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32 犯人はお前か

 あれは雪の降る寒い夜でもなければ、ジリジリと肌を焼くような日差しの強い日中でもない……というか、そもそもグリフェルノ王国は気候が安定しているので、そうそう大きな気候の変化は起きない。

 使っていたマグカップの取っ手が取れるだとか、何だかよく分からないけど胸騒ぎがするだとか、そういう不幸の前振りみたいなことも特にない。

 これは私が箱詰めされる三十分ほど前のことだ。

 朝起きてダラダラ朝食を食べ、畑の野菜に水をあげた後、私は城の中にあるという書庫へ向かった。

 私の住んでいる倉庫屋敷も一応大枠では『書庫』と言う扱いだが、そもそもあまり使われることのない資料ばかりがある。

 それに比べて城の中にある資料室は最新の文献が揃えられているらしい。

 

 私はそこで『異世界召喚』について調べるつもりだった。


「恐らく元の世界に戻ることは難しいだろう」と言う話は、私もナツキちゃんも予め聞かされている。

 正直な話、私は帰りたいかと言われるとはっきり頷けない。

 こっちの世界の生活に慣れてきたこともあるが、今のところ快適に過ごせているので積極的に元いた世界に戻る気はあまりない。

 だが、それはあくまでも私の話。

 ナツキちゃんはまだ学生だ。

 元の世界に友人とか、私は疎遠だったが家族や他にも誰か大事な人だっているだろう。

 こっちの学園生活も十分楽しんでいるようだが、やはり選択肢は大いに越したことはない。

 そんなことをポロっとルキアス団長に溢せば、彼は一つ頷いてから私にある提案をしてきた。


『では、書庫に行ってみるといい』

『書庫……?』

『あぁ、城内にも資料館がある。こことは違い、最新の研究論文や実用的な魔導書も保管されている』

『魔導書かぁ、見れるなら見てみたいです』

『わかった。ではまた後日、時間を見つけて僕の執務室に来てくれ』


『必要であれば禁書庫内も閲覧できるようにしておこう』そう言い残してルキアス団長は、こちらに背を向けて去っていった。

 折角の提案だし、私は常に暇なので時間はいくらでも都合がつく。

 なのでお言葉に甘えてその次の日、久しぶりに城へと足を運ぶ事にしたのだ。

 私もそう何度も足を運んでいる訳では無いので、あの時は気のせいかと思っていたが、今思えば城内に足を踏み入れた時から何だか少し空気に違和感を感じていた。

 こう、ザワザワしているというか……でも緊張して張り詰めているような、そんな空気だ。

 さっさと用事を済ませて退散しようと心に決めて、廊下の角を曲がろうとした時、話し声が聞こえてきた。


「──だから、俺も知らないんだって」


 それはピエールの声だった。

 丁度良い、ルキアス団長の執務室の場所でも聞こうと声をかけようとしたのだが、見知らぬ女性と向き合っているのを見て思わず足を止め引き返す。

 そうして曲がり角から顔だけ覗かせて廊下の先を見た。

 丁度十字路の真ん中、左側に第二師団の見慣れた白いローブが五名、その先頭に立つピエールは「参ったな〜」なんて苦笑いしながら頭を掻いている。

 しかし向かい合っている女性はニコリともせず、真っ直ぐ、もう殆ど睨むみたいにピエールを見つめていた。

 ……何か仕事の話だろうか?

 この時の私はさっさと立ち去れば良いものを、なんとなく気になってその場で聞き耳を立てていた。


「勘弁してよ『テルミット』さん、さっきも言ったけど俺もそんなに詳しくないんだって」


 黒髪を頭の高い位置でお団子状にまとめた彼女はテルミットさんと言うらしい。

 遠目からでもスラリとしていてスタイルが良く、見ているだけでこちらも背筋を伸ばさないといけないような雰囲気を纏っている。

 ピエール達第二師団員のローブとは違い、真っ白な白衣を着ていて何だかドラマに出てくる敏腕女医のような人だ。

 

