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逃げるものと追うものと(仮)


『廊下を走ってはいけません』



 それは何処の学校でもごく当たり前の校則だろう。風紀委員に言われずともそんな事は判っている。

 しかし、非常事態にまで適応されるのは融通が利かないんじゃないだろうか? 等と今現在も必死に校内を逃走している少年は余り余裕が無いにもかかわらずそんな事を考えていた。

 人はそれを現実逃避と言う。……多分。


「まてぇやこらぁ!! いくら幼馴染でも仕舞いにゃ怒るぞ!!」


 後ろから野太い怒声が響いてくる。

 見ると少年よりも頭二つ大きい上に同年代では明らかに逸脱した筋肉を纏った男が追いかけてきていた。制服を着ていなければ学内だと用務員か体育教師としか思えない程だ。

 そんな暑苦しい物体に追いかけられるのははた(・・)から見てもとてつもなく恐ろしいだろう。


 ――――そんなのに追い掛け回されてる俺はもっと恐ろしい思いをしているわけだが。まあ、それでも最近多少慣れてきたわけで。それは良いのやら悪いのやら。

 ……等と視界の端に映る他の生徒達の表情を見ながら胸中で少年は嘆いた。


 後ろから絶え間なく飛ばされる怒鳴り声からは「捕まれば確実に無傷では済まされそうに無い」雰囲気だけは伝わってきていた。だがしかし追いかけられる当人には全く追いかけられる理由が判らないのだ。なぜかと言えば、目が合った瞬間感じた本能の『逃げろ』という訴えに、用件を切り出される前にとりあえず走り出したからなのだが。

 幸か不幸か状況的にそれは間違いではなかった様だ。


「おい晃!! てめぇ! いい加減部室に来いと……来てもらわんと『俺が!』お前の代わ

りに酷い目に!!」


 筋肉だるまが追いかけていながら表情を青ざめさせるという器用な事をしているというのを確認し、更にその一言を聞いて追いかけられていた原因が仮定から確信に変わった。

 確かに、ここで逃げ切った場合に彼が酷い目にあうのは確かだろう。しかし、だからといって立ち止まる気も同情する気も少年は全く起こらなかった。

 ――――というか、俺が捕まって酷い目にあうのは何とも思わないのか?

 むしろ更に加速しなければならくなったと言っても過言ではない。


「確実にあいつの差し金だよな……」


 頭にその人物を浮かべた瞬間、思わず少年はしかめっ面をしてしまった。


 ――――あの(・・)部長にとっ捕まったら何をされるか……。


 その考えに至った直後、先ほどまでは多少物事を考える程度の余裕があったはずの少年の頭から徐々に血の気が引いていき、それに伴って動きがぎこちなくなっていく。どうやら浮かんだ想像の自分の未来予想図(末路)が余りに恐ろしかったようでショックで躓きかけてよろけてしまう。

 後ろの筋肉ダルマがここぞとばかりに倒れるのも厭わず手を伸ばし少年を捕らえようとしてくる。

 しかし、ここで倒れて捕まってしまった場合、即部室に連行されまっているのは地獄だ。

 ――――絶対に捕まれない!!

 そんな強い思いが天に届いたのか少年はどうにか転倒をまのがれ、同時に追っての手から寸手のところで逃れる。そうして辛くも危機を乗り越えた少年は、追っ手をまく為に走力と気力と体力の限界に挑戦し始めたのだった。



 必死だった所為か、その追っ手が無理をした所為でバランスを崩し直ぐ後ろで大きな音を立てながら倒れたのだが、必死の形相で走っていく少年は階段の踊り場を駆け抜けた後も既に追っ手がいない事に暫くは気付かなかったのだった。












「どうやら必死で走ったお陰かいつの間にか追っ手(筋肉)は捲けていたようだ」

 その分、余計な時間を取らされた訳だが。まあ、既にここは一階の廊下だし、あと少し進めば下駄箱だ。多少問題は残ろうがもうその事実に少年は一先ず安心する。

 その油断が既に致命的な間違いであったとも気付かずに。


「今日は無事帰れそう……だ」

 

 少年が口にした言葉が途中で詰まる。

 なぜならば、視線の先に彼の靴箱の前に一人の少女が立っていたからだ。

 ――――残っていた問題が酷かった!!

 今更気付いた所で後の祭りだった。


「いや、まったくご苦労様だね。玉無し晃君」

「たかなしだ! 高梨!! つーか、女が口にして良い言葉じゃねー!」  


 少年――もとい高梨は目の前ののっけからぶっ飛んだ少女の発言に、思わず立ち止まりツッコミを入れた。


「女がとは、今の男女平等の時代にそんな差別発言。如何なものかと思うよ?」


 そんなツッコミなど居に返さず、少女はマイペースに切り返す。しかし注意深く見ていたならば、その口元がにやりと怪しい笑みを浮かべ若干つり上がったのが判っただろう。

 流れに飲まれてしまったとはいえ、既に高梨は少女の術中に嵌っているのだった。


「明らかに差別じゃねーよ! それに今の世の中は平等と言う名ばかりの女尊男卑だ!!」


 高梨はこめかみに血管が浮かぶほどイラつきながら言い返す。

 既に周りが見えていない。その為、後ろから忍び足のつもりで全く忍べず近づいてくる人間に気付けないでいる。


 正直、無視をして靴を履き替えてしまえば良いのにも拘らず微妙に律儀な性格からいつも彼はこうなるのだ。自身でも理解しているのに如何にもならないのはもはや性分というよりある意味呪われているのかもしれない。

 

 そしてその結果。


「捕まえたぞ! 晃ぁー」

「が?! 木下いつの間に!」


 筋肉だるま改め木下に高梨は後ろから羽交い絞めにされた。

 こうなってしまうと流石に体格差から高梨に木下を振りほどくなどできるはずもない。


「ご苦労、木下右京君。さて、手間取らされたが部室へ行くとするか。お騒がせしたね諸君」


 周囲に集まっていた野次馬達にそういうと、少女はおもむろに歩き出す。


「あ、待ってくださいよ部長?!」


 その後ろで高梨を羽交い絞めにする事に暫く夢中になっていた木下がはたと気付いて慌てて追いかける。……高梨の襟首を片手で掴み引きずりながら。

 自然、引き摺られる高梨の首は締め付けられる事になる。立ち上がろうにも引き摺られていては足を踏ん張る事すらままならない。

 


「……死ぬ、このまま…だと、窒息し、て」


 徐々に意識が遠のいて行くのを感じながらも高梨はされるがまま引きずられて行ったのだった。


お読み下さりありがとうございました。

ネタを考えるのは簡単なのですが文章に起こすのはとても苦手なわけでして、

きっと見逃した誤字脱字その他があるかと思われます。

もし宜しければ見つけられた際には書き込み頂けると大変有り難いです。



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