第403話 ドリームマッチ
しばらく時間が立った後、俺たちは学園の裏手にある闘技場にいた。
前に学園内対抗戦が行われていた場所であり、生徒たちはあの時と同じように競技場の観客席に座って俺たちを取り囲んでいた。
そんな中、今回の戦闘を行う6人が、競技場の中央に立っていた。
結局ルイが補填の選手として連れてきたのは、何故か学園長であった。
というのも、生徒の誰もが俺たちとの戦闘に参加することを恐れ多いとして嫌がり、誰もでてくれる人がいないのであった。
そこで急遽担ぎ出されたのが、学園長であったということだ。
学園長は手に大きな杖を持ち、俺たちの方を鋭い目つきで見つめていた。
学園長をやっているぐらいなのだ、きっと若いときにはピカイチの才能を有していたのであろう。
そんな彼女は老いて衰えているとは言え、油断は禁物であった。
「こうして対決するのは初めてですね。ルフレイ陛下」
「そうだな。学園長としてのその実力、如何程か楽しみにしているぞ」
「ふふ、老体に鞭を打って頑張らせていただきます」
「無理は禁物だぞ。だが、全力をぜひ出してくれたまえ」
俺はかつてイズンから借り受けたままのケラウノスを手に握った。
普段から近衛兵の持ち物の中に入っているのが、今回非常に役立つ結果となった。
他の面々も各々の杖を持ち、戦いのゴングが鳴り響くのを待った。
『さあ、本日まさかの開催となった、神聖イレーネ帝国皇帝にして我が校の卒業生であるルフレイ=フォン=チェスター=エスターライヒ陛下率いるチームと、ルクスタント王国国王にして我が校の生徒であるルイ=デ=ルクスタント陛下率いるチームによるドリームマッチ! 司会は私、イレーネ帝国第一近衛連隊隊長のロバートにより行わせていただきます!』
司会席でマイクを握りながら楽しそうに話すのは、近衛連隊隊長であり、かつての第一小隊隊長でもあるロバートだ。
彼の階級はすでに中将であるが……態度においては昔と何ら変化が見えず、小隊長であった頃の彼を留めている。
そんな彼はまた、陸軍内ではロンメルやグデーリアンに次いで慕われている軍人であった。
『それでは両者準備ができたところで、早速試合開始と行きましょうか! ではいきますよ……試合、始め!』
ロバートは思いっきり机の上にあるゴングを鳴らし、試合が開始された。
俺はまずは様子見がてらに弱めの防御魔法を展開し、彼らの攻撃に備える。
だが彼らが狙ったのは、俺ではなくベアトリーチェの方であった。
「ではまずは私がいきましょうか。老人の底力を見せつけてあげますよ。『光の矢を放つ魔法』!」
学園長から放たれた光の矢は、高速でベアトリーチェの方へと向かっていった。
だが彼女はそれを、手に持っていた斧と複合した杖で切り裂いてしまった。
魔法は2つに分かれて地面に刺さり、そして消滅した。
「……驚きました。まさか魔法を切るとは」
「元魔王じゃからのう。ルフレイの付き人だと思って油断をしていると、痛い目を見るかもしれないのう?」
「……改めて、お義兄様の周りの人間は強者揃いであると実感させられますね。ですが我々だって、負けてはいませんよ? 訓練の成果、受けてください。『物質を破壊する魔法』!」
ルイの杖から放たれたのは、かつて彼らを翻弄した魔法、グランザイムであった。
グランザイムは習得難易度の高さから扱えるものは一部のメイドに留まっていたが……まさか扱えるようになっているとはな。
俺の方に飛んできたグランザイムを防ぐため、追加で数枚の防御魔法を展開した。
バリィン! パリィン!
「……防御魔法がこれほどいとも容易く、か。メイドたちのものよりも威力が高いのじゃないだろうか? 流石はルイだな」
「お褒めいただき光栄です。しかし、油断は禁物ですよ?」
「なに……まさか!」
ルイの方をよく見てみると、先程までいたフアナがいつの間にかいなくなっていた。
俺は慌てて左下を見ると、姿勢を低くした状態で彼女がこちらに突っ込んできているのが見えた。
そんな彼女に対応するべく一歩下がったが、その時、彼女の腹部にめがけてどこからか魔法が飛んできた。
「っつ! あっぶない……!」
「あら、私を忘れているのじゃないかしら? こう見えても私、強いのよ?」
フアナの腹部に向けて魔法を放ったのは、グレースであった。
彼女もイレーネ戦力となるべく、また自分の身を守れるようにと日々魔法の訓練を積んでいたらしい。
その成果が今、現れていたのだ。
「グレース、さっき使った魔法は一体?」
「あれは、ピロトキシルムを圧縮したものよ。加害半径が小さくなる代わりに速度と貫通力が向上するわ」
「そんな物があるのか、知らなかったな」
「当たり前よ。私が編み出したんだからね!」
グレースは誇らしげに言った。
まさか彼女がここまで上手く使いこなせるとは思っていなかったが……やはりルイといい、姉弟なのだな。
そうしている間にフアナは一旦引き、ルイの隣に立った。
「そちらが新技を披露するというのであれば、こちらも見せましょう」
「新技……どんな技でもかかってくると良い。受け止めてみせよう」
「あなた達……前にやっていたあれをやるつもり? 危険じゃないかしら?」
「大丈夫です学園長。練習の成果を見せてあげますよ。きちんと制御できるようになったのですから」
ルイとフアナは背中を合わせ、杖を俺の方向に向け、先端に神々しい色の光を溜め始めた。
その様子を学園長は少し不安そうな顔つきで眺めていた。
そして、その様子に何かを察知したのか、ベアトリーチェが俺と彼らの間に入った。
「ベアトリーチェ、そこは危ないぞ?」
「なに旦那様よ、妾とて戦時中に何も練習を積んでいなかった訳では無い。その成果をここで見せてやろうと思っての。妾の固有スキル【魔王】、ユグナー戦では有用に使うことができんかったが、今こそ……」
グレースはそう言い、口をパカッと開いた。
そこの間に彼女はルイたちと対象的な、禍々しい色の光の玉を溜め始める。
それは、周りにいた俺たちになんとも言えない重圧を与えるのであった。
「ではいきますよ」
「ああ、いつでもかかってくるが良い!」
ベアトリーチェがそういった瞬間、両者の魔法が放たれた。
それぞれが中央でぶつかり合い、辺り一面をまばゆい閃光が襲った。
まさに両者の本気が激突した瞬間であった。
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