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14 ラブコメと馬

 謁見は無事に終了した。

 しかし私は倉庫屋敷に戻らず、アーサー王子からのお誘いでお茶を飲んでいる。

 もちろん、ナツキちゃんと別室待機していたピエールも含めた四人でだ。


「ぎゃふん! ぎゃふんって! おまっダハハハ!!」

「……」

「あ、あはは! 無理! トウコ、おまっあっはははは!!」

「……」

「あは、ヒィ、ヒヒヒ──イダァ!?」

 

 私は爆笑するピエールの足を踏みつけた。

 人の肩をバシバシ叩きながら爆笑するからだ、天罰覿面。

 ほら見てみろ、アーサー王子とナツキちゃんに笑われてるぞ。

 ピエールが置いたティーカップがガチャンと音を立て、赤茶色の紅茶が波打つが、半分ほど飲まれていたのでテーブルクロスに溢れることはなかった。


「ふふっ……トウコ様はバルト副団長と仲が良いんですね」

「良くないですね、今絶交しました」

「もーっ! トウコさんてばそんな事言ってー」


 そう言って笑うナツキちゃんが自身の皿に乗ったケーキの最後の一切れを口に入れれば、空いたお皿にすぐに同じケーキが乗せられた。

 ベリーをたっぷりと使った甘酸っぱいタルトだ。


「ナツキはそれが好きだろう?」

「え? うん、好きだけど」


 それを乗せたのはナツキちゃんの隣に座るアーサー王子で、彼は不思議そうに自分を見てくる彼女にニコリと微笑みかける。 


「それは君の為に用意したんだ、だから沢山食べてね」

「なっ……じゃあ……いただきます」


 ……私もピエールみたいに口笛吹けたら絶対吹いてた。

 もしくは音楽をかけさせて欲しい、甘い恋の始まりを連想させるイントロの音楽とか。 

 少し気まずそうに視線を逸らしてケーキを口に運ぶナツキちゃんと、それを満足そうに見つめるアーサー王子。

 そして、それを肴にケーキスタンドに乗ったスイーツや軽食をモリモリと平らげる私とピエールの大人組。


「……いやー甘い、甘いねピエール」

「そうだな、甘い甘い。あ、紅茶のおかわりください」

「ふ、二人まで! 揶揄わないでくださいよっ!」

「あははっ、お口にあったようで良かったです」


 ピエールがチリンチリンとベルを鳴らせば、控えていたアーサー王子の執事がやってきて空いたティーカップに紅茶を注ぐ。

 ふと、執事の人と目が合うと静かに微笑み返してくれた。

 

「あっ! そんな事よりトウコさん、明後日には魔物退治に行くんでしょ?」

 

 ナツキちゃんが話題を逸らした。

 もう十分に若者の青春を楽しませてもらったので、そこは流されて上げるとしよう。

 

「うん、明後日行く」

「……私、実はトウコさんなら絶対行くって言うと思ってたの」

「え、何で?」

 

 私の怠惰っぷりを知っているだろうに、彼女の瞳には自信が満ち溢れている。

 そしてそのまま人差し指を立て、口元に持っていくと、悪戯っぽく言った。


「内緒!」

「えー、小悪魔だなぁ」

 

 王様の前で私は『ぎゃふんと言わせたい』と言ったが、当然それだけではない。

 私に特訓をしてくれて、認めてくれた人達を失望させない為にも、ここで逃げ出すわけには行かないのだ。

 後はプライドだ、私のなけなしのプライド。

 私は自らの手で悠々自適な生活を勝ち取って見せる。

 それに……王様の権限利用するのは、ちょっと狡いような気がしたから。

 時にはそういう狡さも必要になるだろうが、今回の件に関しては必要ないだろうし。


「うん、でも……やっぱり気をつけてね」 

「僕も心配だけど、そこまで悲観することもないよ」

「そうそう、大丈夫ですよ聖女様。何もトウコ一人で行くわけじゃないんだから」


 ナツキちゃんの不安げな様子を、アーサー王子とピエールがフォローする。

 私も「すぐに帰ってくるよ」と付け足そうとしてからある事に気づいた。


「青月の森って王都から近いって聞いたけど、実際どのくらいかかるの?」

「そうですね……片道一時間位でしょうか」

「それは徒歩で?」

「いんや、馬だよ」


 

 それを聞いた私が「あれ、これマズくね?」と頭の片隅でその忘れていた問題に気づいた時、ナツキちゃんも「アッ」と言う顔で私を見ていた。

 異世界人同士の目が合う。 


「……あのさ」


 そう切り出そうか考えたが『悪い事ほど先に言え』なんて言葉もある通り、隠していたって仕方がない。

 こう言うのはサクッと言ってしまった方が案外なんとかなってしまう事もあるのだ。


「私、馬乗れない」

「は?」

「馬、乗ったこと、無い」


 ピエールが、カラフルなマカロンをひょいひょい口に放り込む手が止まった。

 アーサー王子も笑顔で静止し、瞬きを繰り返している。

 

