第384話 艦隊と燃料と雇用問題
コアレシア連邦共和国への艦隊の派遣が決まった日の夕方。
俺とスタール中将、そして他の捕虜たちを乗せたC-130はイレーネ島を離陸した。
捕虜たちはC-130に乗るまでは全員目隠しを付けられ、なるべく基地内の軍機が漏れないようにした。
そのままC-130はノルン島へと向かって飛行し、翌日の朝には同地に着陸した。
ゾルン島以外に見るものが何も無い西海上に浮かぶノルン島であるが、そこに勤務する兵士たちは楽しく過ごしているようだ。
滑走路の一角にお手製のバスケットコートが作られていたことが、それをよく表している。
「ここから隣のゾルン島に移動し、同地で待機している艦艇に乗艦してもらう」
「了解しました。にしてもここの航空機は……我々を攻撃した重爆でしょうか?」
「そうかもしれないし、そうではないかもしれないな。気にしないことだ」
「は、はぁ……そうですか」
ノルン島からボートで俺たちはゾルン島に移動した。
島の港湾には既に艦隊が待機しており、最後の補給を行っていた。
万が一のことを考えて、兵装、弾薬類は戦時と同量を搭載している。
「司令! お待ちしておりましたぞ」
「クズネツォフ元帥。ソビエト出身の君には南国のゾルン島の暑さは堪えたかな?」
「そうですね。半分バカンス気分で来たというのに、結局ガングートにこもりっきりでしたよ」
「熱いからな、仕方がない。では、これからコアレシアにつくまで、捕虜たちをよろしく頼んだぞ」
乗員数が少なく艦内スペースに余裕のあるガングートは、人員の輸送などにも適していた。
……重装甲航空巡洋艦ではなく、多機能巡洋艦に改称するべきであろうか?
まあマルチロールな艦として、イレーネ海軍でも重要な艦となっていたのだ。
そんなガングートは、今回は格納庫内に燃料タンクを設置し、緊急時の洋上給油が可能なようにしてある。
艦載機はすべて露天駐機されており、搭載数にさほどの変化はなかった。
そんなガングートの前を去り、俺は今回の遠征の乗艦であるミズーリに乗艦した。
各艦の準備が完了したことを確認したあと、艦隊はいよいよコアレシアへの航海に乗り出した。
タグボートにより港湾内の艦艇は広い外洋へと運び出され、そこで機関の出力を上げた。
艦隊はミズーリを中核に陣形を組み、コアレシアに向かって航行していく。
◇
外洋に出た艦隊は、そのままコアレシアの存在する南西方面に針路を取った。
その途中に特に困難に出くわすこともなく、航海を始めてからおよそ1日が経過した。
遠征艦隊はここで、補給艦隊と合流する手筈になっている。
「司令、補給艦隊が見えました。油槽艦5隻にミサイル駆逐艦3隻……間違いないです」
「ここで一度給油しておけば、帰りの分の燃料に少し余裕ができるからな。やはり行きの過程にも補給地点を準備しておいて正解であったな」
「そうですね。では補給の体制に艦隊を推移させます」
「ああ。失敗しないようにな」
10隻の戦艦たちは二手に分かれ、それぞれ油槽艦と平行に航行する。
その油槽艦からは給油プローブが出され、各艦の給油口に蛇管の先端部がドッキングされた。
そこから積んできた魔石油が給油されていく。
最初の方は燃料として重油を使ってきていたが、現在は魔石油へと転換されていた。
というのも、重油はこの世界では採掘できていないため、いちいち召喚して補給する必要があったのだ。
だが魔石油にすれば、無限にダンジョンから供給される魔石で作られるため、召喚の手間を省くことができるのだ。
それにより、今までは冒険者たちの稼ぎどころとして機能していたダンジョンであったが、今はもはやただの魔石の生産場と化していた。
それはルクスタント王都のダンジョンにとどまらず、他国に点在しているダンジョンでも同様であった。
だが、ルクスタントのダンジョンは俺が支配権を有しているため魔物の湧きや湧く魔物の種類を調整して効率の良い魔石の生産を可能にしているが、他国のダンジョンではそうは行かない。
しかし、魔物の殺害用としてイレーネから機関銃等の兵器が供与されているため、効率の良い屠畜は行われ、各国共に自国で消費する分の魔石油の確保は出来ていた。
そこで問題となったのが、今までダンジョンでの狩りによって生計を立てていた冒険者たちだ。
彼らはダンジョンを追われたため仕方がなく外での仕事に徹していたが、やがてその人手も供給過多になってきていた。
そのような状況では、冒険者たちの生活はどんどんと苦しくなっていくだけであった。
そこで神聖同盟下の各国では、それらの仕事を失った冒険者への保護政策を打ち出した。
彼らはイレーネの投資のもとで少しずつ工業化を進めつつある各国の工場労働者として、新たな道を歩むようになった。
給与も安定し、かつ安全であるため、各国では新婚の夫婦が増えつつあるというデータもある。
そんな中で、冒険者ギルドは時代に適応して姿を変えていっていた。
彼らは魔物の討伐などの業務を請け負っていただけであったのが、より大きな仕事の紹介状、原義的な意味での『ギルド』へと近づきつつあった。
名前を『国家ギルド』へと変えた冒険者ギルドの中には、鍛冶や農業、毛織物などの職業によって分けられたギルドが内包されるようになった。
その中で冒険者カードは、住民票のようなものとして効力を持った。
今や冒険者として活動しない人や、子供でさえもギルドに登録することが義務付けられている。
これがあれば、万が一の場合に仕事を紹介してもらうことも可能であった。
……と、イレーネ帝国だけでなく、神聖同盟の影響下では少しずつ国家の安定化が行われていた。
国内が安定しているのであれば、気兼ねなく外敵への対処に専念できるというものだ。
繁栄の象徴であるイレーネの黒金旗を掲げた艦隊は、補給艦隊と分かれてコアレシアを目指す。
最後まで読んでいただきありがとうございました!




