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第428話 『カイザーティーガー』と『ヤークトカイザー』

 美しい海、青い空、照りつける太陽……

俺はウルシー環礁で海を楽しんでいる……はずであった。

だが俺は今、ヴェルデンブラントの砂漠地帯にいた。


「なぜだ……少し海で遊べると思っていたのに……」


「申し訳ございません陛下。しかし本日は重要な試験ですので」


「陸軍も拡大したし、新規の兵装の開発も進展していると聞いていたからな。まあ仕方があるまい……。海に遊びに行くのはまた今度としようか」


「その時はお供いたしましょう。……さて、アレが今回試験する新型の戦車、その名も『カイザーティーガー』です」


 そう言ってロンメルが指さした先には、砂煙を巻き上げて進んでくる戦車の姿があった。

カイザーティーガー……その名が指し示す通り、ドイツ重戦車としての最終進化系のような戦車であった。

そして意外なことに、このカイザーティーガーを開発したのはイレーネの工廠ではなかった。


 カイザーティーガーの開発、試作が行われたのは、ゼーブリック王国の車両工場であった。

ゼーブリックはイレーネからの資本が入って以来、目まぐるしく重工業分野が発展していた。

数百年のブランクを一瞬にして埋めた技術革新は、彼らを戦車生産へと駆り立てた。


 事実、イレーネ本国を除く各国に配備されている戦車は、そのほぼ全てがゼーブリックで製造されたものだ。

その生産品目も初期のⅠ号、Ⅱ号戦車から、今や主流はⅤ号パンター、Ⅵ号ティーガーⅡへと移っていた。

だが、フリーデンにおいて鹵獲されたコアレシア戦車との戦闘を想定した際、力不足になる可能性があった。


 そこで、イレーネの工廠からも技術者と技術を移転し、彼らの中で大陸で使用する戦車の開発が開始された。

部品は既存のものと共通化できる部分は共通化し、出来ない部分は新造していた。

結果、今まで生産を行っていた最強のティーガーⅡとは一線を画す戦車が誕生することになった。


「カイザーティーガー……重量脅威の72トン超えの重戦車か……」


「ええ。主砲はロイヤル・オードナンスL7を60口径に改修した105mm滑腔砲で、M2ブローニングなどの副兵装も充実しています。また防御にも力を入れ、爆発反応装甲や傾斜装甲の採用など、抗堪性も高めています」


「これだけの戦車を試作できるのもすごい進歩だと思うが、生産ラインは大丈夫なのか?」


「ええ。既存のものの流用もあり、また工場自体も増築しているので生産は何ら問題有りません。開発費用や施設代金がイレーネからの援助により浮くため、安価で製造・輸出を行うことが出来、大陸における戦車のデファクトスタンダードとなるでしょう」


 第2.5世代戦車にも匹敵するこのカイザーティーガーだが、安価にして大量に生産されようとしていた。

対コアレシアの本国防衛以外にも、強大な魔獣などが現れた際の対抗策としても活用することができる。

また、ザイエルンやローゼンブルクへの輸出も検討しているようだ。


「……で、試験とのことだが、相手する戦車は誰なんだ?」


「はい。このカイザーティーガーの試験に付き合う戦車は、我らが国防軍の誇る最新鋭戦車の『レオパルトA7I』です。改良を重ねて最新のトロフィーAPSを装備しています」


 そうグデーリアンが言い、最新型に改修されたレオパルトが俺の前に姿を表した。

イレーネ帝国の保有する戦車には、トロフィーを始めとするAPSを標準装備させる改修が施されていた。

そのため、RPGなどの携行対戦車兵器への抗堪性が増していた。


 ……実はこのカイザーティーガーの試作には、裏の目的もあった。

表向きには大陸の構成国が使う戦車の開発だが、裏としてはイレーネが逆輸入して戦車の不足している『イレーネ=イギリス軍団』『イレーネ=フランス軍団』の機甲戦力の足しにするということだ。