 この世界の移動手段は元いた世界と違う。

 私やナツキちゃんの世界には、車や飛行機、電車や新幹線の他、自転車やバイクもあるが、この世界にはそんなものはない。

 この世界の主な移動手段が馬であるのは理解している。

 厩舎に馬がいるのは知っていたし、実際馬車や馬に乗っている人を見かけた事もある。


 だが生憎私が乗れるのなんて自転車のみ、逆に現代だと馬に乗ることに慣れている人の方が少ないんじゃないだろうか。

 私も全く経験がないと言うわけではないが、どっかの牧場でちょっと体験したことのある程度だ。

 これは経験者とは言えないだろう。


 結果、楽しいお茶会はそこで解散となった。

 挨拶もそこそこに、和やかに手を振るアーサー王子とナツキちゃんに見送られ、絶叫したピエールに引き摺られる形で廊下へ飛び出し、服を着替えさせられ乗馬の練習をしに厩舎へと向かった。

 

 厩舎は訓練場の近くにある。 

 謁見に行ったかと思えば再び姿を表した私に、ナタナエル副団長とオスカーさんはどうしたのかと事情を聞きにきたが、私の状況を伝えるなり急遽乗馬の訓練に付き合ってもらう事になった。

 

 


 そして出発当日の朝。

 

 ここ一週間の生活により少しだけ朝が苦手ではなくなった。


「やったー! 乗れたー!」


 私は見事一人で馬に乗れるまでに成長を遂げた。

 うん、五日目の午後と六日目の丸一日を使って、なんとか乗れるようにはなったので良かった良かった……とはならず、残念ながら手綱捌きは素人同然なので同行するオスカーさんに手綱を引っ張ってもらい追従する形となった。

 ごめんね馬さん、次までにはちゃんと乗れるようにしておくよ。

 乗馬は運動にもなるらしいから、私がニートライフを勝ち取った暁にも乗せてもらおう。

 

 目的地は『青月の森』

 第一師団から第三師団までの、数名で向かう事になる。

 第一師団からはオスカーさん含めた二名、第二師団からは私と男性と女性が一名ずつ、そして第三師団から女性が一名の合計六名で向かう。

 流石にピエールは今回同行しないらしい。あれでも一応副団長だ。

 それでも見送りには来てくれたらしく、私が馬上でガッツポーズするのを拍手で称えつつ「暴れると落ちるぞ〜」と注意してきた。

 

 本来は五名で討伐に向かう予定だったが、急遽私も参加することになったので六名だ。

 「よろしくお願いします」と九十度のお辞儀で挨拶をすれば、一昨日の模擬戦の効果もあってか、本心はどうあれ受け入れてもらえた。

 しかも同じ第二師団の紺色のサラサラなショートへアをした女性は「何かあったら頼ってね」とウィンクまで返してくれるサービス付きでだ。

 エッ……思わずトキメキそうになった……女子校の王子様的な人だ。

 イケ美女の初恋泥棒だ……絶対。

 

 オスカーさんも普段通りのように見えて、他の人と何か話す様子を見るにとても真剣だ。

 魔物討伐はいつだって命懸けだ。何が起こるかわからない。


 それにしても改めて見ると、私の浮きっぷりよ。

 異世界人魔物討伐初心者……と言う点を抜きにしても私一人服装が違うのだから仕方ないけど。

 第一師団は黒と赤、第二師団は白と青、第三師団は白と赤の配色で統一されているので一眼で誰が何処の所属かわかりやすい。

 私も一応動きやすい服装ではあるし気に入ってはいるものの……やっぱ揃いの隊服とか軍服って格好いいんだよなぁ!!


「よし、最終確認は終わった。出発しよう」

 

オスカーさんの声に全員が返事をし、私も最後の挨拶にと後ろを振り返る。


「行ってきます!」


「うむ、気をつけるのじゃぞ」

「怪我したらポーション使えよー」

「ふふっ、オスカーをよろしくね、トウコさん」

「ま、初陣だし、無事に生きて帰ってこいよー!」

「縁起でもないこと言わないでください団長。トウコ殿、お気をつけて」

「トウコさん気をつけてね! 頑張って!」

「帰ってきたら土産話を聞かせてくださいね」



「……見送り多くない?」


 最初ヘルマンさんとピエールしか居なかったのに、いつの間にか増えていた。

 団長と副団長は百歩譲っていいとして、アーサー王子もいるじゃん。

 もしかして感じていた緊張感の原因ってこれだったりする?

 

 こうして、大勢に見送られながら、私は青月の森へ向けて出発するのだった。


読んでいただきありがとうございました。

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