婚約破棄は承りますが新たな婚約はお勧め致しかねます
「アンナ・フォン・イディオン、お前との婚約を破棄させてもらう。そして、お前の妹であるカミーユ・フォン・イディオン嬢と新たに婚約を結ぶ。もともとお前との婚約は我が王家とイディオン侯爵家との縁を結ぶための政略結婚。ならば妹であるカミーユでも問題ないはずだ」
第4王子であるフリードが宣言する。物語でよくある重要なパーティーの席でないだけまだマシではあるが考えなしであることに変わりない。
ここは二人の婚礼に関する打ち合わせのために王や王族たちとの謁見に向かう廊下の途中であった。
「婚約破棄は承りますが、カミーユとの新たな婚約はお勧め致しかねますわ。フリード王子殿下」
婚約破棄を突きつけられたアンナ・フォン・イディオン侯爵令嬢が答える。その表情には怒りも悲しみも侮蔑も無い。そこにあるのはただただ憐れみのみである。「問題は大アリです。主に殿下にとって」
「ふっ。妹に嫉妬とは見苦しい。真実の愛で結ばれた二人の間にお前の入り込む余地はない。お前は黙って俺達の幸せを眺めていればいいのだ」
自分に酔っているフリード王子。最後の一言は聞こえていないようだ
「嫉妬も何も、政略結婚だと言ったのはご自分じゃありませんか。しかも貴男が婿入する立場ですから、私に不都合は御座いませんわ。そもそも私には弟しか居りませんわ」
ますます憐れみを強めた表情になるアンナ
「何を言っている。だからカミーユが「ですからカミーユは妹ではなく弟。男ですわ」
第4王子の言葉を遮るアンナ。
「な、な、な・・・・・」
理解が追いつかないフリード王子
「カミーユは女装をしておりますが、中身は心身ともに男です。しかもたちの悪いことに性癖は『女が好きな男』が好みという問題児です。女装はそういう殿方の気を引くためですわ」
「マジ?」「マジ、ですわ。不本意ながら」
フリード王子視線は定まらず、ぽかんと口を開ける。漫画やアニメなら口から幽霊が出ている描写がなされるに違いない。所謂魂が抜けた状態だ
「ヒドイですわ、お姉様。勝手にバラしてしまうなんて」
件の妹、ではなく弟登場
「バレちゃった(てへぺろ)」
「お前、男だったのか!?冗談、だよな?」
「本当ですよぉ。今夜にでも確かめに来ますかぁ。」
「ふざけるな!俺を騙しやがって!」声を荒らげるフリード王子
「殿下、声が大きいですわ。カミーユもいい加減女言葉おやめなさいい」
「僕自分を女だなんて一言も言ってないぜ。殿下が好みなのも本当だし。だ・か・ら、このまま結婚しちゃおうよ」
「ふざけるなー」
フリード王子魂の叫び
「一体何の騒ぎだ?」
「あら陛下、御機嫌よう」
騒ぎを聞きつけて国王陛下御成。優雅なカーテシーで応じるアンナ
「フリード殿下が私との婚約を破棄してカミーユと結婚したいと言い出しまして・・・・」
「それでアンナ嬢としては婚約解消に異議はあるのかね?」
「いいえ、婚約破棄については特にございませんが」
「それではフリード第4王子とアンナ・フォン・イディオン侯爵令嬢との婚約は円満解消とし新たにフリード第4王子とカミーユ・フォン・イディオン侯爵令息との婚約を正式に認める。二人の式の日程はアンナ嬢との式の予定をそのまま踏襲する」
「やった!さすがは陛下、話せるぜ」「カミーユ、陛下の御前ですよ。言葉遣いに気をつけなさい。陛下申し訳ございません」「良いよい」
一方納得いかないのがフリード王子
「親父、カミーユは男だと言うじゃありませんか。男同士で結婚しろというのですか!?」
「カミーユ君が男なのは知っとるよ。ちゃんと『侯爵令息』と言っただろう」
「だったら何故」「そのほうが面白い」
「お、面白いですって」
唖然呆然フリード王子
「それが自分の息子に向かって言うセリフですか」
