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夕暮れ前の帰り道

作者: 二心 真也
掲載日:2026/05/01

また出たんですってねバラバラ死体、

怖いですねホント、殺人鬼がこの街にいるだなんて


そんな話をするご婦人方を横目に家路へとつく夕暮れ前


急ぐように道を歩くは小柄で気弱そうな若い女性


閑静な住宅街であるからか道ゆく人の数もまばらで、何よりもうすぐ夜が来る


夜の闇の恐ろしさからか、自然と足も速くなり、急ぐようにして歩みを早める帰り道


角を曲がった路地の道を塞ぐようにしてその人物は立っていた


厚手のコートを身にまとい、鍔広の帽子を被った大柄な男だ


睨むような鋭さを帯びた瞳が、ギラついた視線をこちらに向けている


よだれが垂れっぱなしの口元は弧を描いて、

狂気的な笑みでその表情は彩られている


明らかに正気と思えぬその男がポケットに手を入れておもむろに取り出したるは夕陽を反射させて眩しく光る小ぶりな刃物


ついに見つけたぞクソ悪魔め!


吠えるようにそう叫び、こちらへと走り寄るその姿を横目に必死の思いで駆け出した


急な運動に息を切らして走りながら、だが閑静な住宅街の静けさは少しの変化も見せなかった


いくら人通りの少ない裏路地とはいえ、多くの住宅が建ち並んでいるというのに


どの家からも人の気配はおろか漏れ出る照明の光すら一つとしてないというのは明らかに異常だった


何か尋常じゃない事態が起きているのは明らかだったが、結局のところ今の自分にできることはただ背後の恐怖から必死になって逃げることだけだった


しかしとうとう限界が訪れた、焦りに急きすぎた足が絡まりもつれて倒れ込んでしまった


「ああ、ダメやめて来ないで」

背後から迫る足音にそう哀願を口にすることしかできず


しかし音はすぐ間近に迫っていて

「ダメ、あぁダメよ」


捕まえたぞクソッタレが!


荒々しい声と共に両腕を地面に押さえつけられ腹の上に馬乗りになられて、狂気に彩られた男の瞳と間近に顔を合わせてしまう


その瞬間にぶつりと何か糸の切れるような音が聞こえたような気がした


「...なさい」

掠れたような小さな言葉

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

ただ繰り返される謝罪は何に対してのものだろうか


「ゴメンナサイ」

地の底から響くような重低音

「モウ抑エラレソウニ、ナイノ」


バキバキ、メキメキと小柄な女の姿が音を立てて変わっていく

「アナタガ悪イノヨ」

路地には怪物とひ弱な人間が一匹

「コンナニモ私ヲ昂ラセルカラ」


「ダイジョウブ、痛ク、シナイカラ」

ばきり、ぼきり、ぐちゃぐちゃと異様な音が続いた後に


「だめね、私またやってしまったわ」


なんて冷静な言葉が路地へ響く


「どうしましょうか、この惨状」


なんてまるで他人事のような言葉


街の噂は変わらずに

ねえ聞いた?この街殺人鬼が出るんだって

そんな女学生の話し声が聞こえてくる夕暮れ前の帰り道

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