00 プロローグ
【異世界転移】というものが実在することを身をもって体験した。
何が起こったのかわからない。
私は咄嗟に側にいた女の子の肩を抱いて身を硬くする。
この状況にビビって縋りついただけなので格好つかない。
よし……落ち着いて何があったのか思い出そう。
何処にでもいる社畜のOLに過ぎない私は残業を終えてようやく帰宅し、のんびり準備を済ませてベッドに潜り込んだはずだ。
なのに突如ベッドが光だしたかと思えば、気がつけば見知らぬ場所に座り込んでいた。
そして周りを囲む怪しげなローブの人達、一人だけ服装の違う貴族のような男性、そしてもう一人……私の側に座り込み呆然とする私より年下っぽい女の子の存在。
部屋の中には頼りない蝋燭の明かりが灯っているが、どうやらこの部屋には窓もないらしく顔などはよく見えない。
よし……何もわからないな!
人間は本当にパニックになると声も出ないらしい。
「やったぞ! 成功だ!!」
「ひっ」
急に大声を出すな、思わず変な声が出てしまった。
何が!? ここ何処!? そもそもお前誰だよ!?
言いたいことが頭の中で巡る中、今度は背後から激しい音がして反射的に振り返る。
「見つけたぞ! 取り押さえろ!!」
それは勢いよく扉が開かれた音だった。
薄暗い部屋の中に一気に光が差し込み、逆光でよく見えないが数十人近い人影が見える。
その人影は部屋の中に押し入ると、あっという間に周囲のローブの人々や貴族らしき男性を取り押さえた。
男性は大声で「邪魔をするな」だとか何とか喚いている。
立て続けに変わる状況に、ガタガタと震える中、ファンタジー作品なんかでしか見たことのない甲冑を身につけた中世の騎士らしき人物が、現在進行形で私が縋り付いている女の子に手を伸ばした。
それを私が咄嗟に、本当に反射的にその手を振り払うと、騎士らしき男性は大きく目を見開いた。
「ま、まってっ……」
声はみっともなく震える。
「あなた達は誰で、ここは何処でっわ、私達をどうするつもりですか……!」
吃逆が止まらない人みたいな話し方になってしまった。
気を失えればどれだけいいだろう、しかし私の精神はギリギリのところで踏ん張っている。
いや、もう踏ん張らなくていいから楽にしてくれ。
騎士の人も私の怯えように困っているようだ。
「あの……」
そんな時だ、女の子が私の腕にそっと手を乗せてこちらを振り返る。
大きな目を縁取る長い睫毛、日本人離れした淡黄色の髪に宝石のようなヘーゼルアイがこちらに真っ直ぐ向けられた。
彼女はそのまま今にも泣き出しそうな私に微笑んだ。
「大丈夫ですよ」
不思議と人に安心感を与える柔らかい声。
そこで私の記憶は一旦途切れる。
何故かって?
安心して極度のストレスから解放されてぶっ倒れたから。