49 ご注文はお炭ですか?
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修正済みです。
小型というにはあまりにも大きな体躯を見上げて思わず足が下がりそうになるが、何とか堪えて目の前の敵に意識を集中させる。
翼はない所を見るに先程までは上部の壁に張り付いていたのだろう。
聞いていた特徴とは色々と差異があるものの、これがメタルリザードであれば幸いな事にブレスを吐くことはない。
遠距離主体の私としては有難いことだ。
何せ私にはドラゴンブレスを防ぐ手段がない。
「メタルリザードにしては大きい……いえ、それよりもあの鱗は……」
シエルちゃんも想像より大きな姿に困惑しているようだ。
他の生徒達も距離を取り、いつでも動けるようにしているが皆同じ様子だだった。
「グオオォオ!!」
再び自分の縄張りに侵入してきた外敵に対する威嚇の声を上げ、黒い鱗のリザードはバリバリと前足で地面を引っ掻いた。
「黒い鱗か、成る程な」
そして魔法を放った関係で最も近くにいたイオネル所長はといえば、殆ど目と鼻の先に今にもこちらの命を奪いかねない魔物がいるのにも関わらず慌てるどころか、顎に手を当てまるで何かの芸術作品でも鑑賞しているような目を向けている。
「ははぁ興味深い。メタルリザードは食す鉱石が鱗に影響を及ぼすというが……」
「ちょっ、イオネル所長危ないっ!」
リザードが近くで呑気に何か喋っていたイオネル所長を視界に入れた。
そして私が剣を飛ばすより先に大きな腕がイオネル所長へ振り下ろされる。
想定しうる最悪の事態に血の気が引いたが、振り下ろされた剛腕をイオネル所長は軽い身のこなしで避け、続け様に横凪に振るわれた尾を高く跳躍して躱したかと思えば、そのまま私の前に着地してきた。
普段の剣呑な態度からは想像できない俊敏な動きに驚いてしまったが、考えてみればこの人も魔法騎士団の団長だ。
テルミットさんから酷い言われようだったが、実際にそれだけの実力があるからその座についているんだ。
リザードの攻撃を合図に、他の生徒達も魔法を放つ。
「<アイスランス>!」
シエルちゃんの詠唱で数本の氷の槍がリザードに向かっていき、激しい音共に命中した。
攻撃の当たった部分は瞬時に凍りつくもののリザードが身じろぎすれば直ぐに剥がれてしまう。
私も隙を見て剣を投擲してはいるものの全部弾かれている。
「やっぱり変ですよね」
「貴様も気付いたか。アレは恐らく唯のメタルリザードではない」
「それって、つまりどういう……」
どういう事かと尋ねる前にイオネル所長がリザードを見据えたままパチンと指を鳴らした。
するとどこからか白く光る鎖が現れ、黒いリザードの体に巻き付く。
逃れようとしているが魔法で編み出された鎖はギチギチと音を出すだけで獲物を逃しはしない。
猛攻がおさまり生徒達がどよめいた。
状況的に間違いなくイオネル所長の魔法だろう。
立て続けに見せられた第四師団団長の実力に思わず舌を巻くばかりだ。
上機嫌なイオネル所長はといえば仕事は終わったと言わんばかりに拘束されたリザードへ背を向ける。
「よし、ではあの検体は持ってかえ……」
次の瞬間、拘束されたリザードは何の前触れもなく轟々と燃える炎に飲み込まれた。
突如現れた赤い炎の竜巻。
その熱風に思わず無駄と分かっていても反射的に腕で顔を覆ってしまう。
「熱っ!?」
「トウコ様、こちらに!」
距離があってもジリジリと熱で肌の表面が焼ける。
その痛みに声を上げたが、駆けつけてくれたシエルちゃんが防御の魔法を張ってくれたおかげで直ぐに焼けるような痛みもおさまった。
腕は若干赤いが、軽い火傷ですみそうだ。
他の生徒達もそれぞれが同じように防御魔法で身を守っていた。
炎の魔法は依然として絶えず中の生物を焼き払おうとしている。
それこそまるで昇り龍のように。
「なぁっ!? グレン教員!?」
私と同じくシエルちゃんのシールドの後ろに隠れていたイオネル所長が、ここにきて珍しく慌てた様子を見せた。
大の大人二人が生徒の後ろに隠れるなんて恥ずかしいな……と思いつつ、この炎と熱の中でも平然としている一人の人物へ視線が集中する。
グレン先生は黙って腕を組み前を見据えていたが眉を顰めた後、腕組みを解いた。
それと同時に炎の竜巻も一瞬で姿を消す。
あれだけの炎と熱に焼かれたにも関わらず、メタルリザードには殆どダメージがないようだ。
「き、効いてない……?」
嘘でしょ……あれだけの魔法をくらって生きてるとか、どうやって倒せばいいの。
「恐らくあの黒いメタルリザードは黒水晶を食べたのだろう。だから通常の個体よりも鱗が硬く魔法の効果が薄い。体の大きさも体内の魔力の影響だろうな」
と、そこまで解説を終えたイオネル所長は先程とは打って変わり不機嫌に顔を顰め「拘束魔法がまで燃やしおって……」と唸るように溢すと、そのまま今にも噛みつきかねない形相でグレン先生を睨み付けた。
「何をしているグレン教員!」
「喚くなよ所長、さっきのは小手調だ。次はもうちょい熱いのを……」
「貴重な検体を消し炭にする気か!?」
イオネル所長の言葉を挑発と受け取ったグレン先生がニヤリと笑みを浮かべ、再び魔法を放とうとしたが、その次の言葉にピタリと動きを止めた。
そして理解できないという顔をしてこちらを向く。
「……はぁ?」
「あのリザードが耐えたからよかったものの……燃え尽きていたらどうするつもりだ!」
「隙を作るために拘束したんじゃないのかよ!?」
「生捕にする為に決まっているだろうが!」
「バカかこのイカれ学者! あんなもん生きたまま持って帰れるか!」
「だからと言って炭になるまで燃やしてどうする! 持って帰ってダイヤモンドにでもしろというのかね!」
「知らねーよ!?」
「なんと無責任な……貴様の身勝手な振る舞いで迷惑している人間がいるのが分からないのか」
「アンタにだけは言われたくねーわ!!」
「喧嘩するなら後にしてもらえます!?」
生徒が見事な連携を取っている中、大人が揉め始めた。
もう目も当てられない。
グレン先生の炎は確かに完全に効いている訳ではないが、無傷でも済んでいない。
生徒達は僅かな傷跡目掛けて魔法を放ち、時に剣で斬りかかる。
鱗は硬い、狙うなら防御の薄い場所。
関節を狙うだけの技量は私にはないので、狙うとしたらこの一点だ。
「……ここ!!」
攻撃の止んだ隙を突いて、私は構えた剣を思い切り投擲した。
狙うは『目』だ。鱗に覆われておらず、当たれば視界を奪うこともできる。
そして銀の剣が黒水晶のリザードへ飛んでいく……が、危険を感知したのかぐるりと体を回転させ、その遠心力で勢いよく振られた尾によって弾かれてしまう。
「あー!ちくしょう、弾かれ……」
ただ、想定外だったのは弾かれただけでは済まなかったこと。
想定外の出来事に驚きの声も上げられなかった。
はくり、と思わず息を吸うのも忘れてしまった私の視線は地面に落ちた銀の剣へ釘付けとなる。
渡されて日は経っていないが、愛着のある私の剣は真っ二つになって地面に横たわっていた。
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