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レッド・シティ  作者: 最上優矢
第二章 姉さんは私を選ばない
7/11

2-1

 刺激的な一日が終わった翌日の朝。


 私はコンビニのバイトに向かう途中、まだ眠たい目を無理やりにでも覚ますため、アイス缶コーヒーを自販機で買い、道端で立ち飲みしていた。


 そんなとき、私はスーツ姿の若い刑事のような女性に「ちょっといいですか」と声をかけられた。

 ショートヘアの彼女は狐目で、頬に火傷の跡が残されていた。


 私は缶の飲み口に口を付けたまま、目を大きく開けて彼女を凝視する。

 そんな状態が十秒ほども続いた。


 ついにしびれを切らしたのか、彼女は苛立ったように私のフルネームを口にすると、「昨夜、あの性悪女と武蔵小杉のショットバーにいましたよね」とストーカー顔負けの情報を言ってきた。

 どういうことか知らないが、性悪女とは姉さんのことだろう。


 私はギクリとし、あわてて缶コーヒーから口を離した。

 その拍子に缶コーヒーの中身がこぼれ、私の手を冷たく濡らした。


 私は驚きに満ちた表情で「ど、どうしてそれを?」とお決まりの文句を言った。

 彼女は鼻を鳴らして「悪いことは言いません。あの女とは、交流しないほうが身のためですよ」と言うなり、足早に立ち去ろうとする。


 私は彼女を呼び止めた。

 前から決められていた事項のように、素早く彼女はクルリと後ろを振り返る。


 その人間臭さを感じない動きに、私は気味悪さを覚えた。


「あなたは……姉さんとどういう関係ですか」


 彼女は空を仰いでから、元来た道を戻り、私と相対する。


「ははあ、姉さんというのは、あの女のことですね。――それはともかくとして……どういう関係?」

「はい」


 女性は自問するように「……どういう関係?」とつぶやいた。


 私は女性が答えるのを待った。

 自問した答えが返ってくるのを期待でもしているのか、それから女性は口を閉ざした。


 状況は悪くなるばかり。

 これでは何も進展しないだろう。


 やれやれ、と私は缶コーヒーに口を付けて、ゴクリと喉を鳴らして飲んだ。


 私が三口飲んだあたりでようやく、女性は私の質問に答えてくれた。


「強いて言うなら、あの女は事件加害者のようなもので、わたくしは事件被害者の関係者といったところでは?」

「姉さんは……何か良くないことでもしたんですか?」


 女性の目がつり上がり、今すぐにでも私に唾を吐きかねないような怒りの形相をした。


 それを見て、思わず私は後退った。


「一言でいうと、あの女の罪は人を呪い殺したこと、それに尽きますね」

「呪い……」


 昨夜のショットバーからの帰り道のことを思い出し、私は身震いした。


 女性は怒りに満ちた表情から真顔に戻る。


「あなたは知らないと思いますが、ショットバー「レイン」はあの女が一夜限りの関係のために使う舞台なんです。だから――」

「嘘です!」

「……だから、あの女があなたとともにラブホテルに向かわなかったことが、どうも不思議でたまらなかった。

 で、今朝気づいたんですよ、わたくしは。――今回のあの女の被害者は、あなただってことに」

「警察に通報します。これは立派な声かけ事案です」

「通報ですか、どうぞご自由に。

 ……ちなみに言うと、まだ新米ですが、わたくしは刑事部の捜査第一課に所属している者です。念のため、名前も教えておきましょうか」


 女性刑事から彼女の名前を聞いたが、一瞬で私は彼女の名前を忘れてしまった。


 唐突に刑事さんは「わたくしの電話番号でも教えておきましょう。何かあったときには、それですぐ連絡が取れるように」とあらかじめ用意しておいたのだろう、胸ポケットから電話番号らしき数字が書かれたメモ用紙をさっと取り出すと、私に両手で渡してきた。

 私はクシャクシャにしてしまいたいのをこらえ、メモ用紙を受け取ると、適当にズボンのポケットに仕舞った。


 そんな私の一挙一動を見守っていた刑事さんは、これから本題を話すのだというように「さて」と口にした。


「そんなにわたくしの言葉が気に障るというのなら、あの女との交流を止めはしません。どうせたどる運命は同じです。

 ……はっきり言いましょう、あなたはあの女に呪い殺されるんです」

「望むところです。呪いなんて、この世に存在しない」


「そう言っていられるのは、今のうちです。

 わたくしの見立てでは、あの女の精神はあなたという依存相手の登場で、そろそろ限界を迎えるはずですから……今週が山場でしょう」

「山場も何も、私たちの関係はまだ始まったばかりです。ですので、まだまだ序盤ですよ」

「だといいですね」


 刑事さんは私をあざ笑った。


 私の目は怒りで細くなり、自然と拳を握りしめるはめになった。


「言いたいことはそれだけですか」

「それだけです。……またお会いしましょう」


 刑事さんは一礼すると、私の横を通り過ぎていった。


 むしゃくしゃした私は缶コーヒーの中身を飲み干すと、空き缶を刑事さんの背中にぶつけようとしたが、寸前で思いとどまった。


 私はイライラする気分のまま、職場先のコンビニまで向かった。

 始終モヤモヤとしながら、私は朝から昼までの時間、バイトに勤しんだ。

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