唐揚げにレモンをかけられたのでそいつの彼女を寝取ることにした
「は?」
大学サークルの飲み会の途中、男は思わずそんな声を出した。
自分が今食べた好物の唐揚げに違和感があることに気づいたからだ。
スンスン。
周りがワイワイ騒いでいる中、食べかけの唐揚げの匂いを嗅ぐ。
ジューシーさの中に微かに混じる柑橘系の香り。
「これは……レモン?」
そう、レモンだ。
米津玄師の影響で一躍有名になったあの黄色い果物。
この唐揚げにはそのレモンがかかっている。
自分の取り皿に取ってからかけた覚えはない。
ならば何故かかっているのか。
「……取る前か」
間違いない。
唐揚げを自分の皿に取る前、大皿の時点でレモンがかけられていたのだ。
男は震える手で箸を置き、周りのサークル仲間達の手元の皿をゆっくりと観察していく。
そして、1人の皿に搾られたレモンの残骸を見つけた。
「澤村、お前か?」
「ん?」
男が声をかけた澤村こと澤村 義樹がこちらを向く。
男から見てもめちゃくちゃイケメンな彼。
そんな彼に男はレモンの残骸を指さして再び問う。
「お前が大皿の唐揚げにレモンをかけたのか?」
「あー! うん! 俺ってば気がきくだろ?」
「……そうか」
その瞬間、男は決意した。
こいつの彼女を寝取ろう、と。
◆◇◆◇◆◇
澤村 義樹には彼女がいる。
イケメンな彼氏にお似合いの美女。
男は彼女のことを徹底的に調べあげた。
「山口 由梨。身長160センチ体重50キロ。スリーサイズ上から90.61.93。父親母親妹の4人家族。好きな食べ物は寿司。嫌いな食べ物はピーマンとナス。アニメと声優が好きで特に声優の津田健一郎が大好き、か」
情報を得た男はさっそく準備にとりかかり彼女に接触した。
接触の仕方は簡単だ。
彼女の目の前で喋り続ける。
ただそれだけ。
無論、普通に喋るわけではない。
彼女が好きな声優の声や喋り方を1ミリのズレなく模倣して喋るのだ。
すると彼女のほうから接触してくる。
「え! 〇〇君の声、私が好きな声優さんに凄く似てる!」
とまぁこんな風に。
きっかけさえ作ってしまえばそれからは簡単である。
調べあげた彼女の好きなこと、好きなもの、欲しい言葉、それら全てを与えすぎないようにしながら定期的に与え少しずつ依存させていき、ある日突然連絡等を一切断つのだ。
「……私、〇〇君のこと気になってて。ごめんなさい、彼氏いるのに最低だよね私……」
「そんな事ないよ、君はなにも悪くない」
呼び出され、そんなことを言って泣く由梨を男は優しく抱きしめてそのままホテルに直行する。
「も……オ゛♡! むりぃ゛!!♡ もうイケないぃ……からぁ!!♡」
そして失神するほど絶頂させた後、その痴態をスマホで撮影し澤村に送りつけた。
澤村『は? なんだよこれ』
男『お前の彼女』
澤村『知ってるよ。どういうことだって聞いてんだよ!』
男『見れば分かるだろ』
澤村『殺す』
男『お互い合意のうえだ。じゃあな』
それから澤村は大学に来なくなり、家で首を吊った。
一方由梨もそれが原因で精神を病み、男とはすぐに別れた。
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「~♪」
数日後、男は居酒屋で好物の唐揚げを食べながら鼻歌を歌っていた。
その唐揚げにはレモンがかかっていた。