第402話 久方ぶりの王都学園、そして対抗戦
湖に朝日が輝くなか、俺は櫂野大佐とともに湖畔に立っていた。
そんな俺の顔は、他から見れは非常に疲れた顔をしていた。
というのも……全部グレースのせいであるのだが。
「司令。随分とお疲れのようですね」
「本当だよ……。前まで男嫌いだったと言っていたのが本当なのか怪しいぐらいに搾り取られたからな……」
「大変ですね。でも帝国の跡継ぎ問題を解消するためには必要なことです。跡継ぎが生まれるまでは我慢してください。それまでの辛抱ですから」
「そ、そんな……」
俺は手に持っている杖に体重をかけ、湖の遠くを見据えた。
そこには、朝日が新しい時代の到来を告げるかのように、美しく輝いていた。
そんな俺たちのもとに、起きてきたグレースとベアトリーチェがやって来た。
「あなた、おはよう」
「あぁ、おはよう」
「……なぁ旦那様よ、妾抜きで楽しむのはいかがなものかと思うぞ? そうと決まったのであれば妾も混ぜて欲しかったのじゃ……」
「すまない……ただ……二人はちょっと体力的にキツイかなーと……」
そんな死にかけの俺とは対照的に、グレースは至極満足げな表情を浮かべていた。
どうやったらあんなにも体力がもつのか、不思議で仕方がない。
……今度どこかの部隊の訓練にでも紛れて、体力作りを頑張るべきかもな……。
「そういえば司令、先程ルクスタントに来ているなら是非来て欲しいと、王都学園からの通達がありました」
「王都学園か。俺は前にルイの登録をしに行ったが、ちょうどその時グレースはいなかったから、折角機会があるならば行っても良いかもしれないな。ベアトリーチェも行ったことが無いだろうから、折角ならどうだ?」
「旦那様がいくと言うのであれば、喜んで行こうぞ。少し興味もあったしのう」
「では決まりだな。行く旨を学園側に伝えてくれ。俺は……このままの格好ではまずいから着替えをしてくる」
半分寝間着のような格好のままであった俺は、一旦泊まっている宿の自分の部屋に戻り服を着替えた。
軍服に勲章を身に着け、静養をしていた格好から皇帝としての正装に戻った俺は、同じくキチンとドレスに着替えてきたグレースとベアトリーチェと合流し、王都学園に向かうべくCH-53Eに乗り込んだ。
◇
「久しぶりね。ここの土を踏むのも」
グレースはCH-53Eから降りた後、王都学園の門を楽しそうにくぐった。
俺とベアトリーチェはその後に続いて学園に入り、ベアトリーチェは興味津々にあたりを見回した。
彼女としても弟のエーリヒが通っていた学校、興味はあったのだろう。
そんな俺たちの周りには、早くも学生たちが集まってきた。
彼らがあまり近づきすぎないように近衛兵が周りに壁を作り、俺はその間から彼らに向かって手を降る。
そんな俺たちの前に、ひとりの老婆が現れた。
「お久しぶりです。私のことは覚えているでしょうか?」
「ええっと、確かこの学園の学園長ではなかったか?」
「覚えていただいて誠に光栄です、陛下。そしてグレース皇后陛下。皇后陛下にとっては久しぶりの学園でしょうから、好きなところを見て回ってください」
「そうね。そうさせてもらうわ。……後で食堂にもいかないとね」
グレースはそう言いながら、学園長に会釈して早速学内の散策に乗り出した。
彼女が先導して俺たちは学内を歩き回り、思い出の場所を巡った。
そして俺たちの学んでいた教室に向かおうとしていた時に、俺は廊下で見慣れたものを見つけた。
「これは……随分と前に俺が考案した魔石機関か。思えばこれを作ったのもいつのことであろうか」
「この機関、そういえばエーリヒがミトフェーラに送ってきたものと同型じゃな。思えばあれは旦那様が作ったものじゃったな」
「あの時から我が国、というか世界全体の近代化が始まった気がするのう。……じゃが、旦那様はそのそもどこの生まれなのじゃ? よく聞いていなかったが、ご両親にもあっていないしのう」
「それ、私も気になるわね。というか、あなたはなぜあんなにも辺鄙な島に住んでいたのかしら? それも軍隊だけはいたあの島に」
俺は痛いところを突かれ、何も言うことが出来なかった。
もうコアレシアが俺が転生者であると把握している以上、言っても良いのかもしれないが。
だがまだ混乱を招きそうであるので、俺はだんまりを決め込むことにした。
「……まあ良いわ。いつか、聞かせて頂戴」
「そうだな。俺も言うべき時が来たら言うことにしよう。その時がいつかはわからないが」
「あなたと結婚する時に随分と待たされたからね、待つことには慣れているわよ。今度はどれだけ待たされるのかしらね?」
「……さあ。それは神のみぞ知る、と言ったところかな」
俺がそう言うと、なんだか後ろのほうが騒がしくなってきた。
なにかと思って後ろを見ると、そこには学園の制服に身を包んだルイがいた。
そしてその横には、かつて交流戦で会ったことがある、サイトカインの娘、フアナであった。
「ルイ。それと隣にいるのは……フアナ嬢、で合っているな?」
「はい、皇帝陛下。覚えていただき光栄です」
「……で、ルイ。何か用かな?」
「ええ。折角お義兄様とグレース姉さまが揃っているのです。昔の学園内対抗戦……伝説として残っているあのペアで再び戦ってみませんか? 相手はもちろん我々です」
ペアの相手が妻のアンナでは無いことが少し気になったが……これは受け入れるべきかもな。
学生の前で皇帝と国王の戦いを見せて、両国間の親睦を深める、特に国家としてひとつに結びついた今、特に必要なことであろう。
ならば、早速準備を始めるとしようか。
「……まてルフレイ。妾も参戦したいのじゃが」
「それだと3人になってしまうが、ルイ、誰かもうひとり連れてきて3人には出来ないか?」
「可能です。誰か見繕ってこちらも人数をあわせましょう。あの伝説のペアではなくなりますが、これは学園のさらなる伝説として残るでしょうね」
そう言ってルイたちは、もうひとりのペアを探しに向かった。




