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34 さようなら、はじめまして

 誘拐犯はそのまま器用に私を担いだまま城内を駆けてついには城の外へ出た。

 周囲を見渡すが私の良く知らない場所のようだ。

 しかも人の気配もないので、これでは助けも呼べそうにない。


「あの! 一体何──モガッ!?」

「大人しくしてくれ手荒な真似は好まないのでね」


 一息でそう言い切った誘拐犯の男は慣れた手つきで私を地面に下ろすと、抜け目なく足も別の枷で拘束されて喋れないよう猿轡までされてしまった。

 手荒な真似は好まないってどの辺が!?

 言いたいことは山ほどあったが既に口を塞がれた後なので、精一杯睨みつけるくらいしか出来る事が無い。

 手足も拘束されて浮遊魔法も使えない。文字通り手足も出ない状態と言う訳だ。

 

 ……いや、そもそも二人は何者なんだ。

 この国の関係者か、それとも部外者か?

 よくゲームとかに出てくる主人公と敵対する『悪の組織』とかじゃないだろうな。

 はたまた、実は世界を裏で牛耳る謎の組織とか?

 ダメだやめよう。最悪の事態なんて幾らでも思い付いてしまってキリがない。


 改めて誘拐犯をよく見てみれば、今まで気付かなかったがテルミットさんと同じ白衣を身に付けている……つまり二人は間違いなく仲間で、立場も目的も分からないが二人して私の事を探しており、そしてまんまと捕まってしまったと言うことか。

 滅多に倉庫屋敷から出ない私が、たまたま用事で外に出たらこれだ。

 給料日にお金を下ろそうとして銀行に行ったら運悪く強盗がやってきて人質になった、みたいな……運が無いにも程がある。

 今日はただ異世界について調べるだけの筈だったのに。

 異世界召喚には巻き込まれ、住所を追い出されそうになり森で凶暴な狼に襲われ、今度は誘拐だなんて、考えてみれば自分結構色んな目に遭ってないか?

 思わず肩を落とせば、誘拐犯が口を開いた。


「そういえば貴様の探しているルキアス団長だがな、今はここに居ないぞ」


 思わぬ情報に驚いて顔を上げれば、誘拐犯はフンと偉そうに鼻を鳴らし「やはり知らなかったか」と言った。


「あの男は今は学園にいる。今朝早くに城を出たそうだ」


 つまり今日ここに来ても会えなかったって事か。

 ルキアス団長は『後日』と言っていたが、まさか不在だとは思わなかった。

 でもよく考えてみれば明確に約束をしていた訳じゃないのでこういったすれ違いもそりゃ起きるか、次からは日時を決めて約束を取り付けよう。

 私が自分のコミュニケーション不足を反省していると、男は立ち上がって私を見下ろした。


「まぁ、安心したまえよ。幸い目的地は同じだからな」


「運が良ければ会えるかもしれんぞ」その言葉にどう言う意味かと首を傾げたその時だ。

 急に誘拐犯が私の首根っこを掴むと、その場から飛び退いた。

 喋れないなりに抗議の気持ちを込めて唸ってみるが、当然のように無視されてしまう。

 誘拐犯の視線は先程まで私達がいた方向へ向けられている。

 私も後を追うようにそちらを向けば、そこには半透明の檻があった。

 

「やれやれ随分と手荒だな」

 

 そう言って誘拐犯は態とらしくオーバーに肩を竦めて見せた。


「知っていると思うが、城内で緊急事以外での魔法の使用はご法度だぞ」


 誘拐犯の男が周囲に話しかけるようにそう言えば、同時にその魔法の檻は溶けるように消え、その奥の木の影から今度は見慣れた人物が姿を表した。


「──いやぁ、城内であんだけ派手に煙幕張った人に言われましても」

「ンんーん!(ピエール!)」


 困った様子で頬を掻きながら出てきたのはピエールだった。

 あの煙幕の中、追いかけて来てくれたのだろう。

 思わず座った状態で前のめりになれば、ピエールは私を安心させるように気の抜けた笑顔のまま、こちらにヒラヒラと手を振ってきた。

 

「んで、何か言い訳とかあります『イオネル』所長?」


 嫌味っぽくそう言ったピエールに『イオネル』と呼ばれた男は「ほぅ?」とニヤけた口調で可笑しそうに首を傾げた。

 今、ピエールは所長と言った。見た目からして研究職のようだし、ピエールと面識もあるようなので城の関係者で外部からきた敵とかではないようで少しホッとした。

 現在進行形で誘拐されかけている事には変わりないが。


「言い訳とは何についてかなピエール副団長。確かにテルミット君に煙幕を張るよう指示したのは吾輩だが魔法は一切使用していない」


 それは屁理屈だろ!!

