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私は話題を変えることにした。
「前の職場なんて、忘れましょう。心機一転です!
――とまあ、私の職場なんですけど、良かったらコンビニのバイトでもしませんか?」
「……インフォメーションの受付の仕事をクビになって、ようやく分かったんだ。あたしは接客業務、向いてない」
「そんなことないですよ。職場の環境が悪かっただけではないでしょうか。だって姉さんは悪くないんですから」
姉さんを励ますために言った言葉だったが、姉さんは違う捉え方をしたようで、彼女は私を眼光鋭く射すくめる。
ギクリとする私。
「……きみはあたしの何を知ってるの? なんにも知らないくせして、勝手にあたしを善人に仕立て上げないでよ」
「それは……申し訳ないです」
「うるさい。頭を下げるな、謝るな!」
酔いが回ってきて怒りが出やすくなっているのか、それともそれまでの鬱憤を溜め込むのが限界になったのか、不意に姉さんは怒りをぶちまけ始めた。
「あたしは許されなくていい、そうやって“あなたたち”があたしを許さないんだったら、あたしも“あなたたち”を許さない……謝罪しようと、泣きすがろうと、土下座をしようと、命を代償にしようと、何がなんでもあたしは許さない。
この世すべての善があたしに牙を向くんだったら、あたしはこの世すべての悪で、“あなたたち”に立ち向かう」
「……姉さん」
姉さんの鬼気迫る表情に、ついに私はあとの言葉を続けることができなかった。
肩で息をする姉さん。
かと思えば、急に姉さんはタガが外れたように笑い出した。
私は度肝を抜かれ、思わず少しだけ腰を浮かせた。
姉さんの狂気ともいえる笑いは、それからピタリと止んだ。
できるだけ姉さんを刺激しないよう、廃人のような表情の姉さんに私は「とにかく元気を出してくださいよ」と彼女の手を握りしめた。
そのときだった。
私が姉さんの手を握りしめた瞬間――姉さんは甲高い悲鳴を上げ、恐怖と驚きに満ちた表情で手を引っこめた。
それにはさすがの二人のバーテンダーも、血相を変えて仲介に入った。
今ので酔いが醒めたのだろう、そのときには姉さんはいつもの姉さんに戻っていた。
「ごめんなさい、なんでもありません。手を握られて、思わず驚いたんです」
そう気まずそうに笑いを浮かべていたが、やはり姉さんの顔色は悪かった。
もちろん、私の顔色はさらに青ざめていたことだろう。
なんとなくここで話をする気も失せたのだろう、それからすぐに姉さんは「チェック」と言い、私の分まで会計を済ませた。
私はなんとも言えないまま、姉さんとともにショットバー「レイン」から出た。