始まり始まり
お初にお目に掛かります。浮輪ノ助と申します。
この話を見つけて下さり、ありがとうございます。
よろしければ、ご覧下さいませ。
青い空に真っ白い羊雲がプカプカ浮かび、若草色の広がる草原では、真っ白な羊達がハムハムと草を食んでいる。
一面に広がる若草の絨毯には、刺繍されたかのような一本の土の道。そして道なりに沿うように常緑樹がぽつりぽつりと生えている。
その内の一本の木陰に覆われて、白い長椅子が設置されている。
風はあまりない。
一人のうら若き乙女が、三人の老婆と茶をズルズルと啜っている音だけが響いている。
ズルズルズル……。
緩やかな丘陵地帯、その一角にある、よく見れば塗装の剥げている箇所が見受けられる木製の長椅子に、四人の婦人方は一列に腰掛けている。彼女達の啜る動きに乱れはない。
「平和じゃのう……」
「ほうじゃのう……」
「……そういえば、ほれ。二日前じゃったか、ほれ、あれじゃ」
「……二日前? 何ぞ、あったかのぅ?」
「なかったかのぅ?」
「なかったのぅ」
「なかったのぅ」
「そういえば、なかったなぁ……」
などと、何ら意味のない会話を繰り広げている。
ふと、四人の頭上で、葉擦れの音がした。
「おお。涼しい風が来たのぅ」
「良い風じゃのぅ」
「そうじゃのぅ」
「そうじゃのぅ」
涼風に心地よさ気に皆して目を細めつつ、美味そうに茶を啜る。
改めて明記するが、この中に一人、花盛りの娘がいる。
口調だけではあまり違いがない上に、遠目でも、他の三方と似た色合いの服を身に着けているため、ほとんど見分けがつかない。
正面のアングルから見てやっと、左から三番目に腰掛けているのが娘だと分かる。
実は彼女、このファーグラス王国建国の祖、ウォーグ=ファーグラスを父に、王国の基盤を創り上げた二代国王ジャン=ファーグラスを兄に、そして、三代国王にして現国王ユーグ=ファーグラスを甥に持つ、人呼んで「王妹殿下」カレン=メアラル、なのである。
御歳十七歳。
この世界に住む少女にとって、大事な人生の節目の時期であった。
「平和じゃのぅ……」
……本人に、その自覚はないようである。