 喋れる状況だったら間違いなくそう叫んでいた。

 いけしゃあしゃあと法の穴を突く男に白い目を向ける私とは対照的に、ピエールはどこか納得した様子で二度頷くと腰から剣を引き抜く。

 ただし、鞘に入った状態で。

 そのまま手にした剣でトントンと肩を叩きながら苦笑いを溢した。


「うーん、俺じゃあ所長に口で勝てそうにないからな〜」

「だから実力行使に出ると?訓練外での武器の使用だけでなく団長及び副団長間での争いはご法度だと記憶していたのだが如何やら吾輩のいない間に規律が変わったらしいな」


 痞える事なく言い切ったイオネル所長は、一拍置いて、今までとは打って変わり鋭い口調で「反省文では済まないぞ」と言った。

 しかしそんな警告にもピエールは動じる事なく雑談の延長みたいに軽く答える。


「いや〜、トウコが連れてかれた事がルキアス団長にバレた方が怖いっすよ」

「それこそバレなければ問題ないだろう?」

「そうそう、バレなきゃ問題ないってね」


 そこで会話が途切れた。ピエールは肩にかけていた剣を下ろす。


「……やれやれ吾輩は第二師団の皆々様と違って魔法は不得手なんだが」


 イオネル所長はそう自信無さげな事を言いつつも、実際不安そうな様子は一ミリもない。

 交渉は決裂した。


「取り敢えず、トウコを返してもらってから事情は聞きますよっ!」


 そう言って、ピエールが鞘に入ったままの剣を手にこちらへ向かってくる。

 誘拐犯:イオネル所長は武器を手にした副団長が自身に向かってくるのにも関わらず、余裕のある態度を崩さない。


「<底を掬って放り投げろ> <黒と白に違いはない>」


 構えもせずに何かを唱え始めた。

 会話の為の言葉では無いのは明らかだ。

 私の周囲にいる魔法師達は基本的に魔法を使用する際の詠唱をしない。

 それは訓練により詠唱無しで魔法を使用出来るようにしているからだ。

 無駄を省いて最速で魔法を発動できるようにする……そもそも魔法を使用できない私にはよく分からないが詠唱無しで魔法を発動するのは、かなり難しい事らしい。

 詳しくは知らないが『詠唱無しで魔法を発動出来る』と言うのが、魔法騎士団になる為のテストの一つに含まれているとか。

 

 なので一瞬、何か分からなかったが私は以前、ピエールに気配遮断の魔法をかけて貰った時に似たような言葉を耳にしていた。

 実はあれでも結構短縮していたらしい。


 詠唱を短縮するのは発動前の詠唱で、人によってはどんな魔法かバレてしまうから。

 なのでその詠唱でピエールは何かに気付いたらしい。

 珍しく眉間に皺を寄せるとそのまま飛び上がる。


「──<()()()別れの言葉は不要>」

「!?」


 しまった──目を見開いたピエールが、何かに気付いたがもう遅い。

 一瞬でピエールは魔法陣の複雑な線で出来た球体の中に閉じ込められた。

 まんまと罠にかけることに成功したイオネル所長はそれでも特に喜んだり、勝ち誇ったりする事なく淡々と告げる。


「心配するなそう遠くへは飛ばさない」

「ちょっ、待った!!」

「彼女は借りていくぞピエール副団長、<サイドシフト>」


 その最後の一言で詠唱が終わり魔法が発動した。

 ピエールを閉じ込めた球体はシュンッと空気を吸い込むような音と共に、ほんの一瞬で跡形も無く消えてしまった。

 

「……」


 助けに来てくれたピエールが目の前で消えた、

 その事実に呆然とする私だったが、急に視界が高くなり声にならない悲鳴を上げた。

 再び抱え上げられたようだ。

 しかし今度は肩にではなく、親が子供にするみたいに片腕に乗せるようにして下からこちらを見上げた。

 男の眼鏡に目を見開いたまま固まる私が映り込んでいる。

 

「あぁ、そう言えば自己紹介がまだだったな友よ」


 ……友って何だ、何を言っているんだこの男は。

 混乱する私に男は私を見たまま、空いている方の手を胸に当て、覗き込むような形で僅かに首を傾けた。


「吾輩は()()()()()()『イオネル・サロモン・モルガニウム・フェルトファーフェン』だヨロシク」


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

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