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22 強制デートイベント

 出かけるのは昼前だ。

 なので私はきっかりそのくらいの時間まで惰眠を貪り、身支度を済ませて一階へ降りた。

 その時にはもう同行者の件なんて頭からすっかり消えており、お昼何食べようかな〜だとか、前にアンジェラさんが持ってきてくれたアップルパイの店に行ってみたいなぁ、なんて思っていた。

 

「ふぁ〜あ」


 昨日は遠足前の子供みたいに、目が冴えて中々寝付けなかった。

 

 私は欠伸をしながらリビングへと向かいドアを開け──



「トウコちゃん、おはよう」

「……おはよう」



 ──そのまま閉じた。

 

「スゥ……はぁー……」


 ……よし、大丈夫だ落ち着け。

 まだ何も起きていないし、見間違いの可能性もある。

 私服姿のルキアス団長なんて私は見ていない。

 

 アレ、おかしいな、まだ夢の中?

 あれだけ楽しみにしていたのにもう戻って二度寝したくなってきたぞ。

 だけどあまりにも衝撃的すぎる光景に目も頭も冴えてしまっている。

 仮に、もし仮に、あそこにいるのが氷山の擬人化ルキアス団長だったとして、私とは全然関係ない用事かもしれないじゃん。

 まさかヘルマンさんの言ってた城下街のガイドがあの人な筈が無い。

 それにほら、今は第一師団も第三師団も忙しいって話をしてたばかりだ。

 昨日ヘルマンさんが言ってた”暇な奴”に該当する?

 

「いやいや、無い無い」

「何がじゃ?」

「うおっ!」


 私が百面相している間に、いつの間にか部屋から出てきていたヘルマンさんが目の前に立っていた。


「あの……見間違いだと思うんですけど、さっき中に……」

「うむ、ルキアスじゃな」

「うぐぅ!」

 

 やっぱりかーっ!

 見間違いではなかった。

 何でよ、忙しいんじゃなかったのか!?


「そんなに嫌かのう?」

「…………いえ、嫌じゃ……無いっすよ……」

「トウコちゃん……」

 

 ヘルマンさんに憐れむような目を向けられた。

 流石に分かってますよ、私嘘つけないしすぐ顔に出るから。

 鏡がないから自分で確認はできないけど、多分相当険しい顔をしてしまっているんだろう。

 

「確かに初対面があまり良いものではなかったからのぅ、じゃが彼奴も決して悪い奴ではないのじゃ。少し不器用で頭の硬いところはあるが」

「……はい」


 おっしゃる通りで。第一印象が悪いというか、怖かったからなぁ。

 悪い人じゃないし、理不尽な訳でもないけど気難しいんだよな。

 私とヘルマンさんが廊下で向かい合っていると、後ろから足音がしたので振り返った。 


「あ、すみませんヘルマンさん。何か鍵開いてたんで入っちゃいました」

「おお、構わんよ」


 何も知らないピエールの手には小さな箱が握られていた。

 まず間違いなくこの場にいない方が良い人が真っ先にやってきてしまった。

 今すぐ帰った方がいい。


「うぃーっす。トウコー、トランプ持ってきたけどお前ポーカーできる?」

「ピエール……今日は流石にマズイから帰った方がいいよ」

「あ、団長? ダイジョブダイジョブ〜今日は団長休みだからお咎め無〜し!」

「その団長ですが今この部屋の中にいます」

「ハハッ、嘘でしょ、詰んだじゃん俺」

「ドンピエ(ドンマイピエールの略)」


 一応私は声を抑えて喋っていたが、ピエールは普通に喋っていたし中に会話は筒抜けだろう。

 説教もしくは反省文待ったなしだなこれは。

 でも自業自得だよ。

 ニッキ飴くらい身内に甘いらしいルキアス団長に精々祈るんだな。

 ピエールは掲げていたトランプの箱を持つ手を、ユルユルと下げながら私に聞いてきた。


「そもそも何でいんの団長」

「私の城下街デビューのガイドだって」


 そう言うとピエールは「はぁ?」と言う顔をする。


「団長それ引き受けたの?」

「そうなんじゃない」


「だから中にいるんだろうし」そう呟いてドアを指さした。

 それを聞いたピエールは「ふぅん」と適当な相槌の後に、とんでもない発言をする。




「じゃあデート楽しんでこいよ」

「……は?」



 今なんて言ったコイツ。

 デート? デートだって? これが?

 私も、そして高確率でルキアス団長も乗り気ではないお出かけがデートだって?

 悪質な罰ゲームの間違いだろ。

 もしもコレをデートにカウントしたら、私の人生で初めてのデートって事になるんだけど……いや、コレはデートじゃない。

 

 他人事だと思って爆弾発言を投下しやがったピエールに、私は無理難題を口にした。


「ピエール代わって」

「絶対やだよ、てか普通に仕事サボった部下と休暇中の上司が出かけるのおかしいだろ」

「そんなに嫌かのう」

「……ヘルマンさん」

「え、儂!?」


 縋るような目でヘルマンさんを見るが、当然そんな要望が通る筈もない。

 結局私が腹を括るしかないようだ。

 既にここまで来てしまっているので、ここでお帰りくださいとは流石に言えない。

 これ以上の関係の悪化はここで生きていく上で悪手しかない。

 そうだ、つまりこれは職場の飲み会のようなもの……!

 

 そう割り切って、覚悟を決めた私はドアを開けて中に入る。


 窓際で優雅にコーヒーを飲む姿は、そこだけ切り取って美術館に飾られていても違和感がないほど絵になっている。

 静かにページを捲る手が止まり、読んでいた本から顔を上げたルキアス団長の視線がこちらへ向けられた。 


「……もう良いのか」

 

 ルキアス団長は「準備はできたか?」と言うニュアンスで聞いてきているだろうが、私は違う。

 

「はい、よろしくお願いします」


 覚悟は出来ている。

 これから何が起ころうと、真正面から受け止めて、最後に立っているのは私だ。

 ……何で遊びに行くだけなのにこんなに覚悟を決めてるんだろうか私は。

 

「では行こうか」

「あ、はい」


 ルキアス団長は席を立つと、そのまま私の横を通り過ぎる。

 慌てて後を追って部屋を出ればピエールの姿はそこにはなく、ヘルマンさんが「気をつけてな」と手を振ってくれたので小さく振り返した。

 

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

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