第434話 司令部での作戦会議
ミュンツァーの司令部では、ヒンデンブルクたちによる作戦会議が開かれていた。
難しい表情を浮かべて地図を見ながら、彼らは図上のコマを動かしては戻して、ということを繰り返していた。
未確認の人型魔獣もいる以上、前線からの情報を頼りに作戦を組み立てていかざるを得なかった。
「……つまり、第27師団の壊滅により敵の部隊が防衛線を突破、こちらに向けて侵攻中だと言うことだな?」
「そういうことになりますね。敵はこの一点に戦力を集中させるつもりのようで、他方面における戦闘は落ち着きつつあるとのことです。しかし小〜中型の魔獣が遊撃を行っているようで、対処には苦労しているとの報告が上がっています」
「ふむ……では、第一に対処するべきは、この突出している人型魔獣の部隊で決まりであろう。となると、第27師団の左右に展開していた第2砲兵連隊、第5砲兵連隊、及び第23歩兵連隊や第11騎兵連隊を人型魔獣の側面または後方へと移動させ、前面に我が第8軍を展開させることで、包囲陣形を完成させれば良いだろう。ルーデンドルフ、何か意見はあるか?」
「そうですな……ループレヒト元帥殿は、例の人型魔獣には砲撃が通用するとおっしゃっていましたな? であれば、第8軍到着以前より砲撃を実施し、本隊の第8軍到着以前に敵の数を削いでおくと良いでしょう。漸減邀撃作戦の陸上版とも言えますな」
ルーデンドルフは盤上の駒を動かし、人型魔獣の群れを包囲するように陣を形成した。
前面、側面、後方からの多角的な攻撃に晒されれば、いかに魔獣といえど撃滅できるだろうというのが彼の考え方であった。
ヒンデンブルクとマッケンゼンもその考えには合意したが、ループレヒトは反対はしないものの賛成もしなかった。
「……皆様に伝えそこねていたことがありますが、先の第27師団の壊滅は、例の未確認魔獣……人型のものによるものではない可能性が高いのです。というのも、付近にいた第11騎兵連隊の兵が第27師団への連絡へ向かっていた所、漆黒のドラゴンが突如として現れて第27師団を陣地諸共焼き払ったと報告してきています」
「つまり、その黒竜が現れた場合、包囲殲滅など通用することなく戦線が瓦解すると?」
「おそらくそうなるでしょう。黒竜は攻撃は山へと帰っていったようですが、いつ現れるとも限りません。戦力を分散して最悪の場合に備えることが大事ではないでしょうか?」
「戦力を分散すれば攻撃力は大幅に低下し、黒竜はおろか人型魔獣すら殲滅することは叶わないでしょう。ミュンツァーを包囲されれば兵士も、国民も士気が下がります。それは絶対に避けなければならない以上、ここで一大攻勢に出るべきでしょう」
マッケンゼンもループレヒトに攻撃の重要性を唱えた。
彼も攻撃をすべしとは考えているため、懸念は残るものの部隊を集結させて包囲殲滅することに同意した。
だが、ヒンデンブルクらとて黒竜に対する対策を考えていないわけではなかった。
ヒンデンブルクは、黒竜は空母の艦載機により撃破するのが最適であると考えた。
陸上戦力ではどうしても射程などの差が大きくでてしまい、下手に攻撃すると全滅しかねないと判断したからだ。
また、大型の飛行型魔獣との対空戦闘を満足に行えるだけの兵装を第8軍が保有していないという理由もあった。
「黒竜は、洋上に展開する海軍の艦載機によって補足・撃滅する方針で進めてはどうだろうか? そうすれば黒竜の目標と人型魔獣の目標が分散されて少しは安全になるだろう」
「分かりました。ではその方針で調整を進めましょう。……ザイエルンの戦線あこんな感じですが、ローゼンブルクも同様に戦線を張っています。しかしこちらには強力な人型魔獣などは侵攻してきていないので、しばらくはザイエルンに防御を集中させればいいと思います」
「ローゼンブルクか……正直言って、第8軍では到底この長大な戦線をカバーすることはできない。よってループレヒト元帥殿の言う通り、第8軍はザイエルンの防衛に徹することが最善であろう。ルーデンドルフ、君はどう考えるか?」
「そうですな。元帥の言う通り、第8軍はザイエルンの防衛に徹するべきであると考えます。それに加え、今回のスタンピードにおける魔獣の特徴として、人間を執拗に追いかけ回すと習性があるという報告を見かけました。それが真実であれば、ローゼンブルクの魔獣もザイエルンへとおびき寄せてそれを第8軍で撃滅すればより早いかと。少なくとも、町などに進軍させぬよう遅滞戦術を採用しつつ誘導を的確に行うことが大事であると考えます」
ルーデンドルフの言う通り、今回のスタンピードにおいて発生している魔獣は、人に大いに興味があるように見えた。
その行動様式は、今までに確認されている魔獣とは少し異なったものであった。
彼はこの習性を利用し、敵を一箇所に集めようと提案したのであった。
また、機動力に富む小〜中型魔物の誘導には、マッケンゼン率いる姫竜騎兵連隊が適任だとも主張した。
姫竜騎兵連隊は魔獣への対処能力も非常に高いため、今回の任務には最適であった。
マッケンゼンも自身の部隊を動かすことに同意した。
「では、海軍の艦載機には悪いが追加で仕事をしてもらおうか。いくら魔獣が人間に興味があると言えど、全部を統御することは至難の業だ。よって『ナパーム弾』で炎の壁を形成し、物理的に逃げ道を遮断できるようにする『ファイアーウォール作戦』を実施すると良いと考える」
「ファイアーウォール作戦には私も賛同します。早速ローゼンブルクに伝達しましょう」
ループレヒトの同意を得たうえで、イレーネ軍・ザイエルン軍・ローゼンブルク軍は大まかな今後の動きを決定した。
その後、第8軍は前線の各連隊を支援すべく、ミュンツァーを発った。
着々と会戦への時間へと時計の針が進んでいくのであった。
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