クリスマスに咲く奇跡の花、それと筋肉
きみは、サンタクロースを信じるかい?
ああ、わかるよ。サンタの正体はパパやママだって言うんだろう。僕もそう思ってた。
「今年のクリスマスは、何もいらないよ」
だから、母さんにそう伝えたんだ。欲しいものはなんにもない。ただもし願いが叶うなら、母さんを守れるくらい強くなりたかった。
その夜。布団に潜り込んでひとり母さんの帰りを待っていたら、聞こえてきたんだ、しゃんしゃんと鈴の音が。
アパートの二階の窓をそっと開けてみると、すぐそこにサンタの乗ったソリが浮かんでいた。真っ赤なお鼻のトナカイさんに引かれて。
「やあマサルくん。よいこのきみにプレゼントだ」
優しい声とともに、サンタの背負った袋から光の球が飛び出す。それはくるりと回ってから部屋の真ん中に落ち着いて、リボンの付いた箱になっていた。ずっしり重たい箱だった。
──気付くと、サンタの姿はもうなかった。
☆ ☆ ☆
あれから十数年。
今年もクリスマスがやってきた。
職場でのささやかなパーティの帰り、道にうっすら積もった雪を踏みしめて歩く僕の耳に、覚えのある音が聞こてきたんだ。
しゃん、しゃん
鈴の音に導かれるように、迷い込んだ路地裏──そこには見間違いようのない、あのときのサンタがいた。
「やあ、マサルくんだね。ハンサムになった」
だけど様子がおかしい。トナカイさんが、ぐったり力なく横たわっている。
「何かあったんですか?」
「それがね。彼、出発直前に酷い失恋をしてしまって。ここまでは、どうにか頑張ってくれたんだけど」
サンタは深くため息を吐く。
「今年は、プレゼントを配れないかも」
「え!? そんな……」
そんなのは、絶対だめだ。
こうなれば僕が一肌脱ぐしかない。
コートを脱ぐと、その下のタンクトップも破り捨てた僕は、あっと言う間に上裸になっていた。
「見てくれサンタさん! あの日もらったプロテイン十年分のおかげさ」
ポージングをキメて鍛え上げた逆三角形を披露する。この筋肉は母さんを守るため、そしてきっと今夜のためにある。
「だから、トナカイさんはゆっくり心を休めて」
僕はパツパツのズボンのポッケから、パーティで配られたトナカイのカチューシャを引っ張り出し、七三の黒髪をかきわけ装着した。
そりを引く革紐を拾い上げて肩にかけ、全身に力を込める。降り続く雪が、肌に触れた瞬間に消えてゆく。
重い。マイクロバスと同じくらいありそうだ。それでも、僧帽筋が唸り、上腕二頭筋が猛り、大臀筋が奮えば、そりはゆっくりと前進し始めた。
──けどそこで、僕は致命的な問題に気付く。
「だめだ。筋肉じゃ、空は飛べない……」
突きつけられる現実に絶望しかけた、そのとき。
それまでずっと優しい眼差しで僕を見ていたサンタの背中の袋から、きらきら光る球体が飛び出した。
それは僕の頭上で円を描いてから二つに分裂し、左右の大胸筋の先端に灯る。
「あ……」
……ほんのりと、暖かい……。
「これ……は……」
光が消えるとそこに、鮮やかな赤い花が二輪並んで咲いていた。
「サザンカだよ。花言葉は『困難に打ち勝つ』」
サンタの優しい声と共に、体がふわり浮かぶ。足を踏みしめると、そりは空中をぐんぐん前進してゆく! すごい、これなら!
「行こう、世界中のよいこたちが待ってる!」
「はい!」
さあ! 今宵は真っ赤なお花のトナカイマンが、きみのもとにサンタを運ぶよ!
メリークリスマッスル!!!!!




