表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/42

01 異世界生活初日で詰んだ

 あの後、見事にぶっ倒れた私が次に目を覚ましたのはベッドの上。

 高級なホテルとはまた違う、豪奢な作りの広い部屋だった。

 大きな窓からは燦々と日の光が差し込み、ワインレッドの絨毯を照らしている。

 一人なのにダブルベッドだし部屋が広過ぎて逆に落ち着かない。

 服はヨレヨレな鼠色のスウェットのままで、何ともこのロイヤルな空間と不釣り合いだ。

 あれからどうなったのか、ここは何処かも分からないし、自分の身も心配だが一緒にいた美少女の安否も気になる。

 どうすればいいのか迷っていると、部屋の扉が開きクラシカルなメイド服を身につけた女性が中へ入ってきた。

 彼女は目覚めた私に驚いた様子で「少々お待ちください」と言った後、部屋を出ていき一人の女性を連れて戻ってきた。


「こんにちは」

「こ、こんにちは……」


 これまた美人が現れた。

 白く清潔感のある服に薄い桜色の髪を緩く編んだ美女は、ベッドから降りようとする私を静止する。


「私は医者のアンジェラ・フィーレンスと言います」

宇喜多(うきた)冬子(とうこ)、です」


「トウコさんね」そう名前を呼び彼女、アンジェラさんの蜂蜜色の瞳が緩く弧を描いた。


「これから簡単な検査をさせていただきますので、少し触れますね」


 アンジェラさんはそう断りを入れると、私の手首に触れ脈を測り、目の下、それから喉の奥を見た。

 恐らく健康診断的なものだろう……まぁ私、ぶっ倒れたしな。

 最後に私の両手を握り何かを感じ取るように暫く目を伏せた後、アンジェラさんはゆっくりと手を離した。


「気分が悪かったり、どこか痛い所はあるかしら?」

「いえ、だい、大丈夫です……」

「よかった、魔力の流れも正常ね。でも体調に異変があれば言ってちょうだいね」

「まりょく」


 今この人しれっと魔力って言ったけど何?

 思わず目の前の桜色の美女の言葉を復唱すれば、微笑んだま苦しそうに眉を下げる。


「トウコさん、どこまで覚えてる?」

「えっと……何か暗い部屋で、女の子と一緒にいて、後から人が入ってきて……」

「えぇ」

「男の人とローブの人が捕まった……?」

「えぇ、そうよ」


 アンジェラさんは私の状態を見て問題ないと判断したらしく、今から地位の高い責任者を呼び、その詳細な説明をさせて欲しいと言ってきた。

 もちろん断る理由はない。


「はい、お願いします」

「……もしかしたら酷く混乱するかもしれないけれど、心の準備は大丈夫?」

 

 こちらを心配する彼女に改めて覚悟を決めて頷けば彼女も一つ頷き、側で控えていたメイドさんに一声かけて部屋を後にする。

 その後ベッドから出てメイドさんの出してくれた紅茶を飲んでいれば、暫くしてアンジェラさんと、その高官らしき人が部屋に入ってきた。

 その人物は国王の補佐官の一人だという。

 彼は謝罪をした後、この国のことや今回の件についての説明を始めた。 

 正直、予想はできている。

 これはあれだ、異世界転移的なものだ。

 フィクション作品で多く見られるジャンルの一つ。

  

【異世界召喚】──所謂、異世界から聖女や聖者と呼ばれる存在を呼び出す儀式だ。

 異世界からやって来る彼、または彼女達は特殊な浄化の力を持っているらしい。

 土地の魔力の流れを正常に戻すことで魔物の発生を減らし、未だに解明されていない呪いの解除、また聖なる力により魔物を退けることも可能だとか。

 その他にも荒ぶる精霊を沈めたり……とにかく色々と出来る、人の役に立つ救世主。


 ここまでは予想通りだった。

 しかし、ここでとんでもない事実が発覚する。

 なんと今回の召喚は望んで行われたものではないらしい。

 急に話が予想していない方向に向かうので、私は思わず「は?」と威圧的な態度をとってしまった。

 いやだって、そういう儀式って普通困った時にするんじゃないの?

 補佐官曰く、今回の異世界召喚は此処『グリフェルノ王国』の貴族の一人が国王の地位を失脚させ、自らの権力基盤を固めようとして行ったものらしい。

 確かに魔物の発生は起こっているが、異世界から呼び出すほど切羽詰まった状況でもないんだとか。

 なので、つまり……


「……事故?」

「……はい」

 

 ひくりと口の端が痙攣した。

 固まる私に補佐官の人は「それと」と何やら言いづらそうに口を開いた。

 嘘でしょ、まだ何かあるの。


「召喚されたもう一人の方……ナツキ様はこちらで鑑定した結果、聖女であることが判明しました」

「おぉっ」


 この世界には扱う魔法の適正などを計測できる鑑定の魔道具が存在するらしい。

 それで調べた結果、あの美少女ナツキちゃんは『聖属性』つまり聖女の魔法が扱えるという結果が出たそうだ。


「それで、眠っている間に身体検査も兼ねて、トウコ様の適正も調べさせていただいたのですが」

「はい」

「トウコ様には……適正がありませんでした」

「はい……はい?」


 コテン、と糸の切れた人形みたいに首が傾いた。

 鑑定の結果、私には火・水・土・風といった基本属性にカテゴライズされる魔法は使用できず、防御・補助・回復などの魔法も使えない。

 私に使えるのは【浮遊魔法】と呼ばれる、物を浮かせる魔法だけらしい。

 しかもこれ、本当に基礎の基礎で魔法と呼ばれてはいるがその実、魔法とも呼べない代物なんだとか。

 つまり私は異世界生活初日で詰んだわけだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