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48 困難は上から

 アルカナ鉱山は地脈の関係で、内部で通常の鉱物よりも魔石が生成されやすい環境らしい。

 森には獣が、空には鳥がいるように、当然鉱山の内部にはその環境に適応した魔物が存在する。

 主にゴーレムやスライム、それからブラックバッドと呼ばれるコウモリの姿をした魔物。

 その中でも注意が必要なのが『メタルリザード』と呼ばれる小型のドラゴンだ。

 主食は鉱物で硬い鱗を持っており、トカゲのように壁を這って移動するらしい。

 

 鉱山へたどり着いた私達は班を三つに別けて行動する事になった。


 第一班は目的である黒水晶を採掘しに向かう。

 第二班は第四師団の研究員と共に黒水晶とは別の鉱物の採集へ。

 第三班は入り口での退路の確保、並びに不測の事態があった場合は他の班の手助けに向かうことになっている。

 第一班には私と所長、グレン先生と生徒が数名。ルキアス団長は第二班へ配属となった。

 イオネル所長が先導する形で、私達は魔法で周囲を明るく照らしながら鉱山の曲がりくねった道を進んでいく。

 想定通り、魔物は出てきたが今のところ生徒達だけで上手いことやれている。

 生徒達一人一人の実力も見事だが、中でもシエルちゃんはすば抜けていることが見ていてよくわかった。

 本人の力だけでなく、周囲へ目を配り適切に指示を出している。

 こうして鉱山の中を歩いていく中、私には一つ気になる事があった。


「グレン先生」

「ん、どうした?」

「さっきからイオネル所長が見てるアレって何ですかね」


 私の指差した先、イオネル所長は平たい箱のような機械を持っていた。

 携帯端末……よりは少し大きめで中央に何やら輝く石が嵌められており、時折カチカチと中で何か動く音と盤面のメーターの様な部分が回転している。


「あぁ、あれは確か……『魔力計測器』だな。あれで魔力の高い所を割り出してんだろ」

「つまり魔力の高い所に黒水晶があるって事ですか?」

「そうだ、魔石は本来魔力の塊なんだが、中でも黒水晶はその純度がズバ抜けて高い」


 確かルキアス団長がいうには、めちゃくちゃ硬い上に魔力の伝導率も高いんだったな。

 それを加工するだけでなく計測器まで作るとはやはり人間性に問題はあっても彼はすごい技術者らしい。

 この世界には無いけど、いずれ本当に電話とかテレビとか作り出しそうだ。

 へぇ、と相槌を打って再び私は足を進める。

 こうして順調に特に大きな問題もなく私達は洞窟の中を突き進んでいき、暫くしてから開けた場所へと出た。

 

「うわぁ……!」

 最初に声を上げたのは誰だったか。

 その場所は洞窟の中でも特に広く、そして明るい場所だった。

 周囲は水色に光を放つ眩しい鉱石に囲まれているにも関わらず、天井は先が見えないほどに高い。

 そして何よりも目に付く黒い山。


「素晴らしい!!」


 洞窟の中でイオネル所長の歓喜の叫びが反響した。

 彼の反応を見ずともその正体は一目瞭然。

 部屋の最奥にまるで意図的に積んだような形で出来上がっていたそれこそ、目的の黒水晶だった。

 興奮気味の白衣の狂人に近づきたくなくて、私が物珍しさから周囲を見渡す。

 壁一面の鉱石、よく見ると私の足元にも小さな欠片が落ちている。  


「この石なんだろ……」

「ライトクリスタルですね」


ぽつり、と思わずこぼした独り言に答えをくれたのは、いつの間にか隣へやってきていたシエルちゃんだった。


「ライトクリスタル……これも魔石?」


 あまりの光景に緊張や気まずさを忘れ、そう問いかけると彼女は「えぇ」と短く頷いてから地面に落ちていた小さな欠片を一つ手に取ると差し出すようにして私へ見せてくれた。


「空気中の僅かな魔力により光を放つ魔石です。ただ衝撃には弱いので主に装飾やアクセサリーに使われる事が多いですね」

「へぇー、確かに綺麗」

「えぇ、そう珍しいものではありませんが……これだけの量はわたくしも初めて見ます。それだけここの魔力濃度が高いという証拠でしょう」

 

