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42 明るい未来へ


 こうして私の油断から始まった模擬戦。

 学生とはいえ魔法と剣術に精通した首席のシエル・クオーラちゃん。

 先に結論だけ言うと五分もかからずに試合は終了した。

 より正確に言うとあまりにも試合にならなさ過ぎて外部から『待った』がかかったのだ。 

 あちこちで生徒が掛け声と共に剣を振るい腕を磨く中、生徒達の邪魔にならない端の方で私は地面に正座していた。

 地面の青々とした芝生を熱心に観察していた私の前に二つの影がさす。


「あんた……」

「お前……」


 恐る恐る顔を上げると、リング外からタオルを投げ込んで私が氷の槍に串刺しにされ、いつぞやのブラックサーペントよろしく丸焼きになるのを止めてくれた教師と上司が一瞬視線を交わした。

 それから二人は改めて私を見下ろし、ほぼ同時に口を開いた。 


「「…………センスねぇな〜/ないな〜」」


「知ってたぁ!!」

 

 わざわざ同時に言わなくていいよ、知ってましたよ!

 元々運動得意じゃないし、剣術も棒振りに毛が生えた程度ですよ!

 それに加えてあの颯爽とした彼女の立ち回り。

 遠距離から魔法を打ちながら剣で接近、私の飛ばした剣も的確に撃ち落とされた。

 それどころか浮かせた剣を飛ばす前に弾かれたりもした。

 浮遊魔法だって全然使えませんでしたよチクショウ!


「なんつーのかな、立ち回りが下手」

「運動神経のない人間のお手本のような動きだったぞ」

「そこまで言わなくてもいいじゃないですか!」

「走ってる時より転がってる時の方が素早く見えたな」

「打ち上げられた魚が頑張って川に戻ろうとしている様子に酷似していた」

「せめて陸上生物にして!?」


 寄ってたかって言いたい放題かこいつら!

 私が悔しさで顔をくしゃくしゃにして地面を殴ると、グレン先生は私に目線を合わせるように屈んで慰めるように肩を二度叩いた。


「まぁ、打ち出されたアイススピアをそのまま打ち返したのは良かったと思うぜ?」

「そうだな、そこは認めてやろう」


 グレン先生の評価にイオネル所長も頷き同調した。

 この二人……特にイオネル所長は世辞の混じった評価を下すタイプではない事は、この短期間でも理解している。

 なので先程の模擬戦で評価できたのはそこだけ、それ以外はダメダメと言うことだ。

 私が唯一できた事といえば、打ち出されたアイススピアをそのまま浮遊魔法で打ち返したこと位だろう。

 飛んできた別のアイススピアを撃ち落とした時は確かに手応えを感じはした。

 あれにはシエルちゃんも周囲の生徒達も驚いていた。

 だが問題はその後だ。

 私は彼女の放ってきた炎を同じように操ることが出来ず、危うく丸焦げになるところだった。


「よし、反省会すんぞ」


 グレン先生はそう言って立ち上がる。

 それから急かすように手を叩くので、私も痺れる足に耐えつつなんとか両足に力を込めて立ち上がる。


「模擬戦でハッキリしたあんたの弱点はなんだ?」

「えぇと……火の魔法を操れなかった事?」

「部分的にはそうだ。だがより正確に言うと?」

「より正確に……?」


 さらに先の考えを要求され私は首を捻る。

 一度打ち出された魔法は魔力が循環していない物質の為、剣と同じように私の浮遊魔法でどう

にかできる。

 この推測は正しかった。なのでアイススピアは打ち返せた。

 だが火の玉を操ることが出来なかった。

 それは恐らく炎が氷と違って決まった形がない『無形』のものだからだ。

 私の浮遊魔法は大きい物……それこそ精霊の生み出したゴーレムだって投げ飛ばせるが、水や火、それから風といった形のないものには作用しないのだろう。

 


「あれ?」



 ここで少し前に相対したバーサークウルフを思い出した。

 確か……そうだ『プロテクション』とかいう防御魔法。

 オスカーさんが庇ってくれた一撃。

 ビームだかハリケーンだか、とにかく強力な一撃を口から発射してきた。

 ゴーレムと戦った時にも他の人が使っているところを私は見ている。

 思い返せば何をとち狂ったのか相手の懐に潜り込むという強行を発揮していた私だが、今になって思えばあの時……もし動けなかったら私はどうなっていたんだろう。

 過ぎたことを心配しても意味はないが、多分拡張無しに木っ端微塵になっていたかもしれない。

 

 そしてそれが意味することは、つまり……



「もしかして、私……」



 出てきた答えを恐る恐る声に出す。

 嫌なことに気付いてしまった。

 というかこれ早々に対策しないとまずいんじゃないか。 

 


「……防御手段が、ない?」

「正解」


 パチン、軽快に指を鳴らしてイオネル所長は私を指差した。


「『防御魔法が使えない』──これは魔法師としては致命的だ」

「褒められたのに全然嬉しくない」


 つまり私は火の魔法とか風の魔法とか、例えばルキアス団長の放った視認できない魔法に対してはあまりにも無力と言う事だ。

 

「ははは、そう落ち込むな喜べ友よ」  


 絶望に打ちひしがれた私を他所に、なぜか腹が立つほど上機嫌なルキアス団長が突然肩を組んできた。

 相変わらず距離感がバグっている。


「何か忘れているんじゃないか?」

「……何をですか?」

「お前には大胆不敵かつ頭脳明晰。迷える友人に惜しみなく手を差し伸べる天才がいるだろう?」

「や、いないっすね」


 意義あり。私の知り合いにそんな奇天烈な人はいない。

 即否定したらグレン先生が口元を押さえてそっぽを向いた。

 小刻みに肩が震えている。 

 しかし私の友達(自称)兼、上司(事実)は私の返答などお構いなしに高笑いと共に手を大きく広げた。

 その瞳は爛々と輝いている。

 多分、希望とか救済なんかではなく。

 自分の野心と好奇心でだ。


「貴様の未来、吾輩が責任を持って目が焼け落ちる程度に明るく照らしてやるとも!!」

「持たなくていいです」


 勘弁してくれ。

 

ここまで読んでいただきありがとうございました。

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