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第13章 二人で決める道

雪がやんだのは、夜が深くなってからだった。


岩陰に張った簡易の幕の中で、焚き火が小さく揺れている。

炎の熱に包まれながら、リュカはゆっくりと目を開いた。


「……朝?」


「いや、まだ夜だ。

だが……顔色はずいぶん良くなった」


カイルは安堵したように息を吐き、火に薪を一本くべる。


「無理はさせていない。

君が目を覚ますまで、ここで動かなかった」


「……真面目ね……」


そう言いながらも、リュカの声には以前のような鋭さはなかった。

身体を起こし、軽く肩を回す。


「痛みは……まだあるけど、動けるわ。

熱も……下がったみたい」


「それならよかった」


カイルは一歩引き、彼女の判断を待つ。

その態度に、リュカは少し驚いたように眉を上げた。


「……行き先、聞かないの?」


「聞きたい。

だが……今回は、君が一人で決めるべきではないと思った」


焚き火の音だけが、二人の間を満たす。


「……どういう意味?」


「これまでは、君がすべて判断し、私が従ってきた。

それは合理的だったし、正しかった」


カイルは地図を広げ、火の光の中で指を置く。


「だが、クロウが出てきた今、

この旅は“君一人の経験”だけでは測れない領域に入った」


リュカは黙って地図を見つめる。


「私は戦場で、人の動きを読むことに慣れている。

敵が何を恐れ、何を狙うか……それを踏まえて判断したい」


そして、ゆっくりと視線を上げた。


「だから——

これからの進路は、二人で決めたい」


その言葉は、命令でも懇願でもなかった。

ただ、対等な“申し出”だった。


リュカはしばらく黙り込み、やがて小さく笑った。


「……ずるいわね。

そんな言い方されたら、断れないじゃない」


「断ってもいい。

だが……私は君の隣に立ちたい」


リュカは深く息を吸い、地図に指を伸ばした。


■選択肢


「今、道は三つあるわ」


彼女は地図の上をなぞる。


「一つ目。

このまま森を抜け、最短距離で山道へ入る。

でも……クロウは絶対にそこを張る」


「合理的だが、危険だ」


「ええ。

二つ目は、川沿いに南へ大きく迂回するルート。

追跡はしづらいけど、氷が薄い。

下手すれば……溺死よ」


カイルは静かに頷く。


「そして三つ目は?」


「……ほとんど使われない古い交易路。

地図にも、まともには載ってない」


「なぜ使われない?」


「危険だから。

崩れかけの岩場と、獣の巣がある。

でも……人の気配はほぼゼロ」


焚き火がぱちりと音を立てた。


カイルはしばらく考え、静かに口を開く。


「クロウは“合理的な追跡者”だ。

彼は安全で、確実なルートを選ぶ」


「ええ。

だから……三つ目は、読まれにくい」


リュカは視線を上げ、カイルを見る。


「でも、危険度は一番高い。

下手すれば……影狩りに会う前に死ぬ」


カイルは一歩も引かず、答えた。


「それでも、私は三つ目を選ぶ」


即答だった。


リュカは一瞬、目を見開き、やがて笑った。


「……理由、聞いていい?」


「君は、自然の危険を“予測できる”。

だがクロウは……自然を道具にすることはあっても、完全には読めない」


「……なるほど」


「そしてもう一つ」


カイルは視線を落とし、低く言う。


「私は……君に、これ以上追い詰められてほしくない」


その言葉は、剣よりも真っ直ぐだった。


リュカはしばらく黙り込み、やがてゆっくり頷く。


「……わかった。

三つ目の道を行きましょう」


焚き火の向こうで、二人の視線が重なる。


「ただし——」


「?」


「判断は、これからも二人で。

どちらかが無理だと思ったら、必ず止まる」


「約束しよう」


二人は軽く拳を合わせる。

それは騎士の誓いでも、狩人の流儀でもない。


“共に生きて進む”ための合図だった。


外では、夜明け前の風が静かに吹き始めている。


その先に待つのは、

誰も踏み入れない危険な道——

そして、二人で選び取った未来だった。

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