.-;)
て、石像は動かないから☆
虚しい一人ツッコミでした。
上手く説明出来るよう頑張ります。