26 突撃お前が昼ごはん
ドナドナではないがガタゴト、遠ざかっていく王城を眺めたのが三日前。
目的地まで膝を抱えて大人しく、荷物と一緒に私は揺れていた。
まだちゃんと馬に乗れない事を伝えたら「問題ない」とルキアス団長に荷馬車を指さされたので、私の剣やその他物資に囲まれて大人しく座っている訳だが……お尻が痛い。
当然だが、青月の森に向かった時とは違い今回は結構な大人数で、フォールクローの街へ向かっている。
精霊は魔法と密接に関わる存在なので、今回は魔法を専門とした第二師団が中心の編成らしい。
フォールクローの街は城下ほどではないにせよ大きな街だそうだ。
整備された道を使うので魔物が出てくる心配もあまり無い。
道中の三日間で野営にも慣れた。これに関しては周りのフォローも大きいだろう。
「精霊かぁ」
呟いて顔を上げると近くの馬と目が合い、何だか気まずくなってすぐに逸らした。
豊穣祭は年に一度フォールクローの街で行われており、その名の通り大地の恵みに感謝をするお祭りらしい。
これは精霊と人との繋がりを維持するために必要な儀式だが、今回はお祭りを開催することが難しいとのことでその解決に私達は駆り出されている。
大地の魔力の淀みにより汚染……簡単に言うと精霊が病気になってしまうことで、近隣に魔物が増えたり精霊の力が暴走してしまうことがある。
そのせいで祈りを捧げる祭壇の周辺に魔物が出てしまい、お祭りの開催が難しくなってしまったのだ。
因みに、この件を調べたのはルキアス団長。
私と会う前に、ルキアス団長が遠征に向かっていた先が実はフォールクローの街だったらしく、現地調査の結果、周囲の魔物を討伐するだけではなく、荒ぶる精霊を鎮めたほうが良いと判断された。
元々は長い時間をかけて少しずつ周囲の魔物を減らしたりして浄化を試みる予定だったが、今回が聖女がいるので一気にやってしまおうと言う事になったらしい。
今回の主役はあくまでも聖女であるナツキちゃんだ。
しかも第二師団はほぼ総出な上にあの団長も一緒にいる。
なので正直めちゃくちゃ気が楽だ。全然仕事しなくていいかも。
そう内心ほくそ笑みながら揺られていると前方から「見えてきたぞ」という声がした。
私は荷馬車の後ろにいるので前は見えないが、ようやく辿り着いたらしい。
少しだけワクワクしてきた。
■
どこからかフワリと麦の香りかする。
フォールクローの街は城下街のように華やかではないものの賑わっていた。
どこか落ち着いた田舎のようで人の温かさを感じることができる。
「トウコー、その荷物こっちにお願い」
「はーい」
いかんいかん、遊びじゃないんだ。
遊ぶにしてもまずは仕事をこなさなくては。
私は荷馬車から下ろされた荷物を浮かせて、声のした所まで移動した。
「この辺でいいですか?」
「えぇ、お願い」
「あー、トウコがいると楽でいいわー」そう言って久しぶりに再会したフェイラさんは悪戯っぽく笑う。
彼女とは暫く会っていなかったが、元気そうな姿が見られてよかった。
野営の時も色々と教えてくれて話し相手にもなってくれた。
彼女は私にとっては職場の頼れる先輩のような人だ。
「フェイラさん、怪我は大丈夫ですか」
「もうバッチリよ、トウコは?」
「私もです」
そう話していると、また別の場所から声がかかってフェイラさんは「またね」と手を振って、慌ただしく走って行った。
ルキアス団長はナツキちゃんと一緒に何処かへ行っており、現場の指揮はピエールがとっている。
一人残された私はどうしようかと考え、何か手伝えそうなことはないか周囲を探索し、いくつか荷物運びを手伝ったあたりで遠くから名前を呼ばれて振り返った。
少し離れたところで、ピエールがこっちに来いと手を振っているので、駆け足で近付けばルキアス団長とナツキちゃんもそこにいた。
「出発ですか?」
「いや、先にやることがある」
私の質問に答えたのはルキアス団長だった。
「聖女様の体力面も考えて、まずは休息が必要だ」
「私は大丈夫ですけど……」
「決定事項ですので」
「む……」
「まぁまぁ、休めるうちに休んどきましょ」
おお、相変わらずの鉄壁っぷり。
ナツキちゃんはむぅ、と不満そうに頬を膨らませているがその様子がもう可愛いです。