「そのことなのじゃがな、実はお前はわしの子供ないのだよ。お前の母親である側室とは純然たる政略結婚で互いに割り切っていて、男女の関係は一切ない。よそに男を作ることも咎めることはないと伝えてある。事情を知らないものに注意だけはしてもらったがな。世継ぎ問題も正室との間に男児が3人も居て全員健康で能力人格ともに問題ないし」
「だからといって、男同士ですよ」
「男同士で結婚できないという法はないしな」
こともなげに言う国王
「いや、あるでしょう」
フリード王子も(それほど)バカではないので法律の勉強位はしている
「たった今無くなった」
無茶を言う国王。されどそれがまかり通るのが国王
「ところで父上が実の父親でないのなら本当の父親はどこの誰なのですか?」
当然の疑問だが国王は
「知らん。割り切った関係だからやつの男性関係は特に聞いておらん。秘密にしていたわけでは無さそうだから聞けば答えたかもしれないが、必要も感じなかったしな」
そこは必要星感じろよ!と、呆れる王子
「その割に父上と母上は仲むずまじく見えましたが」
「恋愛感情はなかったが友人としては良好な関係だったからな。正室の理解もあったし対外的にも良好な様子を見せたほうが良いからそう見せていたところもあるな」
「冗談はおいておいて実を言えば孫の世代までの世継ぎのことを考えるとお前の結婚相手が男というのは好都合なのだよ。侯爵家の後ろ盾のある子供だと、世継ぎに担ぎ上げようとする輩が現れぬとも限らないからな。その点男同士の結婚なら子供は出来ようがないから心配ない。仮によその女を作って子供を産ませてもさすがに世継ぎにとうい話にはならぬだろうからな」
国王、本音をぶっちゃけました
「あーひっどーい。今から浮気の話?もし女を作ったらその女僕が取っちゃうぞ」
話に割り込むカミーユくん
「お前、男好きじゃなかったのか」
「えー、女の子も好きだよー。でも殿下が浮気しなければ僕も殿下一筋で添い遂げてあげるよ」
「いらん!」
「そもそもイディオン侯爵が男同士の結婚で入り婿なんて認めないだろう」
一縷の望みをかけて問う
「ご心配には及びませんわ。父はカミーユに甘いのでカミーユが望めば積極的に賛成に回り反対する者を説き伏せに奔走するに違いありません。困ったことに」
こうしてフリードの意思を無視した形でフリード第4王子とカミーユ・フォン・イディオン侯爵令息との婚姻は実現に向かって驀進するのであった。
そして、二人の結婚式当日
「カミーユ、なんでお前男の格好してるんだよ!?」
そう。カミーユは女装を止め普通に新郎の姿で現れたのだ
その姿は超絶イケメン。フリードも十二分に美男子なのだが女装を止めたカミーユと並ぶと思い切り見劣りしてしまう。カミーユが女装したままなら美男美女の新郎新婦で絵になっったであろうに、残念な王子様
「僕男なのだから、当たり前だろう」
「だが、ウエディングドレス試着していたじゃないか」
「あれは殿下に見せるためだけに着たんだよ。綺麗だったでしょう?僕の花嫁姿」
「いらんわ!そのためにお色直しに3着も用意したのかよ!?」
「見たかったら、いつでも着てあげるよー」
「おめでとうございます。殿下、カミーユ」
そこに現れるアンナ・フォン・イディオン公爵令嬢
「ありがとう姉様」「めでたくない!」
返事はそれぞれ。
「カミーユ、花婿姿似合ってますよ。それにしても殿下、花嫁姿にさせられなくて良かったですわね」
「あーその手があったか。姉様、早く言ってよ」「冗談じゃない!」
「今から殿下を花嫁姿にするのは無理だけど、お姫様抱っこならしてあげられるよ」
とんでもないことを言い出すカミーユ。フリードの足を払うと素早く抱きとめ、あっという間にお姫様抱っこ成立
女装が様になっていただけに男にしては背も低く華奢に見えるカミーユだがその実案外逞しい
「このまま式場に入場しよう」
更にとんでもないことを言い出すカミーユ。そしてそれを実行してしまう
「やめてくれー」
フリード王子の悲痛な叫びが虚しく響き渡るのであった




