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鬼狩り裏譚 叛天のサクリファイス【第2部更新中!】  作者: 雨宮ソウスケ
第1部

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幕間一 とある閉ざされた世界にて

 ――き、気まずい……。

 その時、悠樹は何とも言えない居心地の悪さに緊張していた。

 その原因は左隣に立つ少年にある。

 鷹宮修司。つい先日、喧嘩腰に応対してしまった相手だ。

 彼の方もまた忙しげに視線を泳がせている。


 何故このような状況になっているかというと、ここがトイレだからだ。悠樹が用を足していたところに鷹宮が後からやってきたのだ。

 鷹宮は隣に立つまで悠樹の存在に気付いていなかったようで、横に並んで初めて気付き目を瞠っていた。露骨に「しまった」という顔までしていたぐらいだ。


 かくして実に気まずい雰囲気のまま、二人の少年は突っ立っているのである。


(ど、どうしよう……何か話した方がいいのかな?)


 昨日のことを謝る良い機会かもしれない。

 何とも言えない空気の中、悠樹がそんなことを考え始めていると、


「面白そうな状況にィ――俺っち参上ッ!」


「ザ、ザックさん!?」


 今度は玉城が現れた。玉城は悠樹の右隣に立つとガハハッと笑い、


「おう! 悠樹。随分と面白そうな状況になってるじゃねえか」


 そんなこと言い出した。


「……いや。どこが面白いのさ……」


「ガハハッ、これから面白くなるのさ。ところで悠樹よ」


「……何さ?」


「今日の昼飯……御門の姫さんの手作り弁当は美味かったか?」


 ――ピシリッ。

 と、鷹宮の表情が固まった。

 いや、表情だけではない。全身が石像のように固まっていた。

 しかし、隣に立つ悠樹はその様子には全く気付かず呑気に答える。


「うん。美味しかったよ。流石に重箱には驚いたけど、味は由良並みの腕前だった」


 命を助けてもらったお礼ということでご馳走してもらったのだ。

 あまりの豪勢さに流石に周囲もざわついていた。


(――くッ、翔子さんの手料理を……食べただと……ッ!)


 一方、驚愕で鷹宮の双眸が見開かれた。


「ほほう。白い姫さんも料理をするのかい?」


「うん。一緒に暮らしていた時は交代で料理してたよ」


(な、なんだとッ!?) 


 真直ぐトイレの壁を見据えまま、鷹宮は息を呑む。


(一緒に暮らしていただと!?  まさかこの男、鳳さんと同棲していたというのか!?)


 長身の少年は、ただただ呆然とした。

 どうやらクラスメイトの少女が言っていた『ダーリン』という言葉は真実らしい。

 鷹宮は横目で悠樹を見やり、ごくりと喉を鳴らした。

 畏敬さえ抱く事実。何ということか……。

 ――『大人』だ。そう。『大人』なのだ。

 この同い年の少年は、実は経験豊富な『大人の男』だったのだ!


「ふ~ん。ところでお前さん、どっちの姫さんが本命なんだ?」


 と、そんな鷹宮の動揺をよそに、悠樹たちの話は続く。


「えっ、ほ、本命って……なに言ってんだよザックさん!」


 悠樹の顔が赤くなった。


(な、なに? 本命だと? 待て待て、本命はどう考えても鳳さんの方だろ!?)


 鷹宮は激しく動揺し、玉城の方に視線を向けて会話する悠樹の姿に目をやった。

 後頭部を見せる少年を見据えて再び喉を鳴らす。

 まさかこの男、同棲までしておいて鳳さんが本命ではないというのか!


(――いや違う! そうか! くそッ! さてはこいつ!)


 そこでハッとして、鷹宮は気付く。


(鳳さんはきっと本命なんだ。そして、こいつは翔子さんも妻に……愛人にするつもりで狙っているのか!)


 辿り着いたその推測に、鷹宮の両肩が微かに震え出した。

 それはあり得る話だった。なにせ、翔子は神槍の副賞扱いなのだから。

 しかし、だとしても、本命の同棲相手を引き連れて、堂々と愛人を手に入れるために入学してくるとは、なんて恐ろしい男だ。


(……なんて胆力なんだ)


 鷹宮は不快感以上に畏怖してしまった。

 一方、悠樹は真横にいるというのに、その様子に一切気付きもしない。

 ただただ、純情そうなフリ(※鷹宮視点)をして言葉をどもらせている。


「い、いや、確かに御門さんは凄く綺麗だけど、僕には由良が……」


「ははッ、本音が出てんな! 白い姫さんがやっぱ本命ってか! つうか正妻ってことだな! いやはや、モテる男は辛いねえ~」


(……ぐぐぐっ、正妻、だと。やはり僕の推測は当たりだったのか。くそ! こいつ、やはり翔子さんを愛人に!)


 ギリギリ、と鷹宮は歯を強く軋ませる。

 よもやあれほどの美少女たちを、二人とも手に入れようと画策していようとは!

 何とも凄い……羨ましい……いや、許しがたい男であった。


(おのれ! 四遠悠樹!)


 激しい義憤に鷹宮の心は燃える。この男は絶対に許せない卑劣漢だった。

 このまま放置しておくことなど断じて出来ない!

 一夫多妻は今の時代でも続く鬼狩りの風習だった。一人でも多くの子を残すためにだ。この世界は明日も知れない過酷な場所なのである。

 しかし、流石に十代で最初から愛人確保目的など到底見過ごせない!


(絶対にさせんぞ! 四遠悠樹!)


 だが、そんな決意も今だけは面に出さず、鷹宮はその場から静かに移動した。


「ガハハッ、ん? おやおや。鷹宮の坊ちゃん。もう行っちまうんで?」


「……えっ?」


 玉城の言葉につられて悠樹が振り向くと、鷹宮がすでに手を洗い終え、立ち去ろうとしていたところだった。鷹宮は黙々とドアに向かっていた。

 しかし、ドアの前で一度振り向くと、


「……もう用は済んだからね。それよりも四遠君。一つ君に言いたいことがある」


「え? な、何かな?」


 おどおどとした態度の悠樹に、鷹宮はきっぱりと宣言する。


「四遠悠樹……君は僕の敵だッ!」


 それだけを告げると鷹宮はトイレから退出していった。

 残された悠樹は、ガハハッと笑う玉城を背に一拍遅れて叫ぶのだった。


「……えっ、なんでっ!?」







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