18 覚醒イベントではない
何にせよ先ずは投擲。
私は回収した剣をバーサークウルフに向けて放つ。
剣は命中したものの、バーサークウルフは剣が突き刺さったままこちらに突っ込んできたので、転がるようにそれを避ける。
「いっ!?」
地面に手をついただけで痛い。
わずかな振動でも泣きそうになる。
動くだけで体のどこかしらが軋んで、もう自分じゃ骨が折れているかもわからない。
それでも体に鞭を打ち何とかオスカーさんと距離を取らせて、こちらに釘付けにする事はできた。
幸い体の大きさ的にこちらの方が小回りは効くし、浮遊魔法のおかげで距離を詰める必要もない。じわじわと防戦を強いられているけど何とか凌げている。
「ゴオオオオ!!」
「わーーーっ!?」
丁度隠れていた真横の木がバリバリと音を立てて倒れてきたので、私は叫びながら逃げ回る。
バーサークウルフは真っ赤な目をギラギラと光らせながらドシドシ地面を踏みしめこちらに向かってくる。
え、ちょ、何こいつ全然疲れないじゃん!
隠れつつちまちま剣を刺しているが、動きは止まらないどころか激しくなっている。
あれか、ゲームとかでも偶にあるけど体力が一定数減ったら攻撃力が上がる的な!?
……でもそう考えると、もしや私が攻撃したのは悪手だったのでは?
「……うーん」
しかし後悔を口にしたってもう遅い。
もう本当にフラフラで全身ズタボロ、呼吸も全然整わないし段々と痛みには慣れてきたものの何だか寒くなってきた。
いや違うな、痛みって感じなくなってきたらまずいんじゃ無かったっけ……?
おっとダメだ落ち着け、悪い方に考えるな。
私は岩陰に身を潜め、チラッと顔だけ出して様子を伺う。
ゴウゴウと喉を鳴らし熱い息を吐きながらバーサークウルフは獲物を探していた。
全然諦めるつもりはないらしい。この場合好都合ではあるが。
私は顔を引っ込めて膝を抱える。
まぁ、このまま何とか攻撃と撤退を繰り返して援軍が来るまで持ち堪えればいいか。
何か威勢のいいこと言っておいてその戦法はどうなんだとは自分でも思うけど、アタック&リトライが今のところ生存率が高い。
私だってできれば正面から格好良く戦って勝ちたかったけどさ。
今回は相手が悪いよ。
「…………ん?」
血が乾いて一塊になってしまった髪をいじる。
何となく周囲が静かになった気がして、その静けさに再び岩陰から顔を出して様子を伺う。
まさかこの一瞬で移動してしまったのかと焦ったがそんな事はなく、バーサークウルフはまだこちらにいた。
こちらに顔を向けて大きく口を開いている。
その場から動く気配はないが、代わりに何故かその口に光のようなものが集まっていた。
「ア……」
空気と塵のような光がどんどんその口に集められているのを見て確信した。
あれが森を破壊して、私とオスカーさんを吹っ飛ばした一撃だ。
そんでもってアレは無理、何せ防ぎようがない。
その辺の木とか集めても防げる気がしない。
「間に合えっ!」
私は飛び出すと、その口の中目掛けて慌てて剣を投げる。
しかし剣は突き刺さるが致命傷になっていないのか、エネルギーを貯めている動きは止まらない。
もう時間はない、その時が刻一刻と迫っている。
頭で考えるより先に私は走った。
多分だけど口からビームとか出す筈だ。
そういう類の攻撃は射線状にいるより相手の懐の方が当たらない。
そのまま突き刺さった剣のうち一本を引き抜いて、胸に突き立てると私はそこへ飛びかかる。
ズブズブと剣の沈む感覚に思わず顔を顰めたが、見上げたバーサークウルフの口に集まっていた風が止んでいた。
「やった……?」
私は剣から手を離して、バーサークウフルから距離をとった。
一歩、二歩、三歩……動かない。
「……よか」
た。まで言い切る前に、その赤色と目が合う。
ギロリと見開かれたその目の焦点は私に合わせられており、叫ぶこともできない。
魔物の牙がこちらに向けられる。
目を瞑る暇もなく、ただ目の前の光景を受け入れるしかない。
しかし私の命を奪う前に、その首は地面に落ちた。
「へっ」
次いでズズンと音を立てて首を無くした体も後ろに倒れた。
「……え、何」
何もしてないのに敵が死んだぞ。
「ま、まさか」
私か?
今まで浮遊魔法しか使えないと思い込んでいただけで、実は隠されていた潜在能力が命の危機によって覚醒した……!?
きっと、いや絶対そうだ。これが私のチート能力!?
呆然と何もない両手を見つめているとガサガサと音がしたのでそちらを振り向く。
「……」
「無事か」
「……」
「何だその顔は」
現れたのは擦り切れたボロ雑巾状態の私とは対照的に下ろしたて真っ白なシャツ……もといローブを身につけた一人の男。
メガネに白髪の神経質そうな男、私の怒りの根源であるルキアス団長が訝しげな顔でこちらを見ている。
何でここに? なんて事は聞かない。
あーそう、つまりこれは……ハイハイそう言うことね。
「……お」
「お前かよ!!」と叫ぶつもりで息を吸ったがそれが私の限界だった。
そのまま頭と視点がぐらりと揺れて、私も魔物と同じようにぶっ倒れた。
早々に気を失えてよかったかもしれない。
硬い地面の感触なんて味わいたくないので。




