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夢幻の如く~エピローグ

〈紙雛の質素こそ我が命かな 涙次〉



(前回參照。)



【i】


「悦美さん?」。眞夜中であつた。カンテラがその腕に抱いてゐる筈の、悦美はゐなかつた。* 翔吉と君繪が並んで寢てゐるベビーベッドも見当たらなかつた。君繪の爲に飾つた雛壇もない。頼みの綱のじろさん・テオも、何処かへ雲隠れしてゐるやうだつた。



* 當該シリーズ第2話參照。



【ii】


漆黑の闇がカンテラの目を塞いでゐた。さう、其処は* カンテラ=ランタンの中。彼はこゝにあると思つてゐた今日を喪つてしまつたのだ。タイムパラドクスは起きた。彼は自らの出生の時へ逆戻りしてゐた。尾崎一蝶齋と云ふ、云つてみれば「雜魚キャラ」を、然も斬りもせず、事務所から追放したゞけで、こんな大規模な地殻變動が起きるとは-



* 前シリーズ第129話參照。



【iii】


然しカンテラはうつすらと氣付いてゐたのだ。造り主・* 鞍田文造が彼を、こんなにも愛してゐた事に。鞍田の所謂「愛」が、タイムパラドクスの方向を決定づけた。彼が烏賊釣り漁船で使はれてゐた骨董品のランタンに込めた念は、相当のものだつたのだ。たゞ、今迄のカンテラが、その事に對し目を脊けてゐたゞけだつた。捻じくれた愛とは云へ、鞍田のそれは愛であつた。「愛情」と云ふ言葉から、「情」を拔いたゞけだ。カンテラはランタンに火を燈さうとしたが、無駄だつた。



* 前シリーズ第20話參照。



【iv】


やがて月滿ちれば、その灯は點けられるやうになるだらう。カンテラは瞑目し、再び嘗ての*「殺人マシーン」としての日々を受け容れるやう、己れを誘導しやうとした。だが、余りに長い「正義の味方」として過ごした期間が、それを邪魔した。尾崎の祟りか- カンテラは薄く、自分を嗤つた。



* 前々シリーズ第10話參照。



【v】


嗚呼俺逹一味よ。俺の事務所よ、「開發センター」よ、*「猫nekoふれ愛ハウス」よ。とは彼が嘆く譯がない。彼はだうにか一人の男としての自恃を保つたのである。再度「無」から築き上げるこれからの每日が、いつそ待ち遠しいものとなるやう、カンテラは祈るばかりであつた。



* 當該シリーズ第30話參照。



※※※※


〈悩ましき一年が經つ物語不實な讀者未滿を前に 平手みき〉



【vi】


カンテラは、これから始まる、惡漢であり卑劣漢であり【魔】である鞍田、及びその愛人・日々木斎子との生活に、集中する事にした。何事も慣れである。誤つて消去してしまつたスマホのメモのやうに、原稿さへ殘つてゐるなら、何とかやり直しは利く。今後迎へる事になるだらう、じろさん・テオ逹との再會の日迄が、待たれるばかりであつた 



【vii】


但し、カンテラは、自分が二重の記憶を脊負つてしまつた事については、全くお手上げだつた。「前世」がこれ程までにウザいものだとは... 思はず、素裸になり鏡に全身を映すやうな、そんな氣後れがした。さう、彼は「二人の自分」を抱へ込んでゐたのである。



【viii】


それを忘れる事は、出來さうになかつた。自己暗示が効かないのである。まだまだ、*「修法」との出會ひの日までには、間があつた。愛刀、傳・鉄燦すら持たない自分が、「正義の味方」だとは、ちやんちやら可笑しかつた。カンテラには「前世」で巡り會つた多くの依頼者逹へ、申し譯ないやうな氣がした。



* 眞言密教の秘術。魔導士としてのカンテラの立脚點である。



【ix】


これを書く事は作者にとつて過大な務めであり、また苦痛ですらある。たゞ、潜らずにゐられない門と云ふものはあるのだ。作者自身の成長の爲に- カンテラのみならず、私は自分の人生と云ふものを、考へなくてはならない。私にも、センティメンタルな氣分になる事があるのだらうか?



【x】


カンテラよ、またいつか會はう、と云ふのも氣が退けた。むざむざきみを殺したりはしないよ、と、そつと呟くだけに留める。この『カンテラ』物語は、今回で一應の終結を迎へる。だが、今迄私が描いて來たやうに、「蘇生」は間々ある事なのだ。それは秘蹟ではあるが。



【xi】


「ジョン・バーリイコーン・マスト・ダイ」と云ふ傳承歌が、西洋にはある。冬に一旦死んで春蘇生する、植物の精の物語である。日本にも多分、そのやうな傳承はあらう。タイムパラドクス- 避けて通れぬ道であつた事だけは、記して置かうと思ふ。さやうなら、私のカンテラ。-未完。



※※※※


〈春曇り流離夢幻の如くなり 涙次〉



愛つて何?

食べられる物?

-良く火を通せばね

洗濯は利く?

-手洗ひだつたらね

何て面倒なんだ!

「お帰りなさいませ、貴方様の揺籃の地に」

其処は妾宅

愛人が三つ指付いてお出迎へ

こゝにも愛

誠の、と云ふ冠の付かない

それから我がヒーローは

守錢奴になつた

さうだこのカネで仲間を買はう!

愛。



PS: 何も付け足す事はない。作者としては、何もかも「出し切つた」作品である。私には、鞍田の彼へのやうにではない、カンテラに對する何がしかゞあつた。それは愛と呼ぶべきものなのだらう。で、一體だからだうだと云ふのだ。正直、私の心は揺れ動いたが、決断の時はやがてやつて來た。讀者には、これは一つの終はりとして受け取つて頂きたい。再見! 擱筆。


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