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第16章 崩れる大地、掴んだ手

古い交易路は、次第に険しさを増していった。


両側を切り立った岩壁に挟まれ、足元は砕けた石と凍った土。

一歩一歩が、試されているような道だった。


「……この先、崩落地帯よ」


リュカの声は低く、慎重だった。


「昔、何度も雪崩と落石が起きた場所。

できるだけ、音を立てずに通るわ」


「了解した」


二人は距離を詰め、互いの動きを確認しながら進む。


そのとき——


ゴリ……


足元で、不穏な音が鳴った。


「——止まって!」


リュカが叫ぶより早く、

彼女の踏んだ岩盤が、ゆっくりと沈み込んだ。


「……っ!」


次の瞬間。


ガラガラガラガラッ!!


地面が崩れ、雪と岩が一気に滑り落ちる。


「リュカ!!」


身体が宙に投げ出される感覚。

視界が白く弾け、重力がすべてを引きずり込む。


リュカは反射的に岩に手を伸ばしたが、

凍った表面は指を弾いた。


(——落ちる!!)


その瞬間、

強い衝撃が腕を掴んだ。


「——離すな!!」


カイルだった。


彼は地面に膝をつき、

崩れゆく斜面の縁で、全体重を後ろへ倒していた。


剣を岩に突き立て、

もう片方の手で、リュカの手首を掴んでいる。


「……っ……!」


腕に激痛が走る。

だが、カイルは歯を食いしばった。


「掴まれ!!

絶対に……離すな!!」


「……バカ……!

あんたまで……落ちるわよ……!!」


「構わない!!」


即答だった。


「君を失うくらいなら——

一緒に落ちた方が、まだましだ!!」


リュカの目が、大きく見開かれる。


「……何……言って……」


崩落は止まらない。

岩が剥がれ、剣がきしむ。


このままでは、二人とも引きずり込まれる。


(——選べ)


リュカの頭に、冷たい判断がよぎる。


(この手を離せば、

彼は助かる)


だが——


カイルの手は、震えながらも、決して緩まなかった。


「……離すな、リュカ……!」


その声は、命令ではなく、

願いだった。


リュカの胸が、強く締めつけられる。


(……もう、一人で決めないって……言ったばかりじゃない)


「……カイル……」


リュカは必死に体勢を変え、

もう一方の手で、岩の裂け目を探る。


指先に、わずかな凹凸。


「……少し……時間……ちょうだい……!」


「いくらでもだ!!

君が掴むまで、私は——」


ガキンッ!!


剣が、岩の奥へ深く食い込んだ。


カイルは全身の力を使い、

リュカを一気に引き上げる。


「今だ!!」


リュカは歯を食いしばり、

最後の力で身体を跳ね上げた。


次の瞬間——

二人は崩落地帯の外へ転がり出た。


■静寂のあと


しばらく、音がなかった。


ただ、遠くで崩れ続ける岩の音だけが響いている。


「……っ……はぁ……」


リュカは仰向けになり、荒く息を吐く。


「……生きて……る……?」


「……ああ……」


カイルは同じく倒れ込み、天を仰いだ。


数秒後、リュカがゆっくりと起き上がり、

カイルを見下ろす。


「……あんた……

なんで、あんな無茶……」


声が、震えていた。


「……判断だ」


カイルは、少しだけ笑った。


「今回は……

二人で決めるって、言っただろう」


リュカの目に、熱いものが込み上げる。


「……本当に……

騎士って……バカね……」


「君に言われるとは……光栄だ」


リュカは、彼の胸元を掴み、

ぎゅっと額を押し付けた。


「……二度と……

一人で死ぬ気で動かないで……」


「約束しよう」


カイルは、そっと彼女の背に手を回す。


崩れた大地のすぐそばで、

二人は確かに生きていた。


そして——

その“命懸けの選択”は、

もはや引き返せない場所へ、二人を導いていた。

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