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45 モルガニウム



 風を切り、勢いよく飛んだ剣が魔物に突き刺さる。

 学園を出発して数時間。

 森を抜けた先、段々と道は平坦ではなくなり出てくる魔物も姿を変えた。

 開けた場所で山も近いからだろうか、大きなトカゲやハゲタカのような空を飛ぶ魔物のいる。

 しかし特に大きな問題や障害もなく、私達は順調にアルカナ鉱山への道を進んでいた。

 学生の訓練の一環でもあるため基本的に魔物への対処は生徒に一任されているのだが、素人目から見ても慣れた様子で魔物を処理していく様子には思わず感動してしまった。

 初めて青月の森に行った時の私なんかよりずっとしっかりしている。

 そんな中、私はといえば何故か生徒達から離れた場所で、イオネル所長に言われて魔物を倒していた。


「よしよし、悪くない」


 魔物から剣を抜き後方を見れば、イオネル所長は皮張りの手帳に何やらガリガリとペンを走らせている。

 一通り何かを書き込んで満足したのか、彼は手帳を閉じると顔を上げる。


「ふむ、この辺りの魔物は一通り相手にしたな。次は鉱山内部の魔物でいいだろう」

「……あの」

「なんだ?」

「さっきから何をしてるんですか?」

「データ収集に決まっているだろう」


 いいから行くぞ、と言ってイオネル所長は荷馬車のある方へ戻っていく。

 データというのは私の浮遊魔法についてだろう。

 魔物を倒して一体どんなデータを取っているかは定かではないが、正直あまりいい気分ではない。

 もやもやしたままイオネル所長の後をついていき、みんなの所へ戻るとちょうど戦闘がひと段落したようだ。

 詳細を聞こうにも、イオネル所長は部下の研究員の元へ向い何やら話し込み始めたので、声をかけるタイミングを失ってしまった。

 ぐぬぬ……と恨めしく白衣の背中を見ていると、ルキアス団長を見つけてそのまま目が合う。

 まぁここで唸っていても仕方がない。タイミングを見て後で問い詰めればいいのだ。

 ちょうど休憩のようだし、周りに人もいないようなので私はルキアス団長に話しかけることにした。


「団長、お疲れ様です」

「あぁ……怪我はないか」

「無傷です」

 

 私の返事に頷く団長を見上げていると、ふとある疑問が湧いてきた。


「あの」

「どうした」 

「そもそも私よく分かってないんですけど、黒水晶ってどんな石……水晶なんですか?」


 今回の目的は黒水晶の採集だと聞いている。

 それを運び出すのに私の浮遊魔法が必要である、というのは知っているがその黒水晶がどういう物なのかを私はまだ知らない。

 有名な宝石、例えばダイヤモンドにルビー、金銀銅に鉄などであれば分かる。

 特に鉄だったら鎧や剣に使うのだろうと検討がつくものの、水晶を何に使うのかはよくわからない。


「黒水晶とはモルガニウムを作る原料となる天然の魔石だ」

「魔石かぁ」

「元の世界には無かったのか?」

「そうですねぇ」


 そもそも魔法が存在しない世界だ。

 魔法の石……まさにファンタジーって感じの代物だ。

 オリハルコンとかミスリルくらいならゲームとかで聞いたことがあるけれど。


「モルガニウムって名前も初め、て……?」


 そこでピタリと思考が止まった。

 あれ、おかしいな。モルガニウムなんて名前は初めて聞いたはずだ。

 それなのに何故か耳馴染みがあるというか、何処かで一度耳にした言葉な気がするのは気のせいだろうか。

 私が何とか記憶を掘り起こそうとしていると、先にルキアス団長が私の疑問に答えを提示してくれた。


「モルガニウムはイオネル所長が黒水晶を元に作る人工魔石の事だ」

「イオネル、モルガ……あれ?」

「トウコ、イオネル団長の名前は覚えているか」

「あああ待ってください……いま点と点が繋がりそう……えぇ?」

「…………イオネル・サロモン・モルガニウム・フェルトファーフェンだ」

「……あっ!」


 頭を抱えたまま、勢いよく顔をあげた。

 そうだ何処かで聞いたことがあると思ったらそれだ。

 私を誘拐した時に名乗っていた長ったらしい名前!!

 謎が解けて興奮冷めやらぬ私とは対照的に冷静なルキアス団長は静かに口を開く。


「黒水晶を独自の方法で加工した人工魔石モルガニウム……通常の魔石よりも高い硬度、高い魔力伝導率を持ちながら加工の方法次第では反魔法の特性を持つ、まさに万能の魔石だ」


 万能の魔石……そんなものを作り上げたすごい人だったとは驚きだ。


「ただの自称天才のマッドサイエンティストの変人だと思ってました」

「……その認識は間違っていないと思うが」

「だから魔石にモルガニウムって名前がついてるんですね」

「それはどういう意味だ?」

「ほら、第一発見者とか発明者って作った物に自分の名前つけたりするじゃないですか」


 元の世界でも新しい惑星ができたらその発見者に名前をつける権限が与えられている、とかそんな話を聞いたことがあった。

 元の世界にあった電話とかホッチキスとか。

 それこそ朝食べたサンドウィッチだって元は人の名前だったと聞く。

 まさか異世界とはいえ、名前の元になった第一人者と知り合ってしまうとは。

 ちょっと感動していたのだが、ルキアス団長がここにきて予想外の反応を見せた。


「いや、それは逆だ」

「え、逆?」

「石に自分の名前を付けたのではなく、石の名前を付けた後に自分の名前にしている」


 逆って……つまり石に名前を付けた後でその名前を名乗ってるってことだよな。

 え、命名の際に順番逆転する事ってあるんだ。

 やっぱあの人滅茶苦茶な変人じゃないか。

ちなみに、サロモンというのは彼が昔飼っていた鶏の名前です。

ここまで読んでいただきありがとうございました。

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