第399話 兵器――命を守る盾として
会談は無事に成功を収め、大陸中の国家が対コアレシアで協力するという方針が定まった。
これにより、いざという場合により迅速な対応を、足並みをそろえて行うことができるようになる。
それは単なる同盟関係だけでは成し得ないことだ。
そして同時にミラの教皇就任も決定され、コンクラーベを経ずに彼女を座につけることになった。
先の件もあり、教会側としてもあまりこちらに強く口出しをしてくることは出来ないから、反対される心配もなかった。
悪く言えば彼女は俺の息のかかった教皇、きっと教会との関係改善にも寄与してくれるだろう。
それに合わせて、ミラの教皇就任式を執り行うことが決まった。
現在、ハインリヒ聖王国の大聖堂は損傷しておりみすぼらしいので、式はイレーネ島の大聖堂で代わりに行うことになった。
だがそれまでに少し時間がある、そこで俺たちはその間に兵器類の供与などを行うことにした。
彼らに供与するべき兵器は、陸海空全ての分野に渡っている。
特にまともな空軍を持っていない諸国にとって、あのセイバーⅡに対抗できるだけの戦闘機を持つことは必須であった。
だが……供与したとしても、彼らが戦闘可能な程度にまで成熟するには、かなりの時間が掛かるであろう。
そこでその場しのぎではあるが、地対空ミサイルや高射砲を多く配備することで、本土近くまで飛来してきた敵機を撃墜しようという事になった。
配備するミサイルは高高度のものから短距離用まで、多段階の防空網を形成する必要がある。
また、ミサイルだけでなくレーダーサイトの設置も必須であった。
このため、必要となる費用は膨大なものまでに膨れ上がった。
イレーネとしても少し財政難に陥りかけている状況であり、割引は可能であるが大幅なものは難しかった。
そこで各国には、かなりの負担をかけざるを得なかった。
俺は価格の見積もりをトマスに依頼しており、その結果を報告しに彼はやってきた。
分厚い資料を持った彼は、俺の執務室に走って駆け込んできた。
そこまで急がなくとも良いのだが……と思いながら、俺は彼を椅子に腰掛けさせた。
「それで、見積金額はどれぐらいになりそうだ?」
「ざっと計算しまして……一国あたり大金貨10000枚、20兆円ほどかかります」
「それは……防空システムだけでか?」
「予備のミサイルや発射機、メンテナンス費用なども含めてですが。今後20年ぐらいに渡って、各国はイレーネへの借金地獄ですね……。これに加えて陸と海の兵器も別途でかかってくるのですから、もっとですが……」
価格高騰は仕方がないが、自国を守るためだということで納得してもらうしか無い。
無利子無担保で支払期限は100年以内、ぐらいの条件であれば、導入国も財政破綻せずにうまくいくのではないだろうか。
それでも大きな負担であることに間違いはないが。
「あとは売却する陸上兵器や艦艇群の選定ですが、やはり全国家である程度共通の規格を持っていたほうが良いかと思います」
「陸上兵器に関しては召喚したものを売却すればいいと思うが、艦艇に関してはイレーネで建造したものを売却するほうが良いと思う。というのも、コアレシアとの距離が離れているゆえ、従来型の機関を持つ艦艇では航続距離が足りない。魔石機関を搭載した艦艇であれば航続距離も長大であるから、そちらにするべきだ」
「その通りですね。ならばイレーネとブルネイの造船所をフルで稼働させなければいけませんが、一度に建造できる隻数は限られており、全国家分の数を揃えるには中々の時間がかかるのがネックですね」
「それに関しては、破壊したミトフェーラの造船所の復旧を行っていたから、じきにそれを稼働させれば建造数も飛躍的に上昇するだろう。それに割引と引き換えに各国の設備を貸してもらえば、更に加速させられるはずだ。そしてそれらを24時間体制で稼働させれば、来るコアレシアとの戦争には間に合うはずだ」
前の対ミトフェーラ戦争において破壊の限りを尽くされたミトフェーラの造船所であったが、イレーネの艦艇の修理場とするために復旧作業は行っていた。
だがゾルン島の海軍施設が思いの外使い勝手が良く、ミトフェーラ本土の海軍基地の重要性は低下し、復旧作業を停止させてその分の力をミトフェーラ本土の発展に使っていた。
「そこまで上手くいくかは分かりませんが、量産が可能でなおかつある程度の戦闘力を持つものとしましょう」
「兵装と装甲には妥協せずにな。艦の生存性がなければどれだけ量産性があろうと無意味だ。少なくとも第二次世界大戦時の重巡洋艦レベルの防御力は必要だ。敵が砲撃を使ってくるだろうし、被弾しても大丈夫なようにな」
「了解しました。では……砲撃戦になった時を考慮して、艦前部の主砲は維持しましょうか。20.3cm三連装砲を2基6門、後部にはミサイル発射基を配置して対空ミサイルや対艦ミサイル、場合によっては対地ミサイルでもいいでしょうが……を配置する、ボルチモア級ミサイル巡洋艦を踏襲する形にしましょう」
「そこは任せる……が、イレーネの艦艇ともリンクできるように、通信機能は共通化したものにして欲しい。それと、レーダーなどは最高性能のものを付けてくれ」
供与される艦艇は、基本設計を共通化した、重巡洋艦ベースの艦艇が建造されることでほぼ決定した。
艦隊に駆逐艦等の護衛艦艇や、戦艦のような火力艦が不在であるのは不思議ではあるが、その任務を一隻の重巡に担わせるマルチロール運用であれば建造手順も単純化できる。
コアレシアの脅威に備えた艦隊が、果たして戦争までに間に合うのかどうかはわからない。
だが、それでも今はできるだけの努力をするべきであろう。
それらの兵器は敵を倒すための武器となり、自らを守るための盾となるのであった。
「兵器こそが至高……それは単なる力の誇示ではなく、国民の生活に寄り添う盾である。そういうことだろう、イズン?」
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