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44 慣れない激励


 まだ日も上っていない早朝。

 鉱石採集に必要だという荷物を馬車へ積みながら、ふと、完全に忘れていたことを思い出してしまい悶々としていた。

 昨日の模擬戦に勝てば教えてくれると言っていたルキアス団長の『アレ』について教えてもらっていないのである。

 当然、勝てなかったので教えてもらえなかったが正直気になったままだ。

 かといってルキアス団長に直接聞くのも何だかなぁ……。

 イオネル所長とグレン先生の反応を見るに、意図して話していないようだし。

 もしかしたら仲のいい人にしか話していない可能性もある。

 そして私にはもう一つ気がかりなことが。

 ナツキちゃんとシエルちゃんの件だ。

 これに関しては完全に私のお節介なのだけれど、知ってしまったからには何とかしたい。

 少なくともナツキちゃんが婚約者の目を気にせず過ごせるようになればいいなと思う。


「トウコさん」


 しゃくしゃくと朝食に貰ったサンドウィッチを口にしつつ、黙々と作業をしていると名前を呼ばれて、反射的に振り向く。

 そこに立っていた思わぬ人物に思わずサンドウィッチを取り落としそうになった。

 私を呼んだのが、あの誘拐事件の日以来姿を見ていなかった女性、第四師団のテルミットさんだったからだ。


「初めまして、私はテルミット・モノポリマー。第四師団の研究員です」

「あっ、はい。トウコです、はじめまして……」

「……? どうかされましたか?」

「いえっ何でもないです」


 そっか初めましてだった。

 私はあの廊下でのやりとりを盗み聞きしていたので一方的に知っていたが、テルミットさんからしてみれば初対面だ。

 勝手に知り合いだと勘違いしてしまい恥ずかしい。


「作業中にごめんなさい」

「全然大丈夫です、何かありましたか?」

「あなた宛にお荷物が届きましたので確認をお願いします」

「荷物ですか?」


 はて、何か頼んだ記憶はないけど。

 この世界には元の世界に当たり前にあったネット通販なんてものはない。

 不思議に思いつつも他の案内されるままついていけば、作業をしている師団員や生徒達から少し離れた校門の近くに一台の馬車が停まっている。

 私達の姿を捉えた御者の方が小さく会釈をすると、荷台から何か荷物を下ろし始めた。

 

「……あっ」


 見慣れた箱が合計四つ。

 思わず声を上げテルミットさんの方を向けば彼女の口元に僅かに笑みを浮かべている。


「こちら、今回必要になるだろうと所長からの指示で手配しておきました」

「すっかり忘れてました……ありがとうございます」


 これがないと私には何もできないのに、目の前の事でいっぱいいっぱいになって視野が狭くなっていたようだ。

 人のことを気にするまえに自分の事をしっかりしなければ。

 反省しつつ私は箱の蓋を持ち上げ、浮遊魔法で中身を持ち上げた。

 少しずつ明らんできた光が剣の表面をなぞるようにして反射する。

 頼もしい私の剣だ、これがあるだけで安心して何でも出来そうな気がしてしまう。

 同じく残りの剣も箱から取り出して見てみるが、特に問題はなさそうだ。


「大丈夫ですテルミットさん、ありがとうございます」

「お礼はイオネル所長に……あら、噂をすれば」


 そう言ったテルミットさんの視線を追えば、見慣れた長身が二人。

 イオネル所長とルキアス団長がこちらに向かって歩いてくる。


「おお届いたか……ふーん、これがお前の剣か成る程な」


 やってくるなり剣を品定めしては「まぁまぁ」だなと感想を述べるイオネル所長に思わず苦笑する。


「トウコ、今回は不足の事態に備えて僕も同行する事になった」

「えっ、そうなんですか?」


 参加するのは第四師団員と一部の生徒、それから引率のグレン先生だと聞いていた。

 ルキアス団長まで一緒に行くのは知らなかったので驚くと同時に、これで何が起きても問題ないという安心感と……過剰戦力感が凄い。

  

「貴様の事が心配なんだろう、やれやれ過保護な事だ」


 剣の観察を切り上げたイオネル所長はそう言って大袈裟に肩を竦める。

 その態度にルキアス団長の瞳がスッと細められ纏う空気が鋭さを増した。

 周りの空気が冷えてきたのは気のせいではないと思う。


「……ご自分が何をされたかお忘れですか?」

「あぁ覚えているとも、正式な手順を踏み許可を得て人事異動を行なった」

「その正当な手順の中に『城内での煙幕の使用』及び『魔法の使用』も含まれている、と?」

 

 魔法……そういえばピエールが何処かに移動させられていたな。

 あれは転移魔法とかだろうか、というかピエールは無事なのだろうか?

 

「はーー……全く、呆れたものだ」


 そう言ってイオネル所長は何故か私の背後に立ち、後ろから両肩に手を置いてきた。

 ちょっ、私を間に挟むのやめてほしい。

 ルキアス団長の視線が私の方にまで向くから怖いんですけど。


「ルキアス団長は口ではあぁ言ったが、本心では部下の力を信じきれてないようだ……おっと今は我輩の部下だったな」

「……」 

「ははははは」

「……」 


 頭上でバチバチと二人の間で火花が散っているのが見えた。

 水と油がすぎるなこの二人……真面目なルキアス団長と面白がって煽りまくるイオネル所長は相性が悪すぎる。


「他師団の団員の事まで気にかけて下さるとは第二師団長殿は何と心の広い……我輩もその余裕と慈悲の心を見習わなければ。そう思わないかねぇテルミットくん?」

「はぁ……所長、無闇に喧嘩を売るような真似はやめてください」


 尚も煽り続けるイオネル所長を咎めたのはテルミットさんだ。

 今まで黙して傍観していた彼女は腕を組むと、自分の上司を睨み付けた。


「今回の件は我々に非があると言われても仕方がありません。私としては所長が氷像にされようが格子状に切り分けられようが知ったことではありませんが、あの非常識な行いが第四師団員の総意であると勘違いされては困ります」

「……テルミットくんの立場で我輩を弾糾するのは可笑しくないか?我輩への忠誠心は何処へ行った?」

「第四師団員が忠誠を誓うのはこの国の技術とその発展です。それが為せるのであれば第四師団の団長は大罪人、人格破綻者、魔物、怪生物でも、それこそ微生物にだって務まりますよ」

「フハハハ!面白い!だがその例えは言い過ぎではないかな?」

「あら?面白いことを仰るのですね所長。貴方のような人間が師団長の座にいるのが何よりの証拠ではありませんか」

「…………」


 うわ。黙った。

 あのイオネル所長を黙らせた。

 テルミットさんといいアンジェラさんといい、魔法騎士団の女性陣みんな強いな。

 そりゃ騎士団に入るくらいだから精神的にも肉体的にも強いのが当たり前だろうけど。

 絞られるイオネル所長のお邪魔にならないように、そっと離れてルキアス団長隣に並べば再び名前を呼ばれた。

 

「はい?何ですか?」

「……さっきも言ったが、僕が今回付いていくのは不足の事態に備えてだ。積極的に動くつもりはない」

「はい、わかってます」

「僕はトウコの実力を疑っていない」

「はい」

「だから……」


 その一言を口にするか迷ったのだろう。

 ルキアス団長は私から視線を外し、呟くような小声で一言だけ激励の言葉を私にかけてくれた。


「…………期待、している」

「……ふふっ」

 

 その不器用すぎる様子に、思わずちょっと笑ってしまった。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

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