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第12章 支え合うということ

森を抜けてしばらく歩いた後、リュカの足取りがわずかに乱れ始めた。


最初に気づいたのは、カイルだった。


「……リュカ。少し、歩幅が狭くなっている」


「……気のせいよ」


そう言って前を向いたが、次の一歩で、リュカの膝が小さく折れた。


「っ——!」


即座にカイルが腕を伸ばし、彼女の身体を支える。


「リュカ!」


「……大丈夫……」


そう言いながらも、声に力がない。

カイルは彼女の肩に回した手に、異変を感じた。


――熱い。


「……熱がある」


「……少し、ね……」


リュカは観念したように息を吐いた。


「さっきの傷……氷瀑のときのかすり傷。

血は止まってたけど……たぶん、冷やしすぎた」


「なぜ言わなかった」


「言ったら……止まるでしょ。

クロウに追われてる今、足を止めるのは……」


言葉の途中で、ふらりと身体が傾く。


カイルは迷わず、彼女を抱き寄せた。


「もう十分だ。

今度は——私が判断する」


リュカは驚いたように目を見開く。


「……あんたが?」


「ああ。

君はいつも“守る側”で、全部一人で背負ってきた。

だが……今は違う」


カイルは静かだが、揺るぎのない声で続けた。


「君が倒れたら、私は前に進めない。

それは……任務以前に、私自身の意思だ」


リュカは何か言い返そうとしたが、力が入らず、ただ小さく息を吐いた。


「……ほんと……生意気になったわね……」


「君の教えだ」


カイルは周囲を素早く確認し、風を避けられる岩陰へ彼女を導いた。


■立場の逆転


小さな岩陰に入り、カイルはマントを外して地面に敷いた。


「ここで休もう。短時間でいい」


「……追われてるのに……」


「追われているからこそだ。

君が倒れたら、クロウの思う壺だ」


リュカはしばらく黙っていたが、やがて小さく頷いた。


「……わかったわよ……少しだけ……」


カイルは彼女を座らせ、慎重に肩の包帯を解いた。


傷口は赤く腫れ、わずかに熱を持っている。


「……悪化している」


「だから……言わなかったのに……」


「それは、理由にならない」


きっぱりと言い切り、カイルは水筒を取り出す。


「冷やす。

そして、君がいつも私にしたように……ちゃんと手当てする」


不器用ながらも、真剣な手つきだった。


リュカはぼんやりと、その横顔を見る。


「……あんた……

ほんとに、騎士ね……」


「そうか?」


「ええ。

人を守ることを……当たり前だと思ってる顔してる」


カイルは一瞬、手を止めた。


「それは……君から学んだ」


リュカは小さく笑った。


■弱さを預ける


しばらく沈黙が続いたあと、リュカがぽつりと呟く。


「……怖かったのよ……」


「何がだ?」


「……自分が倒れること。

もし私が動けなくなったら……

あなたが、ひとりでクロウに向き合うことになる」


カイルは包帯を巻き終え、リュカの手を取った。


「それは違う」


「……?」


「君が倒れても、私は逃げない。

だが——君を置いていくこともしない」


真っ直ぐな視線が、彼女を捉える。


「私は君を守ると決めた。

それは命令でも、義務でもない。

……私自身の選択だ」


リュカの胸が、ぎゅっと締め付けられる。


「……そんなこと言われたら……

本当に、逃げ場がなくなるじゃない……」


「逃げなくていい」


カイルはそっと彼女の額に手を当てる。


「今は、休め。

君が立ち上がるまで……私はここにいる」


その言葉に、リュカの肩の力が抜けた。


「……じゃあ……少しだけ……

任せても……いい?」


「ああ。いくらでも」


リュカは目を閉じ、カイルの肩にもたれかかる。

凍てついた世界の中で、確かな温もりがそこにあった。


影は確実に迫っている。

だが今この瞬間だけは——

二人は“支え合う”という形で、同じ場所に立っていた。

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