表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/6

王妹殿下へ熱視線

読んで頂き、まことにありがとうございます。

これからもよろしくお願い致します。

 王妹殿下と三人の婦人方がのんびりくつろいでいる木の隣。隣といっても、全力で走っても三十秒はかかる距離。

 それ程離れた位置にある木に身を潜めるようにして、銀髪の美丈夫が王妹殿下を物憂げな様子で見つめている。

 かなりの距離があるのだが、彼の翡翠色の瞳は王妹殿下をしっかりと捉えていた。

 微風に揺れる簡素な藍色のドレスや同じ色のリボン。

 リボンが纏めているのは黒とも、茶色とも言える中途半端な色の長い髪である。

 表情を伺うのは距離的に無理なのだが、銀髪の彼には想像出来た。生まれつき目尻の吊り上がっている彼女のいつもの癖が表れ、細めすぎて横一直線になっている目。そして、紅も引いていないその口を小さく丸く開き、「ホッホッホッ……」と好々爺よろしく笑っているに違いない、と。

 銀髪の彼、王妹殿下付きの護衛、アンリは深い溜め息を漏らしながら、ぽつりと呟いた。


「姫様が、枯れている……」

「いやいやいや、変態よろしく木陰から女の子見つめてる人が、他人のこと、とやかく言えるの?」


 アンリの横から、ヒョコリと現れた金色。

 王妹殿下と同じくらいの年齢の少年だ。しかし、天使のような笑顔が、彼を若干幼く見せている。アンリの横にある金色は、天使の笑顔を浮かべるこの少年の髪だった。

 愛らしく見える笑顔に対して、アンリは苦い表情を相手に向けた。


「ディーか。何でここにいる?」

「アンリさんと交代するために来ました! お勤め、ご苦労様です!」


 と言いつつ、ディーと呼ばれた少年は、右手を額にかざす形の敬礼もする。

 しかしアンリは素っ気ない。


「結構だ」

「そんなぁ、遠慮しないで」

「遠慮などしていない」

「そろそろ疲れたんじゃない? 一休みしようよ」

「意地でも代わらん」

「……もしかして、ストーカーごっこが堪らなくなっちゃった?」

「違うッ!」

「ていうか、何でこんな離れた所にいるの? やっぱり、離れた所で見る女の子にハアハアしたい−−」

「その舌抜くぞ」

「すいません。反省しますから、抜かないで下さい」


 目にも止まらぬ速さで抜かれた剣を目の前に、ディーの口がピタリと止まる。

 ついでに両手で口を押さえてみせるパフォーマンスに舌打ちしつつも、アンリは剣を納めた。


「お前はそもそも護衛じゃないだろ」


 アンリの言う通り、ディーは王妹殿下付きの使用人であり、護衛の任には就いていない。

 ディーは満面の笑顔を見せた。


「サボりじゃないよ?」

「いや、嘘だろ」

「しかし、ホントに何でこんな離れた場所にいるの? 護衛なんだから、もっと近くにいないと」

「……逸らしたな、話を」


 ディーは「ん?」と笑顔で首を傾げてみせた。

 サボりの件は追及出来ない。悟ったアンリは溜め息をつこうとして、さっきから溜め息ばかりだと気づき、かろうじて飲み込む。

 飲み込んだ溜め息の代わりにディーからの問いに答える。


「護衛として、この距離に支障があるのは、重々承知している。更に言えば、姫様のあの枯れたご様子は憂慮すべき事」

「そうかなぁ? いいんじゃない? あれはあれで愛嬌があって」

「いや、良い事ではない。早急に対応すべきだ。なのだが。……だが、しかし!」

「おおッ!? どしたの、急に?」


 いきなり声を荒げたアンリに動揺するディーを無視し、悔しさから堪えるかのように、アンリは歯を食いしばる。


「あれ以上近づけば、姫様達の空気に呑まれて、俺まで、まったりしてしまうんだッ!」


 「くそッ」と悪態を吐きながら、拳で幹を叩くアンリ。


「以前、姫様のすぐ後ろで護衛していたのだが、いつのまにか、お茶をご一緒していた。我に返った時の俺の気持ちがお前に分かるかッ!?」

「……アンリさんって、阿呆なの?」

「空気だ! 空気が悪いんだ!」


 澄み渡る青い空に、アンリの叫びが吸い込まれたのであった。

空気のせいにしてはいけないと思います。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