第395話 ミラの決意
投稿を押すのを忘れていました……すみません……
ジョヴァンニが殺されたことで、再び空席となった教皇の座。
その座を速やかに埋めるべく、コンクラーベが開催される事は……なかった。
コンクラーベをするのに必要な、前教皇からの任命状が存在しないため、始めることが出来なかったのだ。
だが、そのまま空位にするわけにもいかず、何らかの方法で教皇の選出を行わなければならなかった。
そこで推挙されたのは、前回のコンクラーベにしジョヴァンニに敗れた、ミラであった。
彼女であれば前前教皇が選挙に推薦していたこともあり、十分資格はあるとされたのだ。
そしてその推挙にはまた、神聖同盟の思惑も重なっていた。
教会に対抗すうるために打ち立てられた神聖同盟であったが、その本来の敵は消え去ってしまった。
そこで神聖同盟は解消か、新たな姿に生まれ変わるかを選択せねばならなかった。
結論を言うと、神聖同盟は新たな姿に変わって存続することを選んだ。
今までの教会の対立者ではなく、新しい時代の教会のあり様を選定、共有していく国家の連合となったのだ。
その中で、イレーネの神官を務めるミラは、各国にとって最高の教皇の選択肢とみなされた。
そのため、彼女が新たな教皇の座につくことは確実視されていた。
後は彼女の意思次第であったが、今からその確認に行こうと思っている。
俺はヴェルヘルム通り……最近名前がついた、宮殿とイレーネ湾をつなぐとおりに面している大聖堂へと向かった。
大聖堂の前にグロッサー770を止め、俺は扉を開ける。
すると中では、ちょうどミラが祈りを捧げているところであった。
俺は彼女のじゃまにならないよう、長椅子に腰掛けて彼女が祈り終わるのを待つ。
「……」
「……」
ミラは何も言うことなく、じっと女神像の前から動かない。
俺もまたその背中をじっと見つめて、そのまま時間は過ぎていった。
するとその時、大聖堂の扉が誰かによって勢いよく開かれた。
「お姉ちゃん! 今日も遊ぼう!!」
入ってきたのは、戦争地などから助け出された、親を失った子どもたちであった。
彼らにこれ以上不幸が降りかからないようにと、イレーネの兵士たちが俺に嘆願してき、こうして実現していた。
中にはヒト、獣人、魔族、エルフ……様々な種族の子供がいた。
「こーら、お祈り中は静かにしてっていつも言っているでしょう?」
「えー、でも、お姉ちゃんのお祈り、つまんないんだもーん」
「そう言わないで、ね。女神様に怒られちゃいますよ?」
「……はーい。って、お兄さん、誰?」
子供のうちのひとりが、こちらを見てそう言った。
ミラも俺の方を見て、驚いたような表情を浮かべた。
彼女は子どもたちに断り、俺の方へとやってきた。
「……来ているなら、言ってくれればいいのに」
「いや、邪魔をしても悪いと思ったんでな。でも、思わぬ邪魔が入ったようであったが」
「いつものことよ。……あの子達、なんでか知らないけれども私に懐いているから」
「良いことじゃないか。聖職者が子供に慕われるのは、それは立派な聖職者だってことだよ。子供は純粋だからね」
ミラはその言葉に、嬉しさ半分、悩み半分といった表情でこちらを見た。
彼女はまだ残っていた子どもたちの方を見て、今日は帰るように促した。
彼らも彼女の意思に従い、すごすごと大聖堂をでていった。
「……で、何のようかしら? ご主人様」
「その呼び方、どうにかならないのか……? そう呼ばれるのはメイドたちからだけで十分だ……」
「そう。じゃあ陛下、改めて何のよう?」
「何のよう……そうだな、少し大事な用事だ。まあミラも座れ、座って話をしようじゃないか」
ミラは俺の隣りに座り、何も言うことはないが、何かを言いたそうにしていた。
……彼女も、ジョヴァンニが処刑されたという話は耳にしているはずだ。
なにか、彼女の中でも葛藤があるのだろうな。
「先日、前教皇のジョヴァンニが処刑された。全くと言っていいほど教皇にふさわしくない人物であるが、処刑はあまりにも残酷だ。……そしてミラ、君の父親でもある。お悔やみ申し上げる」
「良いのよ、これで。あの男を父親とも思っていないしね。……それに、これで男系直系のシルヴェルトリス家は滅亡したのよ。……彼が望んでいた、神官家としての跡取りも」
「そうか。だが親子の縁は切れないものだ。そうじゃないのか?」
「……さあ、どうでしょうね」
ミラは明言を避けたが、明らかに彼女にはいつもと違う、寂しさの色が浮かんでいた。
今の彼女には理解できないかもしれないが……親を失う、ということは自分の心にぽっかり穴が空くようである。
地球の俺は……少なくともそう感じていた。
「そんな時に申し訳ないのだが、これから新しい教皇を決定しなければならない。今、神聖同盟に加入している全国家の元首たちから、ミラ、君が推薦されてる。……どうだ、受けてくれないか?」
「私を教皇に、ね。一度はコンクラーベで負けた身だけれど、良いのかしら?」
「ああ。全員が君を推挙しているんだ、自身を持ってくれれば良い」
「……そうね。そうなのかもしれないわね」
ミラは答えを求めるように、女神像の方を向いた。
だが像は何も答えることなく、不動のままそこに佇んでいるだけであった。
彼女は視線を戻し、一息吐いてから言った。
「……分かったわ。では、私が、ミラ=ベトラルドールが、教皇の座を引き受けるわ」
「そうか、ありがとう。……信用をなくしている教会だが、その立て直しのために、全力で奔走することを期待しているよ」
「……何を言っているのかしら? 教会の立て直しには、陛下も協力するのよ。こういう時が来たときのために用意しておいた計画にも、陛下はバッチリ含まれているわよ」
「そ、そうか。まあ、俺にできることであれば何でも手伝おう」
こうして、ミラが新たなる教皇となることが決定された。
彼女は用意していた、教会の再構築のために、これから奔走することになる。
そんな彼女が望む教会のあり方……それはまさに皇帝と教皇が一体となった、『国教会』であった。
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