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最終章前編 王国の門が見える

それから七日後。


雪原は次第に途切れ、白は土の色へと変わっていった。

凍てついた風は和らぎ、遠くに人の営みの匂いが混じる。


丘を越えた先で、カイルが足を止めた。


「……あれだ」


リュカも顔を上げる。


石造りの城壁。

朝の光を受けて、堂々とそびえ立つ王都の外郭。


「……でっか……」


思わず、素の声が漏れた。


「よく、ここまで来たわね……」


「君がいなければ、辿り着けなかった」


「それ、何回目?」


「事実は何度言ってもいい」


リュカは苦笑し、肩をすくめた。


■門前


王都正門は、厳重だった。


武装した衛兵が槍を構え、二人を制止する。


「止まれ!

身分と目的を告げよ!」


カイルは一歩前に出る。


「王国騎士団、騎士長カイル・ヴァルグレン。

極秘任務より帰還した」


一瞬の沈黙。


次の瞬間、衛兵の顔色が変わった。


「……騎士長……!?

生存されていたのですか……!」


「国王に取り次げ。

今すぐだ」


衛兵は慌てて敬礼し、門が軋む音を立てて開く。


城門をくぐる瞬間、リュカは足を止めた。


「……ここまでね」


カイルが振り返る。


「どういう意味だ?」


「私は、ここまでの人間よ」


城内へ続く道。

暖かな石畳。

人々の声。


そのすべてが、彼女の生きてきた場所とは違っていた。


「王国の中は、私の居場所じゃない」


カイルは、すぐには答えなかった。


■役目の終わり


王城の控え室。


カイルは鎧を外し、正式な礼装へと着替える。

扉の外で、リュカは壁にもたれて待っていた。


やがて扉が開き、彼が姿を現す。


「……すぐ、謁見だ」


「そう」


短い沈黙。


リュカは視線を逸らしたまま言った。


「ちゃんと、言いなさいよ。

あんたが見たこと、知ってること……全部」


「言う」


カイルは頷いた。


「それが、私の最後の“騎士長としての務め”だ」


「……そっか」


リュカは、ほんの少し笑った。


「じゃあ……行ってきなさい」


「……リュカ」


呼び止める声。


だが彼女は、振り返らなかった。


「戻ってきたら……

私は、もういないかもしれない」


「それでも……」


カイルは、静かに言った。


「探す」


リュカは、肩越しに一度だけ振り返る。


「……しつこい男」


そう言いながら、その顔はどこか安堵していた。


■玉座の間(要約)


その日、王城は揺れた。


騎士長の生還。

極秘任務の失敗と、隠された継承計画。

そして、影狩りの存在。


王は沈黙の末、命じた。


——継承計画の白紙撤回。

——影狩りに関わる貴族派の粛清。

——騎士長カイルの処遇保留。


王国は、内乱を免れた。


■城の外で


夕暮れ。


城壁の外、往来から少し離れた場所。


リュカは、いつものように外套を羽織り、弓を背負っていた。


「……やっぱり、落ち着かないわ」


そう呟き、歩き出そうとしたとき——


「待て」


聞き慣れた声。


振り返ると、そこにカイルがいた。


礼装のまま、だが剣は持っていない。


「……早かったじゃない」


「王の前で、すべてを話した。

そして——」


一歩、近づく。


「私は、騎士長を辞した」


リュカの目が見開かれる。


「……は?」


「もう、守るべき“役職”はない」


彼は、真っ直ぐに彼女を見る。


「だが——

守りたい“人”はいる」


沈黙。


夕陽が、二人を赤く染める。


「……私、狩人よ?

城の人間じゃない」


「知っている」


「寒いところしか行かないし、

無茶ばっかりするし……」


「知っている」


「命の保証なんて……」


「それでもいい」


カイルは、静かに、だがはっきりと言った。


「君が選んだ生き方の隣に、

私の居場所があるなら」


リュカはしばらく黙っていたが、やがて息を吐いた。


「……騎士辞めてまで言う台詞じゃないわね」


「後悔はしていない」


彼女は、少しだけ困ったように笑った。


「……じゃあ」


一歩、近づく。


「王国の外で、生きられる?」


「生きる」


「狩人の掟、守れる?」


「努力する」


「寒いわよ?」


「慣れる」


リュカは、ふっと笑った。


「……ほんと、騎士って頑固」


そして、手を差し出す。


「じゃあ……

今度は“一緒に帰る旅”ね」


カイルは、その手を取った。


「喜んで」

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