「彼女は第二師団の所属と伺っています」


 凛とした声。思わず身を硬くする。

 

「そうなんだけど、形だけね、形だけ」

「形だけであれ第二師団所属に変わりはありません。彼女はどこにいるのですか」

「う〜ん、さぁ〜?」

「……ピエール副団長」


 ピエールは、のらりくらり昼燈籠のような態度を変えることなく、対するテルミットさんとやらも一歩も引く様子はない。

 ピエールの後ろの第二師団員達もその様子を黙って見守るばかり。


「何度も言わせないでください……もう一人の異世界人、トウコと言う女性は何処にいるのですか」

「だからさっきも言ったけど、そのトウコって異世界人とは全然会ったことも無いんだって」

「下手な嘘はやめて下さい。貴方が彼女のいる倉庫屋敷へ通っているのは把握済みです」

「いや、別に通うって程じゃあ……」


 なるほど、どうやらテルミットさんは人探しをしているらしい。

 異世界人、第二師団所属、倉庫屋敷に住んでて名前が『トウコ』だそうだ。

 

 ……え?


「…………それ私じゃん」



 あれ、でもそうなると可笑しいな。

 ピエールは何で知らないフリしてるんだろう。

 異世界人と関わるべからず……なんて決まりはないだろうし、何で会った事もないなんて言ったんだ?

 あんだけほぼ毎日顔合わせてるのに? 

 そもそもこの世界で最初に親しくなったのがピエールなのに?

 え、知らない間にそんな嫌われてたのかな私。

 この前ピエールとロシアンシュークリームやった時、全部に激辛ソース仕込んだのを怒っているのだろうか……結局二人で半泣きで完食したから許してもらえてるものだと思っていたが、やっぱりきちんと頭を下げて謝るべきだったか。

 一応私の上司だもんな……。


「本当にたま〜にですよ? ほら、元師団長のヘルマンさんに会いに」

「たまに、ですか。昨日も一昨日もその前の日も、貴方が屋敷から出てくる姿を団員が目にしていますが……そうですか、我々の人違いのようですね」

「あはは、ウン、そう……」

「それと個人的に気になっていたのですが、以前帰り際に食べていた透明な物は何ですか?」

「透明? あぁ、ゼリーケーキね」

「ゼリーケーキ、それはまた美味しそうですね。ヘルマン様がそう言ったお菓子を作られるのは少し意外ですが」

「いや、あれはトウコが作ったやつ──……あ」

「そうですか、トウコさんが作られたのですね」

「…………えへっ」




「ピエール……」


 思わず小さく彼の名前を呟いてしまった。

 もうお前一生そこで詰められてればいいよ。

 私の作ったゼリーケーキ四分の一を盗んだ犯人はお前か。

 

 

「……いやいやそんな事言ってる場合じゃない」


 私はゆるく頭を振って顳顬を押さえた。

 早速嘘バレてるけど、ピエールが私の事をわざと隠すのはやはり変だ。

 彼の性格を考えると、面倒見の良いピエールなら「いざって時に頼れるツテは多い方がいい」とか言って知り合いは積極的に紹介してくるだろう、なのにそうしない。

 でも此処で考えても何も思い浮かばない。

 確実なのはわざわざピエールが嘘をついている事と、他の団員の人達も沈黙を貫いていること。

 ピエールのサボり癖は第二師団は勿論、それ以外の人達も知っている。

 そして私と交流があるのも当然、知れ渡っている。

 それでもピエールの『トウコなんて異世界人知らない』発言に対し、何の指摘もしないのはそうするのが正しいからだ。

 結論。あのテルミットさんという人に見つかると、良くないことや面倒なことが起きるに違いない。

 理由は不明だが、そんなのは後で考えればいい。

 結論は出た。そして次に取るべき行動も決まった。

 

 ここから離れて身を隠そう。 

 

 そう決めた私が一歩後ろに下がった。

 この時点でもう既に詰んでいる事に気づかずに。


「お嬢さん、何かお困りかな?」


ここまで読んでいただきありがとうございます。

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