25 次から次へと
バサァッと勢いよくローブを翻し腰に手を当てると、パチパチと疎な拍手が送られてきた。
「トウコさんよく似合ってる!」
「おー、似合う似合う」
ナツキちゃんからの黄色い声援と、フォークを咥えながら適当な感想を述べるピエール。
最近ではすっかり賑わいを見せるようになった倉庫屋敷では、ちょっとしたお披露目会が行われていた。
いつものサボりとは違い、珍しい事に今回はきちんと仕事としてピエールが私の第二師団の制服を持ってきてくれたのだ。
まぁ、結局ケーキ食べてるけど……制服届けてくれたのでそのくらいは良いだろう。
今日初めて着たけど気に入った。
伸縮性も良くて動きやすい、ピエール曰く防護魔法が付与されている為見た目以上に丈夫なのだそうだ。
くぅ〜格好いい! やっぱりこういうお揃いの制服って格好いいよね!
一回は誰だって憧れるよね!
「うむうむ、よく似合っておる」
「えへへ、ありがとうございまぁす」
ヘルマンさんはどこか感慨深そうに何度も頷き、ナツキちゃんも絶えず「カッコいい!」「素敵!」を連呼してくれるので思わずデレデレと調子に乗っていれば、ピエールが頬杖ついたままニヤリと口角を上げた。
「……で? トウコ、デートはどうだったんだよ」
「え? あぁ、あれはデートと言うか……」
「で、デート! トウコさんデートしたの!?」
ソファから腰を上げたナツキちゃんは、飛びかかるような勢いでこの話題に食いついてきた。
そりゃそうか、年頃の女の子だし人の恋愛の話は楽しいよね。
あの『ルキアス団長のガイド付き食べ歩き観光ツアー』から一週間経っている。
ピエールがナツキちゃんもいるこのタイミングで聞いてきたのは態とだろうなと思いながらも、別に隠すような事でも無いので素直に感想を述べた。
「社会見学」
「は?」
ピエールは顔を顰めた。
「もしくは校外学習」
「え、校外学習って……あの授業とかでやる校外学習?」
「うん」
ナツキちゃんが確認するように訪ねてきたので頷いておいた。
私とナツキちゃんの頭の中にはきっと同じ光景が浮かんでいるだろう。
うん、そんな反応になるよね。でも事実なのだから仕方ない。
一応どんな事をしたのか、詳細を話せば段々と二人から表情が消えて難問を前に頭を抱える人みたいになっていた。
「う、うん、それは確かに『校外学習』だね」
「ガキの頃、博物館連れて行かれたの思い出したわ」
「私も……美術館とかにある音声ガイドの案内を思い出しました」
「何かごめん」
折角盛り上がっていたのに空気が萎んでしまった。
そんな空気を変えたのがドアの開く音だ。
「あ、団長」
やってきたのはルキアス団長だった。
サボりではないからかピエールは逃げ出す事なくひらひら手を振っている。
しかしそれを見下ろすルキアス団長の視線は厳しいものだ。
「ピエール副団長、終わったら直ぐに戻るよう伝えていた筈だが」
「いやぁ、今から戻ろうとしてた所です」
「……」
嘘つけ、お前二個目のケーキに手を伸ばしていたくせに。
これ以上言っても無駄だと思ったのかルキアス団長はそれ以上何も言わない。
代わりに私の方を向くとそのまま背を向けて「ついて来い」とだけ言って部屋を出ていった。
私とナツキちゃんは自然と目を合わせて何だろうかと首を傾げ、とりあえず言われた通り彼の後を追って部屋を出た。
玄関先に置かれていたのは四つの横に長い箱だった。
少し先に荷馬車が見えたので、あれでここまで運んできたのだろう。
ピエールも知らないのか「何すかこれ?」とルキアス団長に聞いている。
「トウコ」
ルキアス団長に名前を呼ばれ、思わずドキリと心臓が弾んだ。
「これは君に与えられた正式な装備だ」
「装備?」
地面に横たわる重厚な木箱に近づけば「開けてみろ」と言われたので、その言葉に従って箱の蓋を持ち上げた。
太陽の光に晒されたそれは光を反射し鈍く光った。
特別飾りがあるわけではないが、一眼でそれが質の良いものだと言うことは理解できる。
その銀色の輝きに息を呑めば隣でピエールが「うわ、凄ぇ」と私の心の声を代弁する。
中に入っていたのは真新しい大剣だった。
私の使用していたものはどこか錆びていたり刃先が欠けていたがこれは違う。
「師団員にはそれぞれ入団の証に剣が贈られる。それは君が入団した証であり、君の物だ」
ピエールに協力してもらい、他の木箱も開けてみると同じ剣が入っていた。
それを浮遊魔法で持ち上げる。
「様になってんじゃん」
腕を組みそんな事を言ったピエールに、同じように腕を組みニヤリと笑いかえした。
それからお礼を言おうとルキアス団長を見上げる。
「え」
「どうした」
「あ、いや……ありがとうございます」
呆けながらお礼を言えば硬い口調で「礼を言われるような事はしていない」と返された。
うん、一瞬のことなので真偽は不明だが、恐らく私の見間違いだ。
テンションが上がって脳が都合よく捉えていたんだろう。
……あの団長が微笑んでいたように見えたのは、きっと目の錯覚だ。
「それで『豊穣祭』についてだが……」
あ、仕事の話かな。
邪魔にならないように黙っていよう。
「……」
「……」
「…………え、私ですか?」
何の話だろうかと黙っていたが、私の方を向いているのを見て、ルキアス団長はどうやら私に話しかけていたらしい事に少し遅れて気がついた。
その反応に、眼鏡の奥にあるルキアス団長の目が鋭いものへと変わる。
私が色々察して隣を見ると、ピエールは突き刺すような視線から逃れるように木箱の蓋で顔を隠していた。
「土の精霊の浄化ですよね」
そう呟いたのはナツキちゃんで、何故か緊張したような顔をしていた。
そういえば浄化……精霊の浄化も確か聖女の仕事、みたいな話は聞いた記憶がある。
ついにナツキちゃんが聖女としての力を振るう時が来たのか。
同郷の年上なだけの先輩とはいえ、自分もバーサークウルフの件で危険な目に遭っているので、心配になりそれとなくルキアス団長の方を見た。
「……精霊の浄化には僕も同行する」
私の言いたい事を理解したのか、ルキアス団長はそう言ってくれた。
つまり、私の時ほどの危険は無いと言うことか。
安心して胸を撫で下ろした。
「ナツキちゃん、気をつけて。安全第一だよ」
「ありがとう、でもトウコさんも気をつけてね」
「あはは、私はだいじょ……え?」
──何その発言。
デキる後輩へエールを送ると何故かエールが返ってきた。
え、待って、めちゃくちゃ嫌な予感するんだけど。
周りを見るとナツキちゃんの晴れやかな笑顔、ヘルマンさんの穏やかな笑顔、そしてルキアス団長の無表情にピエールが木箱から顔を半分だけ覗かせて苦笑いで「ごめん」と言ってきた。
「もしかして、私も行くんですか」
「当たり前だ。その為に君の装備を手配させたんだ」
とどめを刺したのはルキアス団長だった。
嘘だろ何も聞いてないよ。
とりあえず報告連絡相談を怠ったピエールの肩を殴っておいたが、結局私が手を痛めただけだった。
ここまで読んでいただきありがとうございました。




