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恋するメイドと怒涛の馬車

お久しぶりです。よろしければ、ご覧下さい。

「ずるいですわぁぁぁぁッ!!」


 少女の叫びはマッチョの後方から響いてきた。

 木陰に潜んでいた少女は、恐るべき速さでマッチョ、つまりはサムに向かって走ってくる。

 彼女のいた地点からだと三十秒程かかる距離だが、それをものの十秒で走り抜いた。

 そして、サム、ではなく、サムに小脇に担がれているディーを睨みつける。


「ずるいですわ、お兄様! お兄様の分際で、サムのほとばしる筋肉に包まれるとは、万死に値します!」


 マッチョ崇拝の言葉を熱烈に叫びつつ、ディーの事を「お兄様」と呼んだ少女は、ディーの頭を殴りに殴る。

 「お兄様」という言葉を証明するように、少女とディーは、男女の違いこそあるものの、双子であるとすぐに判別出来るくらい瓜二つだ。眩しいくらいの金色の髪も、澄み渡った青空のような瞳も。

 といっても、先程アンリに殴られた上に妹に殴られ、兄の瞳は今や白目を剥いて判断がつかないが。

 白目の兄に気がついているのか、いないのか。少女の猛攻は止まらない。


「イーリー!」


 と、ここで、慌てた調子で少女を呼ぶ声がした。

 アンリである。

 アンリは銀の髪を揺らしながら、少女、イーリーに近づいていく。


「もう、止めておけ。そんなに叩くと、お前の兄の頭が潰れるぞ」


 イーリーは澄んだ色の瞳にそぐわない、険しい目つきでアンリを睨みつけた。


「お黙りなさい、細マッチョ! せめて肌を小麦色にして、テカらせてから出直して下さいましッ!」


 とんだ色白細マッチョ差別である。

 ちなみにサムは庭師として毎日外で作業をしているため、肌は小麦色を通り越して焦げ茶色である。そして、ツヤテカだ。

 対して、色白のお肌ツヤツヤなアンリは一つ溜め息をついた。


「まったく、兄妹揃ってサボりとは……」

「わたくし、サボりなんかではありませんわ。忙しいサムの手を煩わせないよう、代わりにお兄様を連れ戻そうと思っただけですもの」


 イーリーはつん、とそっぽを向く。


「……また、兄妹して似たような言い訳を−−」

「ちょっと! それではわたくしとお兄様の思考回路が同じであるみたいではありませんか! 不愉快です! 訂正なさいまし!」


 耳にキンッ、とくるイーリーの声にアンリは耳を押さえながら、


「……いや、訂正と言われても、二人が似たようなことを発言したのは事実なのだし……」


 と、ぼそぼそ呟いた。

 しかし、イーリーはそれを丸っきり無視する。


「そもそも! 何故貴方は姫様とこんなにも距離を空けているのです! 貴方の方こそ職務怠慢甚だしいのではなくて!?」


 これまた兄に似た疑問を詰問という形に変え、イーリーは攻める。

 事実を突かれたアンリは、ぐっ、と詰まった。


「姫様に何かあったらいかがなさいますか!? 今に拐かしにでも遭っ−−」

「あーーれーー、ご無体なーー……」

「−−遭ってしまいましたわッ!!」


 彼方から聞こえた主のただならぬ言葉に(言葉に反して棒読み感が否めなかったが)、アンリ達は血の気が引いた。


「姫様ッ……!」


 王妹殿下の従者達は、自分達の主が居たはずのベンチに視線を走らせる。


(姫様が居ない!)


 代わりに、一台の馬車がベンチを通りすぎ、土を巻き散らかしながらこちらへ向かって来ていた。

 御者が馬二頭を急かしている。よく躾られているらしい馬達は首を前のめりにし、グン、と加速する。

 対するアンリは馬車に飛び乗る算段で、腰を屈めた。

 馬車とアンリの距離が縮まり、緊張が高まった瞬間、


「大ッ変! 申し訳ございませんーーーーーッ!!」


 と叫ぶ何か、たぶん男、が馬車から転がり落ちてきた。

 いや、落ちたというのは、正確ではない。

 馬車から飛び降りつつ、体を丸め。反射的に飛び退いて距離を置いていたアンリ達の前を、受け身を取ってゴロゴロと前転しながら、地面に両手、両膝をついて、転がる勢いを止める。次いで、地についたままの両膝をピタリと揃え、逆に両手は肩幅より広い位置に置く。

 最後に頭をガバッと下げ、おでこを地面になすりつけた。

 この型はとある世界では最上級の謝罪の型、土下座というのだが、アンリ達には分からない。分からないなりに、意気込みは鬱陶しいくらい伝わった。

 良い子は見習ってはいけない一連の動作を目の前で繰り広げた男は、生成り色の髪から土を振り撒きながら顔を上げ、


「このようなお迎え、無礼千万と承知しておりますが、どうか! どうか! ご容赦の程、よろしくお願い致しますればッ!」


 と、涙と鼻水を交えつつ、声を張り上げた。

 よく見れば、羊のような愛らしい顔立ちなのだが、今はぐじゅぐじゅになってしまっているため、無残というか滑稽な顔になっている。

 笑える程酷い顔をしているくせに、羊顔の男は畏まった様子を見せ、片膝を立てた。


「最早一刻の猶予もございませんので、詳しくは後ほど王宮にてご説明致します!」


 「これにて失敬」とは言わなかったが、いかにも言いそうな雰囲気で、俊敏に立ち上がる。

 いつのまにか方向転換したらしい馬車が、再び怒涛の勢いでこちらに向かってくる。

 羊顔の男は馬車との頃合いを見計らい、馬車が最も近づいた瞬間、ババッ、と舞い上がった。

 が、馬車へ飛び乗れず、地面に顔面から落ちた。

 御者も気づいたらしく、だいぶ距離を置いて、三人の老婆が懲りずに座り続ける、ベンチの横で止まる。

 地面に擦ったせいで鼻を赤くした男は、「うう……」と唸りながら、小走りで馬車へ向かった。

 男が馬車に乗り込むや否や、再び勢いを取り戻して馬車は走り出す。

 緑の丘を道なりにクネクネ曲がりながら、車体をぐらんぐらん揺らす馬車を呆然と見送る、従者一同。




 馬車の姿が見えなくなってからアンリは、


「ハッ……! 姫様!」


 ようやく主の事を思い出した。

 前話より更に間を空けての投稿となりました。お待たせした方、いらっしゃいましたら、申し訳ございませんm(__)m


 やっと少し話が動きました。王妹殿下も久しぶりに喋りました。おひさです。

 王妹殿下は基本、受け身な方なので、今後も彼女自身が動いて、大活躍! は滅多にないかと思いますが、見守ってくださるとありがたいです。


 とりあえず、

 王妹殿下を見守るアンリとディー+アンリとディーをどうしようと見守るサム+サムに熱烈視線! な恋するメイドイーリー=緑の丘の木陰に潜む四人のアホ従者

 という図式が書けたのは、個人的に満足です。ちなみに四人の従者は、等間隔に植えられている木しか隠れる所がないので、等間隔に潜んでいます。王妹殿下の位置から見ると、なんか間抜けに見えると思うのですが、いかがでしょうか?

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