また、帝国の機甲戦力の半分以上を占めるT-72、T-90を補完することも考えている。


「では、各種試験を開始します」


「俺はカイザーティーガーに乗って感覚を試せば良いのか?」


「そうですね……と言いたいところですが、実は工廠の連中が陛下専用の戦車を開発したようで、陛下にはそちらに搭乗してカイザーティーガー、レオパルトを同時に迎え撃ってほしいのです」


「……は? 専用??」


 驚く俺の顔を見て、グデーリアンはにやりと笑った。

……彼はかつて戦車の開発を主導していたことがある、今回もまさか彼の仕業――

そう思っている俺の前に、先程の2両よりも巨大な戦車が姿を表した。


「これは……」


「驚きましたかな? 『ヤークトカイザー』、その名の通り『狩人の皇帝』、敵戦車を狩っていく戦場の皇帝となるでしょう」


「またとんでもないものを作り上げたな……これが俺の専用車だって?」


「ええ。というのも、搭載しているチェレンコフGTE……魔石反応機関の保護用に純粋ミスリル鋼板を使用している他、車体全体が高含有ミスリル合金鋼板で構成されています。そのため軽量化と防御力の増大を実現していますが、引き換えに量産性が著しく低下しています。しかし陛下が乗る『移動用指令所』として、1両だけの製造が行われたという次第です」


 チェレンコフ……XDWPシリーズにも用いられていた機関だ。

確かにあの機関は長大な航続力を出力を誇るが、撃ち抜かれた場合機関が暴走する可能性がある。

それを極限まで排除するためのミスリル装甲だろうが、正直Uボートに回したいので量産は避けて正解だろう。


 とは言え、グデーリアンが言う通り移動指令所としての本車は、来る対コアレシア戦争において俺が全部隊に指令を出すのに有用だろう。

俺はそう思いながら、ヤークトカイザーに乗り込んだ。


「これがヤークトカイザー……車長も砲手もAIなのだろう、誰もいないな。俺は……このヘッドマウントディスプレイをつければ良いのだな」


 俺が用意されていたヘッドマウントディスプレイをつけると、戦車の車体を透過して360度の視界が開けた。

少し先にはカイザーティーガーとレオパルトが見え、既にAIにより照準が固定されていた。

さて、試験を始めるとしようか。


◯カイザーティーガー 要項


・車体長:7.92m

・車体幅:3.75m

・車体高:2.75m

・重量 :71.6t

・速度 :54km/h(整地)

     45km/h(不整地)

・航続距離:230km

・懸架方式:独立懸架トーションバー方式

・主兵装:ロイヤル・オードナンスL7 105mm砲(60口径改修、自動装填装置付き)

・副武装:12.7mm重機関銃M2×3

    OGPK(M2)

・装甲 :均一圧延鋼板(車体)

     爆発反応装甲(砲塔側面・コンタークト5)

・エンジン:DE-2000ディーゼルエンジン

・乗員:3名


◯ヤークトカイザー(ルフレイ専用車) 要項


・車体長:8.35m

・車体幅:3.72m

・車体高:2.84m

・重量 :62.4t

・速度 :65km/h(整地時)

     55km/h(不整地時)

・航続距離:3500km(魔石換装時)

・懸架方式:独立懸架トーションバー方式

・主兵装:XM297E2 56口径155mm砲(対戦車、榴弾砲並用・自動装填装置付き・主砲弾・M829A5、M982エクスカリバー)

     同主砲より遠距離指向性エネルギー兵器『LDEW』発射可能

・副武装:エリコンKCR 30mm機関砲(主砲同軸)

     エリコンSS 20mm機関砲(OGPK)

     エリコンSS 20mm機関砲(CROWS-J)

     LAHAT 4連装ランチャー

     改良型トロフィーAPS(遠距離指向性短波エネルギー兵器『LSDEW』1基)

・装甲 :高含有ミスリル合金複合装甲(車体・砲塔各部)

     爆発反応装甲(コンタークト5)

     ADS(アクティブ・ディフェンス・システム、魔石による全周囲自動防御魔法)

・エンジン:チェレンコフGTE(魔石反応利用型)

・乗員 :1名

最後まで読んでいただきありがとうございました!

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