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レッド・シティ  作者: 最上優矢
第二章 姉さんは私を選ばない
8/11

2-2

 バイトの時間中、どうも姉さんからたくさんの返信があり、その数は百を超えていた。

 最初のほうの返信は一見すればまともなことを言っているように見えるのだが、中盤からは私を憎み、けなすようなことばかり書いていて、終盤のほうはちょっと何を言っているのか、分かりかねた。


 私はホラー映画に出てくる化け物を扱うかのように、スマートフォンをズボンにそっと仕舞うと、早々に職場から姉さんがいるであろう「グラン」までタクシーを使って移動する。


 姉さんからの支離滅裂な返信だろう、そのあいだもスマートフォンの通知音は鳴りやまなかった。

 何が送られてきたか気になって、いくつか姉さんからの返信をタクシー内で読んだが、すぐに私は後悔した。


 支離滅裂どころか、一人で勝手に妄想するあまり、いくつかの壮大な物語ができてしまっているではないか。


 これが姉さんの本性だろうか、そう私は姉さんについての認識を改めざるを得なかった。


「グラン」には十分ほどで到着した。


 私は交通系ICカードで決済をすると、自分でタクシーのドアを開けて外に降り立った。

「グラン」の出入り口には、生気がない顔をした姉さんがロウソクのように突っ立っていた。


 私は姉さんのそばに近寄ると、恐る恐る彼女に声をかけた。


「……姉さん」

「あっ」


 途端に姉さんの顔が太陽のように明るくなる。


 なぜだろう、それを見て私は胸くそ悪さを感じた。

 自分でもどうして胸くそ悪くなるのか、分からなかったが、理由はすぐに分かった。

 姉さんが私の理想の人物ではないことに気づいたからだ。


 そう、姉さんは完璧で優秀な人間ではなかった。

 どころか、私が嫌いとする人物に近かった。

 この世に完璧で優秀な人間はいないのだと、このとき私はようやく目が覚めた。


 良い夢を見た。


 姉さんもただの人間、同じ短所を持った人間。

 精神を病んだ人なんて、この日本では珍しくもなんともない。


 私は非日常が日常に戻るのを感じ、どうにもやるせない気持ちになった。


「やあ、姉さん。……これから私と買い物をするっていうのは、どういう思いつきですか?」

「あれ? チャットで送ったと思うけど、これからあたしたち、きみの誕生日パーティをするんだよ」

「私の誕生日は、まだ先です」


 その直後、姉さんの顔が固まった。

 私はビクッとして、身構えた。


「……あれ、そんなはずはないよね。だって今日、きみの誕生日だもん」

「さっきも言ったように、私の誕生日はまだ来ません」

「でも……」

「……別の誰かの誕生日と、間違えているのではないでしょうか」


 このときすでに私の中では、昨夜の姉さんが口にした“あなた”という人物が脳裏をよぎっていた。


 私は怖がる気持ちを抑えながら、口角を上げて笑ったように見せかけた。

 姉さんは宙を見つめたまま無言になるが、やがて先ほどの明るさを取り戻した。

 それはある種の狂気ともいえよう。


「でもね、今日は“あなた”の誕生日パーティをしたい気分なの。だって、今日は“あなた”の誕生日なんだもの。……しようよ、誕生日パーティ」


 いつからだろうか、見れば姉さんの顔は笑っていなかった。

 というより、私よりも恐怖に怯えたような顔をしていた。

 戦慄した私といえば、何度もコクコクとうなずくことしかできなかった。


 姉さんは不自然なほどに喜び、突然万歳を繰り返した。

 私は鼻白んだ。


「嬉しいなぁ。今日はお酒、たくさん飲んじゃうもんね~」

「……そう、ですね」


 私はそれだけ言うと、急に襲ってきた頭痛を和らげるため、こめかみを何度かマッサージした。


「どこでパーティ、やるんですか」

「きみの家でやろうよ」

「それはいいんですけどね……でも、部屋の広さは誇れませんよ」

「それを気にしたら負けだよ」


 姉さんはカラカラと笑った。


 私は盛大にため息をつくと、「では、パーティのためのお菓子やドリンクでも買ってきますかね」と「グラン」の出入り口を一瞥する。


「ちなみにさ、きみ」

「はい?」

「誕生日ケーキも、ちゃんと買おうね……? 立派なショートケーキ」

「そう、ですね」


 なんだろうか、悲しくなった私は目を伏せ、姉さんよりも先に「グラン」の中に入った。


 それから私と姉さんは誰のためかも分からない誕生日パーティをするため、「グラン」で必要なものを一通り買った。


 私は姉さんを連れた状態で、夕方には四号サイズの誕生日ケーキが入った袋を手にぶら下げたまま、1DKの賃貸マンションに戻った。

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