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23 ホットワインじゃ酔えないぜ

「何処に行きたいんだ」

「……へ?」


 馬車に乗ってすぐ、話しかけてきたのは何とルキアス団長からだった。

 彼は腕を組んだまま仏頂面で私の言葉を待っている。


「えっと、そうですね。特には……」

「そうか」

 

 てっきり城下街に着くまで無言の時間が続くと思っていたので、話しかけてきたことに酷く驚いた。

 それ以降に会話は無かったけど。

 




「うわ、うわうわ〜〜!!」

 

 だがガタゴトと馬車に揺られていればそう時間は掛からず目的地までたどり着いた。

 そして目の前の光景に気まずさは吹っ飛んだ。

 多くの人が行き交う通りに並ぶレンガの建物。

 屋台からは食欲を刺激する香りがして、何処もかしこも賑わっている。

 あそこはカフェだろうか、可愛らしい外観の雑貨屋もある……あ、パンの入った袋を抱えた親子が出てきた、って事はあれはパン屋か!

 西洋ファンタジーの街だ。ゲームや映画でしか見たことのない風景に思わず目を輝かせていたが、直ぐにハッと隣を見る。


「あの……すみません」

「いや、構わない」


 うっわ恥ずかしい。完全にお上りさんな反応をしてしまった。


「僕が今日頼まれたのは城下街の案内だ」

「あ、そうでしたね」

「君は特に行きたい所が無いんだったな。適当に歩きながら案内するが構わないか?」


 何か硬いな……と思いつつ私が頷けばルキアス団長は歩き出した。


「ここは城下で一番賑わっている場所だ。ここを真っ直ぐ進めば噴水広場がある」

「はい」

「その更にに奥に学園があり、その横の時計塔は図書館になっていて一般人にも解放されている」

「へぇ」

 

 説明を聞きながらピエールの言葉を思い出したが……うん、デートではないね。

 社会科見学だよこれ。小学生の時にやったなー博物館とか行ったわ、懐かしい。 

 ルキアス団長の声に耳を傾けながらも、私の目はあちこちに目移りしてしまう。

 私達はそのまま大通りを並んで歩いていたが、暫くするとルキアス団長が街に並ぶ屋台へ近づいて何かを注文し、受け取ると私に差し出してきた。

 紙に包まれた温かいクレープのような食べ物……?


「ありが……あ、お金!」

「構わない。ヘルマン氏から預かっている」


 それはそれで悪い気はしたのだが、ここで変に遠慮するのも返って迷惑をかけそうだし、イマジナリーヘルマンさんがこちらにグッジョブのポーズをしているのが脳裏に過った為、ここは有り難くご好意に甘えておく事にした。

 ヘルマンさんありがとうございます! お土産ちゃんと買って帰ります!

 心の中で感謝して一口食べてみるとクレープのような見た目だが、それよりも生地がしっかりしており、中には野菜と薄く切られた肉と卵が入っていた。

 

「ガレットだ。この地方に古くから伝わる食べ物で、元は労働者の食べ物とされていたが、今ではレストランなどでも提供されていて貴族も好んで食べている」

「へー、美味しいです」

「そうか」

「ルキアス団長は食べないんですか?」

「あぁ、僕はいい……それと外では団長と呼ばないでくれ」


 え、何でだろう?

 ガレットを咀嚼しながら首を傾げると、ルキアス団長は目を少し逸らして「目立つんだ」と言った。

 成る程、言われてみれば確かに。

 魔法騎士団の団長なんて私には馴染みがなかったが、この世界だとかなり有名だよね。

 この人の場合、外見も目立つだろうし。

 

「え、じゃあ、ルキアス……さん?」


 遠慮がちにそう呼べば「それで構わない」と返された。

 それから観光ガイドの役割に徹するルキアス団長に連れられ、街を見て回った。

 話を聞く内に段々と慣れてきて、こちらからあの店は何だ、これは何だ、と質問をすれば彼はその全てに答えてくれた。

 途中、噴水広場で「あの鳥めちゃくちゃ見かけますね」なんて私のくだらない感想も拾い上げて、鳥の名前から生態まで根絶丁寧に答えるものだから流石に笑いそうになってしまった。

 そして時間が経つにつれて段々と楽しくなってきた、この人ガイドとして面白いくらい有能すぎる。 

 そこで私はこの人の面白さに気づいたのだ。

 真面目で堅物、だがこの人はいつだって真剣なんだ。

 目の前の事に常に本気で向き合っている。

 一見真逆の性質のようだが、ルキアス団長って実は結構な熱血漢なのかもしれない。

 

「……あの、団ちょ……ルキアスさん」

「どうした」


 足を止めた団長の手にはスパイシーな香りのする肉の刺さった串。

 私はそれを受け取りながらここまでの道中を思い返す。

 ガレットから始まり、果物のジュース、一口サイズのスポンジケーキに、平べったくて甘いパン、フライドポテト、そして私の手には今しがた受け取った肉串とホットワインのカップ。

 さっきからちょいちょい食べ物を渡してくるのは何なんだろう……流石にお腹が満たされてきた。

 ルキアスさんと腰を落ち着けてカフェでご飯とかしても、緊張するので私としてはこれはこれで構わないのだけど。

 もしかして食べ歩きが好きなんだろうか。


「歩き疲れたなら何処かで休むか」


 そう言ってホットワインを飲みつつ、ルキアスさんはカフェのテラス席を見た。

 気を使ってくれるのは嬉しいんだけどまだ食わせる気かよ。


「いえ、そうじゃなくて、何かさっきからご馳走になってばっかりだなって……」

「それは気にしなくていいと最初に言ったが」

「いやぁそうなんですけど」


 別のところが気掛かりというか、やっぱ気のせいじゃ無いよねこれ?

 なんて言おうか迷っているとルキアスさんは、私から目を逸らしてポツリと呟いた。


「……君はよく食べると聞いている」

「え、それは誰から?」

「ピエール副団長だ」


 ──あの野郎!!

 余計な事を言わないでほしい。 

 めちゃくちゃ食いしん坊認定されてるじゃないか。

 だからやたらと物を食わせようとしてきたのか、納得したわ、納得できないけど!!


 私はヤケになってホットワインを一気に飲み干すのだった。

読んでいただきありがとうございました。

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