だが私も休息は必要だと思う。
万全の状態で挑むべきだろうし、休めるなら休んでおくべきだろう。
ナツキちゃんはピエールに諭され渋々納得したようだ。
「大地の精霊、アースドロップの神殿へは一時間後に向かう」
「了解です。んじゃついでに聖女様を宿まで送ってきますね」
ピエールは「じゃあまたな」とナツキちゃんを連れて軽い足取りでこの場を離れた。
「じゃあ私も……」
「いや、君は一緒に来てもらう」
「えぇー……」
私は思わず不満の声を漏らしたが、ルキアス団長は「武器は不要だ」とだけ言って歩き出したので私は仕方なくトボトボとその後ろをついて行く。
「あの、どこ行くんですか」
「付近の森へ偵察だ」
「えぇ……でも武器ないと私戦えないんですけど」
「君は荷物運びだ、戦う必要はない」
そうは言っても流石に不安なんだけどな。
武器持った状態で大変な目に遭っているので、手ぶらで行くのは落ち着かなかったが、そんな私の心配は杞憂で終わった。
手ぶらで森へ向かい、そこから数分もしない間に私は焚き火の前に座る事になったからだ。
簡単に何が起こったか説明すると
①十分くらい歩いて森に入る
②デカくて黒い蛇の魔物数体に囲まれる
③魔物が瞬時に切断され氷漬けに
④焚き火の前に座る私と団長
──以上。
この四ステップが移動時間よりも短い時間で行われた。
テキパキと火を起こして、捌いた黒い蛇(ブラックサーペントという魔物らしい)の一部を串に刺して焼いているルキアス団長。
「ブラックサーペントの皮は工芸品にも利用される」
「骨も牙も武器や加工品に利用され、肉は旨い」
そんな事を言いながら若干今の状況を飲み込めていない私に、ルキアス団長は木の串を渡してきた。
私は黙ったまま団長と串を交互に見る。
特産物の説明より先にこの状況を説明してほしい。
「どうした、食べないのか」
「……これ蛇ですよね」
「あぁ」
「……」
職場の上司に碌な説明無しに森へ連れてこられて、謎のジビエを食わされそうになっている。
どういう状況なんだこれ。
何かしらのハラスメントに抵触しそうだけど、具体的に何と言われると答えられない。
一先ず全く引く様子のない団長から串を受け取り、再び真剣な顔で焚き火と向き合い始めたルキアス団長へ質問を投げかけた。
「この蛇って何なんですか」
「街へ持って帰る」
「……」
そりゃ私のことを荷物運びとして連れてきてるんだから、それくらいは分かるけども。
「そうじゃなくて……これも仕事なんですか?」
ルキアス団長は自身も串を手にしながら、チラリと私に視線を送る。
「正式に依頼があったわけではない」
「じゃあ……何か目的があって?」
続けて聞けばルキアス団長は焼いた蛇の肉を一口。
それを咀嚼し飲み込んだ後、暫くしてようやく口を開いた。
「……豊穣祭で使用する食材に不足があると話しているのを聞いた」
続けてこう言った。
「ブラックサーペントの肉は高価で美味しい」
「量も多いので食材不足を補うのに適している」
「魔物を討伐しておくことで神殿までの道中の安全を確保できる」
そこまで言って、この話は終いだと言わんばかりに、黙々と肉を食するルキアス団長。
私はそれを冷めつつある串を手にしたまま黙って聞いていた。
……つまり団長は、困っている市民の為に魔物を狩るだけでなく、道中の安全も確保したと。
それを一人で行った。誰に知られるでもなく。
恐らく私が執拗に聞き出そうとしなければ、きっとこの話は誰にもしなかったんだろう。
何というか、この人って……。
「団長って……」
「何だ」
「めっちゃいい人ですね」
「…………は?」
ルキアス団長は一瞬虚をつかれたような表情をするも徐々に眉間に皺を寄せる。
私はそれが照れ隠しみたいに思えて、ちょっとだけ笑いながら蛇の肉を口にする。
噛むたびにじわりと旨みが滲む、ちょっと変わった鶏肉みたいな味がした。
「美味しいです」と感想を言ったが返事はない。
私の反応が癇に障ったのかもしれない、でも不思議とルキアス団長を怖いとは思わなかった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
次の掲載は土日を予定しています。




