表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レッド・シティ  作者: 最上優矢
第二章 姉さんは私を選ばない
11/11

2-5

 それから日付は経ち、連絡も何もなかった姉さんから、一通のチャットが送られてきた。


「面会許可、下りたよ。来てほしいな」


 すぐさま私は姉さんが入院している病院まで駆けつけた。


 面会時間は三十分だと、私は病棟の看護師から説明を受け、面会室にて姉さんと面会。

 化粧をしていない姉さんは病衣を着ていて、その顔は精神的ストレスのせいか、やつれていた。


 私は椅子に座る姉さんに軽く手を挙げてから、テーブルを挟んで彼女と向かい合った。

 看護師が面会室を出て行き、二人きりになる私たち。


「…………」

「…………」


 沈黙が続く。

 先に沈黙を破ったのは、姉さんだった。


「……もしもあたしが死んだら、きみはどうなっちゃう?」

「悲しくて……心が砕けます」

「人の心ってね、案外丈夫なんだよ。砕けそうで、砕けない」


 姉さんは自分のことを言うように、唇を噛みしめた。


「心なんて、砕けてしまえばいいのにね。

 ……中途半端に心が傷つくから、余計苦しむんだよ。そう、拷問のようにね」

「そう、ですね」


 それだけしか言えない自分を恥じる私。


 姉さんは乾いた咳を何度かしてから、先ほどの話に戻った。


「あたしってね、いつ死ぬか分からないんだ。というより、すでにあたしが呪い殺した人間から呪い殺されるの。

 ……今呪い殺されるかもしれないし、まだ呪い殺されないのかもしれない」

「やめてください。そんな縁起でもない」


 なんだか悲しくなった私は、姉さんから目をそらした。


 こんな重苦しい話をするために、私は面会しに来たわけではない。

 ただ私は……姉さんを元気づけたかった。

 それなのに、なぜこんな話になってしまうのだろう。


 私はため息をついた。


 するとそのとき、姉さんは激昂した。


「目をそらさないで、ため息をつかないでよ!

 ……あたし、何か悪いことをした?」

「……いえ。姉さんは何も悪いことをしていないです」


 動揺しながらも、私は姉さんをなだめようとした。

 しかし、姉さんの苛立ちはなくなるどころか、かえって悪化していった。


「嘘つき、嘘つき嘘つき嘘つき、嘘つき!」


 姉さんは面会室のテーブルを何度か拳で叩くと、絶叫を上げた。


 看護師がやってくる気配。

 私は焦った。


 愛を伝えたい。

 この愛を――伝えたい!


 私は椅子から立ち上がる。

 姉さんの元まで駆け寄り――私は愛を込めて彼女を抱きしめた。

 一瞬だけ、姉さんは抵抗したが、それもすぐに収まった。


 看護師が駆けつけた頃には、姉さんは大人しくなっていた。

 けれど看護師の判断で、面会はそれで打ち切られてしまった。


 私は面会室から出て行く廃人のような姉さんを見て、こらえ切れず、わっと声を上げて泣いてしまった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