 そう言って彼女は周囲を見渡し僅かに微笑んだ。

 その顔があまりにも綺麗で思わず見惚れてしまっていると、離れた場所から名前を呼ばれ、慌てて視線を逸らした。


「トウコ!遊んでもいいが仕事もしたまえよ」

「はいはい今行きますよ……」

「ほらボサッとするな、ダッシュだダッシュ」

「運動部の顧問かっ!」


 対義語くらいかけ離れた存在のくせに!

 心の中で悪態をつきながら、急かすように手を叩くイオネル所長の元に向かおうとした矢先、シエルちゃんが私の腕を掴んでそのまま後ろへ下がる。

 どうかしたのかと聞くより先に、私の視線は彼女と同じ所……洞窟の暗闇、明かりの届かない天井へと向けられた。

 私たちの今いるこの場所、円柱の形をしているのかとにかく天井が高い。

 他の生徒やグレン先生までもが周囲へ、そして天井の先へと注意を払う中、グレン先生は私の方を見たかと思うとこちらにくるように手招きをしてきた。

 私は隣で剣の柄に手をかけたシエルちゃんに大丈夫だという意味を込めて小さく頷いてから、なるべく足音を立てないようにグレン先生の隣に立つ。


「……何かいるんですよね」

「あぁ、間違いない。恐らくここを縄張りにしてるメタルリザードだろう」

「どうしますか? 撤退ですか?」

「バカを言うな、撤退なぞするものか」


 この緊張感の中、普通に歩いてやってきたイオネル所長が不満の声を上げる。


「メタルリザード程度ならこの人数でどうとでもなる」

「……そうなんですか?」

「おい、何故我輩の言葉を信用しない」

「まぁ、そうだな。正直メタルリザード程度なら俺一人でも何とかなる」

「だから言っただろうが」


 グレン先生の回答にフン、と高慢に鼻を鳴らしたイオネル所長は徐に手のひらを上にして前に出すと天井を見上げた。


「……<集いて発する><白く輝き><燃えずとも焼き付ける>」


 何の合図も無しに呪文を詠唱し始めたイオネル所長に、グレン先生は先程の緊張感はどこへやら、ため息をついたかと思えば「戦闘準備ー」と言って面倒臭そうに頭を掻いて生徒へ準備を呼びかける。


「えっ、結局戦うんですか?」

「<ライトワークス>」

 

 事態について行けず二人の間を交互に見ていれば、詠唱の終わったイオネル所長の手の上に現れた白い球体が天高くに打ち上げられた。

 その光の球を見上げて、私は急いでその場から離れて浮かせていた剣をいつでも飛ばせるように構える。

 空高くに昇った玉をは一瞬フッと消えた、かと思った次の瞬間にはパッと弾けて周囲を明るく照らす。

 ほんの一瞬だ。私の目には黒い影のようなものが動くのが見えた。

 その影がグラリと揺れて、壁から離れる。


 ──ドォオンッ!!


 それはまさしく地響きだった。

 大きな揺れと共に、高所から落下した何かが私達の前へと姿を現す。

 衝撃で舞うライトクリスタルの欠片と砂埃の中、空気を振動させる雄叫びにも似た鳴き声。

 

「グオオオォー!!」


 鎧の如き硬い鱗、縦に裂けた瞳孔。

 岩盤を掴む事に適した大きな手足。 

 長い尻尾が地面に叩きつけられ、ライトクリスタルが音を立てて砕ける。

 あれが……あれ、が……メタルリザード……?

 洞窟の中に住み着く、小型のリザード?

 私は上から降ってやってきたそれを見上げながら、思わず呟く。


「なんか……デカくない!?」

ここまで読んでいただきありがとうございました。

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