二十三歳の独身男性の私には、大切な人がいた。
大切な人というのは、享年二十七歳で先日亡くなった姉さん――姉さんというのは血縁関係での意味ではなく、単なる愛称での意味――のことだ。
これまでに私は姉さんのことを嬌声が出るほどに愛し、姉さんのことを反吐が出るほどに憎みもした。
私にとっての姉さんとは、誰よりも特別で大切だった人のこと。
胸のざわめきに誓って、それは本当だ。
しかし、私にとって愛することは、憎むことでもある。
少年期にいじめを受けたからか、同じく子どものときに両親から愛情を受けて育たなかったからなのか、はたまた家庭環境が良くなかったからか――私は人を愛すと、必ず憎むこともするようになっていた。
もはや、クセのようなものだと、私は受け入れていた。
我ながら、厄介な性格をしていると、半ば呆れもするが、こればかりは仕方ない、そう諦めもしている。
……もしも私が姉さんを愛していなかったのなら。
今も姉さんはタピオカティーを飲みながら、誰かと談笑でもしていただろうか。
その談笑する相手が私でなくても……それでも私は姉さんに生きていてほしかった。
この世界で誰かを裏切り、誰かに裏切られていてほしかった。
何回絶望しても何回でも希望を持っていてほしかった……何度も転んでも何度でも起き上がってほしかった。
姉さんを追い詰めたのは、誰であろう、この私だ。
私が姉さんを自殺にまで追いこんでしまった。
……姉さんは。
私、が。
殺した。
私が姉さんを殺した。
凶器は狂気。
凶器は私の狂気でもあるし、姉さんの狂気でもある。
私たちは互いに凶器を手にし、お互いを傷つけ合った。
自分自身を傷つけながら。
それにより、姉さんは狂気によって力尽きてしまった。
私のせいだ。
姉さんの遺書を読み返せば読み返すほど、私は自責の念に駆られていく。
これで何度目だろうか、再び私は姉さんの遺書を読み返す。
長い時間をかけて、じっくりと読み返していく。
…………。
……あぁ。
どうも現在に囚われ過ぎていて、私は過去の思い出を振り返ることをしなかったようだ。
私は新鮮ともいえる懐かしさを感じ、不覚にも涙を流す。
いつだっただろうか、私が姉さんと初めて会った日は。
確かあのとき――あれは忘れもしない出会いの季節、桜が舞う春のこと……。