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なぜ幽霊は女性ばかりなのか

作者: 雉白書屋

 とある古びたアパートの一室。引っ越したその晩、女が眠りにつこうとしていた。

 しかし、ふと何かの気配を感じて目を開けた。その目はさらに大きく開かれていく――


「ゆ、幽霊……?」


 そこには、長い黒髪に真っ白な服を着た女の幽霊が立っていた。

 幽霊は「ア、ア、ア」と喉を鳴らしながら、ゆっくりと彼女に近づいてくる。手を伸ばし、じりじりと迫るその姿に、彼女は顔と声を震わせた。


「う、嘘……」


「ア、ア、ア、ア……」


「な、なんで……」


「ア、ア、ア、ア、ア……」


「どうしていつも女性なのよ!」


「ア、ア、ア、ア……」


「なんで幽霊って女性ばっかりなの!? そんなのおかしいじゃない! 感情が豊かだから? それとも、女性がかわいそうな目にあいやすいから? だから恨みや未練が残って幽霊になるの? はあ? それは、この男性中心社会が長年にわたって女性を抑圧し、虐げてきたせいでしょうが! 男は幽霊にならないんでしょうね! 未練なんて持たず、勝手気ままに生きて、死後も堂々と休んでるんでしょ? 無駄に威張り散らすのが男らしさだと思ってさあ! 幽霊になるのが女々しいと思っているんでしょ! ……ちょっと! 女々しいって何よ! 『女』って文字をネガティブな言葉に使わないでよ! ああ、本当に酷い話……。女性は生きてる間も家事や育児に追われて、社会的にも軽んじられることが多いの。だから死後にようやく、自分の存在を証明するチャンスが訪れたのね……。女性にとって、幽霊になることが一種の自己表現。あなたもその一人なんでしょ? つらかったわね。あなたはとても立派よ……」


「ア、ア、ア……」


「でもそれ、男たちの策略なの! 知らず知らずのうちに男たちによって刷り込まれたものなのよ! そう、ホラー映画やドラマを作る男たちの手でね! ホラー映画の幽霊っていつも女性でしょ? か弱い女性に超常的な力を持たせることによって、そのギャップで恐怖心を煽っているんでしょうけどね、あれは男たちが弱々しい女性像を好み、私たちに植え付けてるのよ! ふざけんじゃないわよ! マッチョな男の幽霊を出しなさいよ! なんで女性が悪者なのよ! これこそがまさに女性蔑視の産物よ。男たちは女性を幽霊にすることで、女性は感情的でヒステリックだというステレオタイプを押し付け、永遠に固定化しようとしているのよ。男性社会の策略! 支配の強化! ああぁ、女性は生きている間だけでなく、死んでからも男にとって都合のいい存在としてしか見られてないのよ……。死んでも休むことなく男から強いられた『役割』を演じ続けなければならないなんて、涙が止まらないわ。うっ、うっ、うぅ、うっ……」


「ア、ア……」


「しかもぉ、オスどもときたら、その幽霊さえ、『美の象徴』として利用しているのよお……。幽霊役が美人である必要ある!? ルッキズム至上主義もここまでくると絶句よね、絶句! 女性を単なる『美のオブジェ』としか見てないのよ! ええ、ほっそりしてる美人ばっかりでさ! ブスでデブの幽霊がメインで出てもいいじゃないの! いいえ、やっぱり幽霊は全員男がやるべきよ。男が幽霊になりなさいよ! まあ、ある意味すでに幽霊よね。毎日働いてまーすって顔して、実際は無駄な会議ばかりしてさ。何もしてないじゃない。会議室の幽霊よ。死ね! 本当に死ねばいいのよ! 本当に最低。ああ、しかも! 幽霊になる原因が『他の女からいじめられて自殺したから』とかだったりするのよおぉぉぉぉ。女の敵は女? はあ? 女の! 敵は! 男おぉぉぉ! げほっ、おえっ、おええええ! ……はあはあ、ねえ、何黙ってるのよ……何黙ってるのよ! クールビューティー気取りなの? そうよ、あんたも美人よね。なんで美人なのよ……そうよ、なんで美人なのよ! 私の話を聞いてた!? あなたがやっていることはね、この男に加担しているも同然なのよ。あなたが女性の品位を貶めているのよ。……ちょっと待って。え、ちょっと待って。さっき、あなた、私の首を絞めようとしたでしょ? はあ!? どういうつもりなの!? あなたも男性至上主義者なのね! 私のような女が必死に戦ってきたから社会での女性の地位が向上しているのよ。あなたはその歴史に敬意を払うべきよ! もっと勉強なさい! ちょっと、聞いてる!? 言葉通じてるの!? ねえ、どこに行くのよ! 待ちなさいよ! もおおおおおおぉ! アアアアアアア!」 

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